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始まり

 携帯端末に映し出された映像。津波により無残に崩壊した都市部。全ては大気圏を突き破り海に落下した『何か』が引き起こした現象だった。


 地球に日常的に降り注ぐ、飛来物のうち少し大型のものが落下したのだと誰もが疑わなかった。公式の発表ですらそうだったのだから。


 被害は大きかったが、小惑星の衝突と聞けば、終末を連想させるためにこの程度で済んだのは幸いだとすら、被害の無かった地域の人々は考えた。


 自分もその例外ではない。たぶん自分の親も、姉も、友人たちもそうだったはずだ。


 けど、異変はその数か月後に訪れた、海面に姿を現した巨大な植物。それが侵略者である事に気づいた時には全てが遅かった。


 映画などから想像した無作為に人々を襲うエイリアンの印象とは程遠い。知的生命体でもない。まして動物ですら無い。


 なのに、この静かな侵略者によって地上は5年とたたずに滅びた。


 異様な速度で空を奪っていく太い枝。急速に書き換えられる大気バランス。海岸線は遠のき、海が干上がっていく。


 やがて、遥か上空に実った巨大な果実が、地上に落ちるたびに、神の雷の如き爆発を引き起こした。


 さらに爆心地周辺の地域では得体の知れない奇病が蔓延する。みんな死んでいった。


 何故自分は感染しなかったのか。何故自分は生き残ってしまったのか。


 感染者の証たる黒ずんだ痣に浸食された白く細い手で、最後の食料を自分へと差し出した少女は幼馴染だった。


「少しだけ先に行くね」


 その言葉と共に、涙の溜まった瞳に精一杯の笑顔を浮かべて見せた彼女。その表情が頭から離れない。


――直ぐに行く...... だから少しだけ待ってて


 その約束は未だに果たされていない。何故、まだ生きているのか。


――まだ、立てるでしょう?


 いつの頃からか、失ってしまったはずの彼女の声が聞こえるようになった。繰り返される地獄の始まりを告げる声。その声に導かれて彷徨う。僅かな期待を込めた幻を追って。


 2



 さらに気の遠くなるような時を歩き続け、やがて視界に広がった巨大な壁。『人』があらゆる手段を用いても、傷一つ付けることが適わなかったそれが、世界を別つかの如く天を目指して何処までも伸びる。


 旅の終りが近づいているのだと直感する。


 少年は手を伸ばしそれに触れた。心の底から憎い。この星から何もかもを奪った。なのに、そこに触れた手に、ある種の温もりのようなものが伝わってくる。


 自然と涙が零れ落ちた。


――何故......


 少年はその場に崩れ落ちるように腰を下ろした。今日の命はまだ続くだろう。けど、これ以上歩けない。


 背中に感じる大樹の温もり。そのまま瞳を閉じる。久しぶりに感じる普通の眠りへと誘われる感覚。裏切り。




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