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お兄様と呼ばないで!  作者: カブラギ Kサク
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最終話「愛しさの詰まったギシキ」

ん、そういえば良い匂いがするな……リビングのほうからだ。

そういえば今日の朝食当番は『あの子』だったな。

丁度腹も減っているし、リビングへ行ってみよう。

僕は足早に一階へと降りて行った。

「おはよう、結。今日のメニューはスクランブル・エッグかぁ、美味そうだ」

「あ、お兄様。おはよう。もう朝食できてるよ?」

そこには銀髪をポニーテールにまとめた少女……『(ゆい)』がエプロン姿で調理をしている最中だった。


僕達は三人席について朝食をとりだした。

この僕の向いに座っている女の子……結は、まあなんというか。

結名おねーさんが14歳に若返った姿……なのだ。

あの日……丁度一週間前に結名おねーさんは魔法管理者に斬られ、命を落とした……かのように見えた。

しかしあの行為は実は結名おねーさんの命を奪うためではなく、彼女の『時間を切断』するためだったのだと管理者本人はすぐ後で語った。

そして管理者はその後結名おねーさんの切断された時間を魔法で接合し……結果、切り取った分の『6年間』という時間の分だけ結名おねーさんは若返ったのだ。

管理者本人はこれを行った理由を『結名には中学生に戻って人生修行をやり直させる。それが彼女に私が下す処分だ』と語っていたが、どう考えても彼女が情状酌量してくれた結果だろうな……これは。


「でも、急な話だよねー。いきなり結ちゃんがこっちに来ることになって、学校もこっちに変わっちゃうなんて」

叶絵は口をもごもごさせながらそんなことを呟く。

そう。今日の『大事な用事』とは他ならぬ結の学校見学だ。

そのほうが色々と都合が良いということで彼女は叶絵と同じ女子校に通うことになったのだ。

しかしそれまでの詳しい経緯は僕と当事者である結と……仕掛け人である管理者様しか知らない。

これも管理者様が気を利かせて、『僕と結はいとこ同士』という事実をねつ造してくれたお蔭なのだ。

全く、魔法というのは偉大な技術だな。魔法管理者さまさまだ。

「でもわたしは嬉しいな。叶絵ちゃんと同じ学校に通えるなんて、夢みたい」

「またまたぁ、ホントは兄ぃと同じ学校がよかったくせにぃ」

などと叶絵も結に対してはざっくばらんだ。

今は仮初のいとこ同士かもしれないが、いずれそれに勝るとも劣らない絆を、二人は結んでいけるだろう。

『色んな人と素敵な絆を結べますように』。

そういう『願い』を込めて『結』と自分に名付けたいのだ、と結自身があの日語ってくれた。

だから僕は少し名残惜しかったけれど、彼女の改名を認めたのだった。


それから僕達二人は家を出て、学校見学へと向かった。

行き道を歩きながら、僕達はこれまでのことを振り返ってみた。

「でもびっくりだよなぁ。親父殿にビデオ電話で連絡してみたら『は? 何言ってんだ? お前と結ちゃんはいとこ同士じゃないか』だもんなぁ」

「うん。それはわたしもびっくりだったなぁ。戸籍まで書き変わってるなんて、凄いよね」

そこで結は安堵のため息をこぼした。白い息の暖かさが、こちらにも伝わってきた。

「わたし、今回の管理者様のご処置にはすごく感謝しているの。まさか執行猶予が付いた上に6年も若返って学生生活までやり直せるなんて……夢みたい」

「けど、夢じゃない。これは現実だ」

「ふふ、そうだね」

「そういえば結って『結名おねーさん』だた頃は20歳だったんだよな?」

僕がそのことに触れると、結はくすくすと笑い出した。

「ええ~、お兄様ぁ。女性に年齢の話題はタブーだよぉ?」

「うん、それは分かってるんだけど。僕が10年前に出会ったおねーさんはどう見ても20歳くらいだった。んでつい最近再会したおねーさんも推定20歳……どう考えてもおかしくないか?」

そこで結はふうっとため息をついた。

「魔女は共通魔法に『誘惑』の術があってね。特殊な調合素材で作られた香水を付けることで異性に幻惑効果を持たせるの。だから当時のお兄様にはわたしが年上の大人の女性に見えたんじゃないかしら?」

「な、なるほど……じゃあ10年前10歳だったってのは本当だったんだな」

「もーっ、お兄様ったら! この話はこれでおしまーいっ!!」

結が嬉しそうに可愛い怒号を響かせる。

「え、あれってーー」

結の視線を瞬時に辿ると、そこにはーー!

トラックが、突っ込んでくる!?

ダメだ、間に合わない!

ええい、一か八かっ!!?


「時間よ、止まれっ!!」


すると……立ちどころに辺りの景色は灰色になってゆく……!!

「こ、これは一体!?」

「結、屈んでっ!!」

僕は結の肩を抱きしめ、その場に屈み込んだ。

止まっていた時が動き出す……!

丁度トラック車両の下側に潜り込んだ僕達は、それで難を逃れたのだった。

走り去っていくトラックを見ながら……僕達は安堵のため息を漏らした。

「あ、あぶなかったぁ~。でも、何で僕が、魔法を??」

「多分、『契約魔法』が使えるようになったんじゃないかな? お兄様は」

契約魔法……初めて聞く言葉だ。

「契約魔法っていうのは文字通り魔女と契約した男性が使えるようになる魔法のことよ。この場合、わたしと契約したことでお兄様は『時間を止める』魔法が使えるようになったってことね」

「そんな魔法があるのか……でも今止めてられたのはせいぜい2、3秒ってとこだったな」

「あ、そうだ」

結は何か思いついたようだ。何だろう?

「お兄様、わたしと一度……ちゃんと、その……して、おかない?」

「するって、何を?」

すると途端に結はむくれっ面になってしまった。

「ぎ、ギシキよ、儀式っ! わたし達の共通語、でしょ? 今までその……ちゃんと雰囲気盛り上げてやったこと、ないでしょ? だから、今度は、ね? お兄様から。儀式とか抜きにして、ちゃんと」

僕は少し意地悪してやろうと思った。

「じゃあさ。僕の名前、ちゃんと呼んでくれよ? 何故かキミは僕のことを『お兄様』って呼び続けてるけど。それじゃあ妹とするみたいな感じで雰囲気でないだろ?」

「じゃあお兄様も、ちゃんとそう言ってよ? でないとちゃんと呼んであげないんだから」

僕は相手の言いたいことが何となく分かった。お約束、だな。


「お兄様と、呼ばないで」


僕は恥ずかしさを抑えて、そう呟いた。

「よろしい」

今度は僕のほうから……結の唇に、そっと重ねるように……した。

すごく、ドキドキする。唇を通して、相手の鼓動が伝わってくるようだ。

僕達はある意味、初めてその行為に浸ったに違いない。

恋人同士でするべき行為——全く、叶絵と日向君のことも考えを改めなくてはならないな。

口づけが終わると、結はこう僕に言った。


「これからもよろしくね、アキラ君っ!」


季節は12月末。まだまだ冬はこれからだ。

僕は差しだした結の左手を、そっと右手で握り返すのだった。








最後まで読んで下さった方々、ありがとうございます。

誤字脱字が多くて読みづらいところもあったかもしれませんが、これにてこの物語はいったん完結です。

投稿サイトでの連載はこれが初めてでしたので、拙いところも多かったと思います。

けれど最後まで書ききることができたのは読んでくれた皆さんのおかげです。

本当に、ありがとうございました。

次に書く話が練りあがったら、また投稿したいと思います。

それでは、また。

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