エデン
エルドクラフト王国。そこはとても豊かで飢える者などいないと言われるほどの国である。その王家は賢い者達が多く善政をしいている。その王家を支えるのは七大貴族と呼ばれる貴族である。七大貴族とは、ドラゴンをかたどった家紋のペンドラゴン家、竜騎士をよく輩出するドラクル家、代々大臣を務めるヴィルマ家、騎士団を束ねるシーナ家、税を徴収するゼブル家、裏を束ねるバータリプトラ家、そして建国前にこの地を治めていたルド王国の王家であったシャルル家のことである。今、この七家と現国王、エーデルフリート3世が集まっていた。
「皆、よく集まってくれた。」
「王よ、我らはあなたの家臣だ。あなたの声に応え無い事などどうしてありましょうか。」
応えたのは、金髪碧眼の男。名は、ペンノ。ペンドラゴン家当主にして傲慢の異名を継ぎし者。
「相も変わらず思ってもいない事をよく言える。」
ペンノにそう返したのは、体つきががっちりとした、それでいて暑苦しさなど感じさせない男。名は、シンラ。ドラクル家当主にして憤怒の祝福を受け継いだ者。
「二人共気を沈めてくれ。寿命が縮まる。」
そう言ったのは、禿頭で、いかにも苦労していると分かる男。名は、アトラス。ヴィルマ家当主にして大臣を努めている。その才は、嫉妬の対象となっている。
「そうですね。これ以上のお戯れは止してください。さもなければアトラス殿の頭がさらに寂しくなります。」
サラッと毒をはくのは、鎧を纏った男。名は、イワン。シーナ家当主にして現騎士団団長。全てを喰らう暴食を持って産まれた者。
「なんて生産性のかけた奴らだ。」
そうつぶやき、今年の産業についての報告書を読み始めたのは、バアル。ゼブル家当主にして強欲な者。
「皆さん、今日も元気ですね。」
そう言い笑顔を浮かべる男。名は、ノーマン。バータリプトラ家当主にして怠惰の祝福を背負った者。
「私もボケたほうがいいのかしら。」
この中で唯一の女性、マリーが言う。彼女は、シャルル家当主代行にして王国を護りし者。そして、この中で唯一王家に弓引く事ができる存在であった。
「うむ、皆いつも通りでよろしい。だが、話が進まないから今はやめてくれ。」
国王がそう言うと今まで言い合いをしていた者達は口を閉じる。
「よし、静かになったな。それじゃあ本題に入ろう。話というのは、此度マリアが産んだ子についてだ。性別は男。容姿は黒髪黒目。」
そう王が口にしたとき、七人に衝撃が走った。男だったのはまだいい。五人目だが、王家であるので優秀であるのに違いない。問題は容姿の方だ。親とは違う髪色と目の色。他国では、妻の不貞で済まされるが、この国では違う。特に黒髪黒目は…。
「聡い皆なら察しただろうが、此度生まれた子は、邪神に目をつけられた子だ。」
そう邪神に目をつけられた子。かつて神話対戦において、世界中の神を相手に戦った神。そして、全ての神を相手にして負ける事がなかった最強の神。最後は、神を皆殺しにして自分で自分を封印したと言われている。そんな存在に目をつけられたのだ、普通では無い。過去にいた全ての黒髪黒目の人は、いずれも奇跡や偉業を達成している。
「はぁ。これが一般家庭に生まれたのなら、喜ぶところですが。……王、叛逆したくなったのですが。」
「マリーやめてくれ!いや、やめてください。俺だってこんなつもりはなかったんだ。」
マリーが王に叛逆するというとシャレになら無いので、王はエーデルフリート王としてではなく、友としての振る舞いをした。まあ、単に焦って素が出ただけなのだが。
「うふふ。いえただのジョークですわジョーク。まあ、いづれにしても、その子は公開することはできないでしょうね。」
「ああ、そうだな。下手に公開すると、戦争になる。そうなると私の仕事が増えてしまう。ったく、だからあれほど子はもう作るなと言ったのに。」
ペンノはジト目で王を見る。
「自分の欲望−おさえきれなかった。後悔はしている。だが反省はしていない。」
『いや、反省しろよ!』
七人の声が重なった。
「まったく、王にはいつもヒヤヒヤさせられる。」
ここは、ペンドラゴン家の館。ペンノは、仕事が増える事を嘆きながらそうつぶやいた。
「父上、何かあったのですか?」
ペンノのつぶやきを拾ったこの少年は、ペンドラゴン家次期当主にして第一王子の付き人であるアヤト。12歳にしてすでにペンドラゴン家の全てを任せられるとペンノが思うほど優秀な少年だ。
「ああ、アヤトか。実はな王にまた男児ができた。そのことについて仕事が増える事を嘆いていたのだ。」
「またですか。はぁ、あの王にこそ色欲はふさわしいのでは。」
「まあ、そう思われても仕方のない事だ。それでだ、私はこれから新しい王子の付き人を探さなければならない。」
そうペンノが言うと、アヤトは少し驚いたような顔をして、すぐ何かを察したのか
「厄介な子が生まれたのですね。」
こう言った。
「ああ、だから優秀な付き人でなければならない。」
「となると、探すのはうちとシャルル家の方ですか。」
「まあ、そうなる。お前がなってくれれば手が省けるのだがなあ。」
「ご冗談を。そうすると私がテオに殺されます。」
アヤトはそういうとニッコリ笑いこうつけたす。
「父上頑張ってくださいね。」
「はぁ、テオドール殿下を出されたら私も本気を出さねばならないな。」
ペンノはそう言い、屋敷をでた。
「エーデルフリート様、マリア王妃様は今回のことについてなんとおっしゃっていましたか。」
マリーが王に問いかける。
「ああ、マリアはどうにか王族と同等の扱いをしてほしいと言っていた。」
マリーはそれを聞くと笑顔を浮かべた。
「わかりました。ですが先程会議で決まったように」
「ああ、あの子の事は全力で隠す。」
「わかっているならいいのです。それと、今後はこのようなことがないように。」
「わかった。」
マリーが退出すると王はため息を付いた。
「ため息をつくと、幸せが逃げますよ。」
そう王に言うのは、エルドクラフト王国王妃マリア。
「いや、この国の将来を考えていただけだよ。」
「嘘はいけませんよ。あなたがそんなこと考えるわけないでしょう。」
「ハハハ、手厳しいなあ。…ああ本当は子どもの名前を考えていたんだ。いや本当どうしよ。」
「そんなことで悩んでいたなんて。はあ…しょうがありません、私が考えましょう。そうですね……エデンなどどうでしょう。」
「エデン、なるほど楽園か。うんいいんじゃないかな。」
エルドクラフト王国第五王子エデン。彼の伝説は今始まる。