プロローグ
ここは某県 冬頭市 星蛍町。
こんな名前だから知らない人は勘違いしがちだが、別にここは北国の町というわけではない。
正確には、関東の某所に位置している。
名前の由来は僕のばーちゃんが生前よく言っていたのだが、原型となった村の始まりが冬の初旬だったかららしい。
町名はこの町の名物である昆虫・カガヤキボタルから付けられたものだ。
カガヤキボタルは産卵期になるとこの星蛍町に戻ってきて交尾し、産卵するのだが、交尾する際に星の瞬きのような綺麗な輝きを放つことで一部の昆虫マニアには知られているらしい。
と、まあそれがこの物語の舞台となる町の名前の由来である。
僕の名前は 古鳥 明良。
今年高校一年生になったばかりの眼鏡の似合う知的男子だ。
今日は僕にとって嬉しいことと心配なことがある。
嬉しいことは、僕が愛好しているトレーディングカード・ゲームの新エキスパンション、つまり拡張版の発売日であること。
数か月前から楽しみにしていたそれを買うためにチャリンコをかっ飛ばして隣町の専門店まで買いに行った帰りなのだ。
下り坂ということもあり、思わず「ひゃっほーい!」などと叫びたくなる衝動を抑えているので、さっきから心臓がバクバクしっぱなしである。
だが緊張している理由——というか、さっき言った『心配なこと』がその半分なのだ。
妹が、彼氏を家に、連れてくる。
この一見五・七・五のリズムに乗りに乗っていて川柳っぽい響きの未来は、遠からず必ず、やってきてしまう。
僕は正直、妹の『叶絵』が心配で仕方ない。
妹はどういう訳か物心ついた頃から極度の男性恐怖症で肉親以外の男性が近くにいるだけで鳥肌が立ってしまう体質なのだ。最悪触れられでもすると、即座に気絶してしまうほどの拒絶反応が出てしまう。
そんな訳あって妹は幼等部から女子校通いなのだ。
しかしそんな妹が、なんと―—前述の通り、彼氏を連れてくると昨日僕の前で宣言したのだ!
これが兄として、僕はたまらなく嬉しいのだ。
そして確かめねばなるまい。
その男が、本当に妹を任せられる奴なのかどうかを。
坂道を下り終わって、僕はより一層チャリンコをぶっ飛ばして帰路を急ぐ。
さあ、待ってろよ。まだ見ぬ叶絵の彼氏ッ! お前の本気度をこの僕が見て——って、ええっ!?
いきなり物陰から影が出てきたと思った次の瞬間。
僕は愛機とともに地面に倒れこんでいた。
「てて……一体何が起こって……」
傷の痛みを堪えながらあたりを見回してみると——目の前に、見知らぬ女の子が立っていた。
年の頃は10歳前後、栗色で艶のある後ろ髪をお下げにして垂らした、赤いリボンが印象的な子だった。
髪色と対照的な白いワンピースが、より一層少女の特異性を醸し出している。
一言で言えば——妖精のように、可愛い。
僕は傷の痛みなど忘れてしまうほど、その少女に見入っていた。
初投稿です。
よろしくお願いします。




