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笑顔の為に  作者: 夜猫
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第5話『誘い』

「面白かったな」

映画館を後にした俺達は適当に街をぶらついていた。

「ええ。話題だけあって、かなり怖かったわね」

先輩は満足しているようで、パンフレットまで買っていた。

「ああ。確かにな」

呟いて隣りを見ると、えぐえぐと泣いている明日香がいた。

その様子で、今日の映画がいかに怖かったか物語っていた。

「でも、まさかラストがあんな感じで終わるとはねぇ…」

「びっくりだったな。きっと、続編を作る為だろうけど」

「そうね」

映画は、まだまだ続く感じで終わっていた。

それがストーリー的に意外で驚かされた。

「でも、映画なんて見たの、久しぶりだったよ」

「そうなの?」

確か、俺の記憶が正しいなら、子供の頃に両親とアニメを見に行ったのが最後だったはずだ。

「ああ。大概、見たいのはレンタルしてるからな」

「まだまだねぇ」

前を進んでいた先輩は、俺の言葉に肩を竦める。

そして振り返ると、後ろ向きで歩きながらため息を吐く。

「何がだ?」

「映画は劇場で見るからいいんじゃないの」

「まあな」

なるほど。

確かにその通りだと思う。

少し前ならそんな事思わなかっただろうが、映画館で見た後なら、先輩の言葉の意味もわかる。

とにかく、迫力が違うのだ。

劇場で公開する事を目的として作ってあるのだから、映画館で見るのが正しい形だろう。

「良かったら、また一緒に映画見に行きましょう」

「デートの誘いか?」

「それでもいいわよ」

俺はからかい口調でニヤリと笑う。

先輩はそんな俺にニコリと笑って、さらりと返した。

俺の冗談も軽く流してしまう辺り、さすがとしか言い様がない。

「敵わねぇな」

「ふふっ」

俺が肩を竦めると、先輩は楽しそうに笑った。

「……」

本当に楽しそうな笑顔で、俺はそんな先輩に見とれてしまった。

先輩といると、とても楽しかった。

「…どうしたの?」

突然、目の前に、俺を覗き込む先輩の顔が間近にあった。

一人、思いに耽っていたせいで、先輩の接近に気が付かなかった。

「な、何でもない」

顔が紅潮していくのが自分でもわかった。

心臓が早鐘のように鳴っている。

「変な拓哉くん」

「変とはひどいな」

クスクスと笑う先輩に、俺は仏頂面で抗議した。

そんな俺を見て、先輩はまたクスクスと笑っていた。

そして、また最初のように少し前を歩き始めた。

「さてと…これから、どうしよっか?」

先輩が肩越しに聞いてくる。

腕時計で時間を確認すると午後三時…まだ帰るには早過ぎる。

せっかくの土曜日だ、もう少し遊びたい。

だけど、それには一つ問題があった。

「取りあえず、飯食わないか?」

学校が終わってから、全然飯を食っていなかったせいで腹がペコペコだった。

夕飯まではさすがに保たない。

「確かにお腹が空いたわね」

「だろ?だから、そこら辺で適当に…」

「せっかくだから、家に来る?」

「え…?」

俺の言葉を遮るように言った先輩のセリフに思わず言葉に詰まってしまう。

今、何て言った?

家に来る?

「どうかした?」

「えっと…家って言うのは自宅?」

「そうよ」

何だか思考が停止しているのか、馬鹿な事を聞いてしまった。

先輩は俺を訝しげに見ながら頷いた。

「えっと…その…自宅ってまずくないか?」

「そう?」

疑問符を浮かべて首を傾げる先輩。

もしかしたら、先輩は俺を男と思ってないのかもしれない。

ここはビシッと、自分が男性である事を告げておかなければ…。

「先輩。俺だって男なんだぜ」

「もちろん。知ってるわよ」

「……」

何だか会話が微妙に噛み合ってない気がする。

別に性別の事を言いたかった訳ではなかったんだが…。

「拓哉くんが何が言いたいのかわからないけど、女の子…しかも、年上の手料理が食べられるなんて滅多とないわよ。男なら四の五の言わずについてらっしゃい」

「…はい」

「よろしい」

逆にビシッと言われてしまった。

先輩の気迫に気圧された俺は、頷くしか術がなかった。

そんな俺を満足そうに見て、先輩はスタスタと歩き出す。

俺は苦笑して肩を竦めると、先輩の後を追い掛けた。

「ところで、先輩の家って、どこら辺なんだ?」

「ここから、そんなに遠くないわよ」

聞くと、歩いて十分程の場所にあるらしい。

確かに、大した距離じゃない。

せっかくのお呼ばれだ、楽しまなくては。

そんな事を考えて、一人ニヤニヤしている時だった。

「おい、雨宮っ!」

誰かが先輩を呼び止める。

声を掛けたのは、同じ制服を着た男性。

先輩のクラスメートだろうか?

「少し待ってて」

「……」

俺の一言呟いて、男性の元へ向かう先輩に沈黙してしまった。

いや、先輩の変貌ぶりに声が出せなかった。

冷たい…いや、無感情だった。

それは最近接してきた先輩とは全く違って、どこか生きている人間ではないような印象を受けた。

そんな先輩を見るのは二度目だ。

そう…初めて先輩に出会った日も似たような雰囲気だった。

少し離れた場所で話をする先輩と男性を眺めながら待っている。

何を離しているのだろうか?

というか、あの男は一体、先輩とどんな関係なのだろうか?

考えると、胸に焦燥感が沸き上がってくる。

それにしても、相手の男…何だか気に食わない。

先輩と話すあの下卑たニヤニヤとした笑い…時折、俺の方を見ては馬鹿にしたように鼻で笑っているのが、ここからでもわかる。

先輩の知り合い、と自分に言い聞かせて怒りを抑える。

しばらく話すと、先輩は男と別れ、俺の元へ戻ってきた。

「行くわよ」

「あ、ああ…」

未だ、無表情のまま先を歩く先輩に戸惑いながらも、俺は何も聞けずに後ろからついて行くしかなかった。

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