第四話「目覚めた場所は……」
ん…どこだ、ここは……?
真っ暗だ。けど、何故か心地いい……。
誰かの声が聞こえる。
僕の記憶にはないが、懐かしく、しかも聞き心地の良い声だ。
『はやく……はやく私と、ケイヤクして……! でないと、取り返しのつかないことに……』
そう『声』は僕に囁く。
誰だろう? どこかで聞いたことのあるような……しかしそれでいて誰の声なのかは分からない。
「……きら兄ぃ……明良兄ぃ……」
僕の名を呼ぶ声が聞こえる。
「ん……ここは……?」
「明良兄ぃっ!
目覚めた僕を待っていたのは、妹の抱擁だった。
ここは……病院??
「ほんっと、心配したんだから。丸二日も眠り続けてたんだよ? あれから」
丸……二日? 僕はそんな眠りこけていたのか。
「二日も……自分ではせいぜい二時間くらいしか眠ってないように感じるんだがなぁ」
「ボク、先生呼んできますね」
日向君がそう言って病室を出て行った。
僕は目覚めたばかりのせいもあってか、頭に重い痛みを感じていた。
やはり日向君の性別の問題が、僕の頭に重くのしかかるのだ。
「……日向君の性別……のとだよね? 彼は家庭の事情で小さい頃から女の子の格好をさせられててね。
長いことそんな生活が続いてたからか、普段から女の子の格好をしていないと、その。体調が悪くなるみたいなの」
僕は少し考えてから、こう言った。
「そう……なのか。まあその件については帰ってから話そうか」
コクリ、と叶絵は小さく頷いた。
そこへ先生を連れた日向君が戻ってきた。
しかし——。
あの子の外見は女の子そのものだ。
流れるようなブロンドのツインテール、純白色の肌に蒼い瞳。
そして、キュロットから覗く白い細足——。
家で初めて会ったとき、正直僕は彼を見ていてドキドキしっぱなしだった。
なんか、こう。見ていてイケない気分になるのだ。
声も地声なのか作っているのか分からないが、一般的な女子中学生と遜色ない女声だった。
僕は先生に診察を受けながらも、日向君から視線を外せなかった。
それから僕は念のためにと簡単な検査を受けさせられ、どこも悪くないと言われたので退院することになった。
日向君と別れた後、僕と妹は夕暮れの帰路を歩いていた。
「……ところで叶絵。ユイナはこの二日、家に泊めたのか?」
「うん。病院は退屈で嫌だ、って言ったから家に置いてきたけどね。本人から聞いたんだけど、あの子、身寄りがないみたいなの。どういうわけか明良兄ぃを訪ねてこの町に来たらしいんだけど……話がちぐはぐでそれまでの経緯がはっきりしないのよ」
「う~ん、確かに変わった子だよなぁ」
「しばらく家に置いてあげるわけにはいかないかなぁ? 」
「それは僕の独断ではなんとも。まあ近々電話で親父殿に相談してみるよ」
家に帰ると噂の珍客が出迎えてくれた。
「あっきらおにーちゃ~ん、おっかえりぃ~!」
明るい声が玄関に響きわたる。
僕はじゃれついてくるユイナの頭を軽く撫でてやった。
本当に不思議な子だ……普段はこんな子供なのに時々大人びて見えるときもあるし。
「ただいま。良い子にしてたか?」
「うん! アニメ見ながらおにーちゃんの帰りを待ってたよっ」
そこで叶絵がユイナに話しかける。
「じゃあ今日は兄ぃの退院祝いに一緒にハンバーグ作ろっか? 材料が冷蔵庫にあったはずだよ」
『わぁ~い!』と小躍りするユイナ。
さて。夕食もいいが、解決しなければならない問題が山積みだな。
ユイナのこともそうだが、まずは妹と例の件について話をしないと。