第十二話「停止した世界で」
「久しぶりだね、アキラ君」
そう僕に言ってくれたおねーさんの笑顔は——月並みな表現かもしれないが。
月の、女神様のようだった。
「おねーさんっ! 会いたかった!」
僕は恥ずかし気もなく、子供のようにおねーさんに抱き付いてその胸に顔を埋めていた。
ああ……柔らかくて、良い匂いだ……!
あの頃と。十年前と、何も変わっていない。姿も、雰囲気も、匂いすらも。
全てがあの頃の、綺麗な思い出のままだ。
憧れのおねーさんが実は、こんな近くにいたんだ——!
「わたしもだよ、アキラ君。でも、感動の再会は後にして。周りを見てごらん」
「これは……!?」
僕は言われるままに周りを見てみた。
そこには……色のない、モノクロの景色が広がっていた。
これは、一体……?
「今はわたしが『魔法』で時間を止めているの。あなたと契約したことで、『魔女』としての能力、つまり魔法が使えるようになったの」
『魔法』に『魔女』。夢の中で何度も聞かされた単語だ。
「けれどわたしが止めていられるのはあと三十秒が限界なの。あれを見て」
おねーさんが指さした方向を見る。
あ、あれは……!
日向君達のすぐ頭上に、インパクトすれすれの……観覧車の、車両が……!
恐らくネジが緩んでいたのだろう。
今まさにこの世界は『事故』が起こる直前で、動きを止めているのだ。
「どうすればいいか、分かるわね? アキラ君!」
考えるまでもない。
「うおおおおおおおおおっ!」
僕は、走りだしていた。
息が切れそうで、苦しい。胸が外気で押しつぶされそうだ。
でも、止まる訳にはいかない。
50メートル走は毎回9秒台の僕だけど、今回ばかりは止まる訳にはいかないのだ。
速く、もっと速く。今よりも、ずっと速く。
止まってしまえば、全てが終わってしまう。そんな気がする。終わらせたくない。
だから僕は走り続ける。二人の元へ、速く——!!
「う、うおおおおおおーーッ!!」
僕は勢い余って日向君達二人を両脇に抱える形でタックルしていた。
そして、景色は元の色に戻っていく。
その瞬間。観覧車の車両は地面に激突し、鉄の塊に変わった。
ガシャアアアン!! と窓ガラスが割れて散乱する。
「え、え??? 何、明良兄ぃ??? 何でここに? っていうかあたし、頭上に観覧車が降ってきて……えええ!?」
叶絵の表情は混乱をきわめている。
日向君は恐怖のあまり額から脂汗をいっぱい流していた。
「せ、せーふ、せーふ。あはははは」
僕は何故かそんな笑いがこみ上げてきた。
な、なんだか眩暈がする……あああ。もうダメ、だ……。
僕は不覚にも妹の胸に顔を埋める形で倒れこんでしまった。
「え、兄ぃ? 明良兄ぃ? ちょっと……」
小さな膨らみだけど、母さんと同じ匂いがする……って親子なんだから当たり前か。
そんなことを考えながら……僕の意識は、ゆっくりとブラックアウトしていった。




