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笑顔の為に  作者: 夜猫
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第36話『エピローグ』

「暑い…」

梅雨が明け、ジリジリと照り付ける太陽を手で遮りながら、俺は屋上でだらけていた。

吹き出し、滴り落ちる汗を腕で拭う。

「何で、夏休みに学校に来なくちゃならねぇんだ?」

あまりの暑さから、俺は、つい、ぼやいてしまう。

本当ならば、せっかくの夏休みだ、ダラダラと過ごしたり、遊び回ったりしてるはずだった。

それが…何が悲しくて学校に来なくちゃいけないんだ。

理由は一つ。

期末試験で赤点をとってしまったからだ。

つまり、俺は補習の為に学校に出てきたという訳だ。

「はぁ…」

深々とため息を吐く。

補習はようやく終わった。

これから、帰るところだが、その前に屋上で一休みしようと思ったのだ、が…。

「暑過ぎる…」

はっきり言って、暑さでゆっくり休むどころではない。

こんな事なら、食堂でジュースでも飲んでいれば良かった。

「帰ろう…」

俺は暑さからトボトボと屋上を後にした。

校舎の中に入ると、暑さはいくらか緩和された。

部活や補習があるとはいえ、校舎の中はいつもより静かだった。

生徒も随分少ない。

階段を下へと降りていると、見知った顔と出くわした。

それは、都築だ。

「よう、都築先輩。夏休みの学校で何してるんだ?」

「お前こそ…」

からかうように、聞いてみる。

理由なんて、聞かなくたってわかる。

どうせ、俺と同じ補習で呼び出されたに違いない。

それをわかって聞いているのは、都築だってわかっている。

だからこそ、不機嫌な声で返すのだ。

「俺は部活さ」

「俺だって似たようなもんだ」

補習なんて言わずに、俺は平然と部活と言って返した。

都築も素直に補習だとは認めない。

お互い、相手が補習だという事はわかっている。

ただ、素直に認めたくないだけだ。

しかも、相手には補習だと認めさせたいという考えだから質が悪いったらありゃしない。

俺と都築は次の一手の為に、睨み合い、長考にはいる。

「……」

「……」

しばらくの間、お互いに決め手がないまま、沈黙が続く。

「都築くん。補習終わったんですか?」

その沈黙を破ったのは、階段を上がってきた香澄さんだった。

「…ぐ…」

「はっはっは。やっぱり、補習だったんじゃねぇか」

いきなり、香澄さんに補習である事をばらされた都築は小さく呻いた。

対照的に、俺は勝ち誇って都築を指差し高笑いをあげる。

勝った…と思ったのも束の間だった。

「こんにちは、拓哉さん。補習、頑張ってますか?」

「な…っ!」

いきなり、俺まで補習をばらされた。

ぐはっ…。

あまりに唐突な香澄さんの攻撃に、俺は金魚のように口をパクパクとさせた。

これを見て、ここぞとばかりに都築が反撃に出た。

「てめぇも人の事笑える立場じゃなかったんだろうがっ!」

「うるせぇ!」

俺は声を荒げた。

その言葉に二人共、一気にヒートアップしてきた。

お互い、相手の胸倉を掴み睨み合う。

まさに一触即発。

しかし…。

「二人共、いつも仲が良いですね」

ニコニコと微笑みを浮かべて、香澄さんが呟いた。

本気で言っているのか、わざとなのか…。

「仲が良いように見えるのか?」

「見えますね」

はっきりと言われてしまった…。

さすがに、俺も都築も毒気を抜かれる。

手を離して、ため息を吐いた。

「俺、帰るわ」

「ああ。気をつけて帰れよ。行くぞ、香澄」

疲れた顔で手をヒラヒラと振って、階段を降りる俺に、こちらも疲れた顔の都築が声を掛けて、香澄さんを連れて廊下を歩いていった。

まったく、香澄さんは相変わらずだ。

話では香澄さんと都築は付き合っているらしいのだが…。

都築も大変だろうな。

そう考えずにはいられなかった。

学校を出た俺は、待ち合わせの場所である神社へと向かう。

用水路沿いの道を手を団扇代わりにパタパタと扇ぐ。

大して涼しくもならないが、こんなのは気分の問題だ。

ダラダラと歩いていると、不思議な事に背中が涼しく…いや、寒くなる。

これは…殺気!?

振り向く事なく、ワンステップして横に避けた。

何て華麗な俺…。

してやったりと自己陶酔する俺は、そのまま弾き飛ばされていた。

「ぐはっ…」

「よし!」

見ると、いずみは嬉しそうにガッツポーズをしていた。

何故だ!?

俺はいずみの殺気を感じ取り、完璧に避けはずだ!

困惑する俺に、いずみが見下すように立っていた。

「な、何で…」

「避ける事まで折り込み済みで攻撃したからだよ」

「どんだけ、凄い格闘家だよ…お前は?」

つい、言ってしまう程、いずみのとった行動は驚嘆に値した。

ていうか、いずみって何者?

俺は埃をパンパンと払いながら立ち上がる。

俺には一つ気になる事がある。

それを、どうしても、いずみに聞いておかないといけない。

「なあ、いずみ…」

「何?」

いずみは可愛らしく、小首を傾げる。

だけど、この姿に騙されてはいけない。

外面は可愛い小学生でも中身は凶悪な悪魔のような奴だからだ。

次の質問の答えで、それが証明されるだろう…。

「何で蹴ったんだ?」

「別に。理由なんてないよ。ただ、何となく蹴りたかったから」

「コンチクショーーーッ!」

やっぱりーーーっ!

思った通りの言葉に、俺は泣きながら逃げるようにして、その場から駆け出した。

そんな俺を、いずみはニコニコとした笑顔で手を振りながら見送った。

涙で前が見えない状態で走った俺は、気付けば神社までたどり着いていた。

偶然とは不思議なものだ。

俺は階段を上がっていく。

ここに来るのは久しぶりだった。

そう…あの日以来…。

そして…。

「遅いわよ」

手を腰に置いて、目を吊り上げた薫が仁王立ちしていた。

「悪い。色々とあったもんでな」

「言い訳しない!」

いつものように、ぴしゃりと言われる。

薫は男の遅刻にはうるさい。

明日香と一つになった薫は、それ以前と何ら変わったところは見受けられなかった。

本当に一つになったのだろうか?

そんな事すら疑ってしまう。

だけど…たとえ、そうだとしても構わない。

薫は生きているのだから…。

「色々の一つにはいずみに蹴られた事も含まれるんだけど…」

「い、言い訳…し、しないの」

ジト目で睨む俺に、気まずかったのか、薫は目を逸らす。

さすがに、動揺しているのか、少しどもっている。

「まったく…」

「それより、今日はどうするの?」

まるで、誤魔化すように、薫は話題を変える。

仕方ない。

乗せられてやろう。

「そうだな…映画でも見に行くか」

「面白い映画…やってるの?」

「ああ。なかなかに怖いホラーだぞ」

ホラー好きの薫にぴったりだと目をつけていたのだ。

だけど…。

「怖いのは嫌いよ」

「え…?」

変化…。

それは確かにあったのだ。

俺の脳裏にはホラー映画に涙目になる明日香の姿が浮かんでいた。

間違いなく、明日香の魂も薫の中で生きている。

「そう…だな。だったら、お薦めの映画があるぞ」

「何…?」

「アニメだ。かなり感動するぞ」

俺はゆっくりと空を見上げた。

太陽は焼けるような日差しを降り注いでいる。

まだまだ、夏は始まったばかりだ。

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