第七話「昼休み」
僕は愛機を転がしながらこれまでのことを振り返っていた。
あの日気を失って二日寝込んで……今日は水曜日か。
学校には叶絵が連絡してくれたみたいだから、その点は心配要らないな。
しかしまさか二日も休むことになるとは。
文武両道がモットーの僕にとってはかなり致命的だ。
内申書に響かなければいいんだがな……授業の遅れも気になる。
しかし今もっと気になるのは……やはり『夢のおねーさん』の言っていたことだ。
『次の日曜日、叶絵がある場所に行くと不幸が起こる』。
それに彼女は『魔法』という単語を使っていたような気がする。
僕は学校に着いてからもずっとそんな疑問が頭の中をぐるぐる回って授業にも身が入らなかった。
そんなこんなでいつの間にか昼休みになっていた。
こういうときは親友の『あいつ』に相談してみるかな。
僕は『あいつ』が居るであろう屋上へと足を踏み入れた。
「おっ、駒貫。やっぱここに居たか」
屋上で授業をさぼって昼寝していたであろう『そいつ』は僕の声に気付くと、ゆっくりと身を起こした。
「なんだ、なんだぁ? 人をここの主みたいに言いやがって」
悪戯っぽくそう言う駒貫に僕も悪っぽくこう言った。
「事実、そうじゃないのか? 屋上の主さん?」
あっはっは、とお互いに大爆笑してしまう。
この一見不良っぽい茶髪男子の名前は『駒貫 烈火』。
僕と同じくこの『星蛍高校』の一年生。
クラスは違うが、同じカードゲームが趣味ということもあってつるむことが多い。
僕が見た目こんなで成績もそれなりに優秀なので学内では『でこぼこコンビ』としてけっこう有名だったりする。
僕自身、こいつのことは名実ともに親友同士だと思っているし、こいつもそうなのだろう。
事実、僕達は特に待ち合わせの約束などしていなくても、昼休みここに来れば大概会える。
そんな訳で今回も僕は駒貫に相談に乗ってもらおうと思って屋上にやって来たのだった。
「お前がここへ来たってことは、もう昼休みか。じゃあ飯にしようぜ、飯!」
何故か飯の時だけは元気になるんだよなぁ、こいつ。学生の本文はどうしたんだ?
「あはは。お前、いっつも何故か既に弁当持って来てるんだもんな。今日も前の授業はサボったのか?」
と、僕は的確に突っ込みを入れる。
「ん。今日は天気が良くて昼寝日和なんでな。朝からサボりだ」
「お前らしいな」
などと僕達は昼飯をつつきながら談話する。
「ところで……お前、まーた厄介ごと抱えてるだろ?」
「うっ、鋭いな。そんな僕って顔に出やすいのか?」
「お前がここへ来るときは大概そういう時だ」
『ほぼ毎日一緒にここで昼飯食ってるだろ』と僕は心の中でだけ突っ込んでおいた。
「まあ、当たってるんだけどな。実は先日……」
僕は夢で見た出来事を駒貫に話した。
「ほほう。夢で美人なおねーさんと逢引きした、と? まあ別に俺は羨ましくもなんともないけどな。で、『日曜に悪いことが妹さんに起こるかもしれない』からって警告された、と?」
そう駒貫は僕から聞いた話を反すうした。
「まあ俺には妹はいねーからなんとも言えねーけどよ。やっぱ自分にとって大事な女の子がいたら、体張って助けるんじゃねーかな? そのお前の見た夢も、ただの夢だって言っちまえばそれまでだけどよ。俺はその『おねーさん』が夢に出てきてくれたってことも、意味のあることなんだと思うぜ?」
「そっか。ありがとな、駒貫!」
やはりこいつに相談して良かった。僕の心の中にあった迷いが晴れていく。
「あー、それから。相手に『ウザい』って思われるかもしんねーけどよ。相手の為を思ってやることに、無意味なことなんてねーと俺は思うぜ? 」
「あはは……お前、もしかしてエスパー?」
今朝妹と喧嘩したことまで見抜かれていたとは。
「そういう『想い』は、最後は通じる。お前に貸してもらったラノベにも、似たようなこと書いてあったぞ」
「ああ。何から何までありがとな、駒貫」
僕のやるべきことは、これではっきりした。
さあ、後は日曜までに綿密に計画を練らなければな。
僕は昼飯を食い終わると、屋上を後に——。
「こないだ出た新エキスパンションの開封結果まだ聞いてなかったな。良いカード出たか? 俺は——」
屋上を後にしようとした僕は駒貫に引き止められ、こないだの新弾で出たカードの自慢話を延々と昼休み中聞かされたのだった。
まあいいか。相談に乗ってもらったお礼ってことで。