表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔の為に  作者: 夜猫
30/37

第30話『明日香と先輩』

「拓哉くん…今、何て言ったの…?」

次の日の放課後、先輩との帰り道に、俺は昨日わかった事を説明した。

先輩は明日香を殺していない、と…。

先輩は信じられないといった表情で聞き返してきた。

それはそうだろう。

ずっと、自分が殺したと思っていたのだ。

簡単に納得できる訳がない。

「先輩、突き落としたって言ってただろ?」

「う、うん」

「あれが、ずっと、引っ掛かってたんだ」

そう。

俺の中に生まれた違和感の正体とはそれだったのだ。

俺は先輩に話して聞かせる。

記事に事…。

明日香の死因…。

そして、いずみを襲った犯人こそが、明日香を殺した犯人と同一だという事を…。

先輩は黙って聞いていた…。

今、何を考えているのだろう?

自分が殺していないという事でホッと安堵しているのだろうか?

それとも、怒りではらわたが煮えたぎっているのだろうか?

表情からは読み取れなかった。

「そっか…」

全部、聞き終えた先輩の最初の言葉は案外素っ気ないものだった。

「あっさりしてるもんだな」

かなり意外だった。

いずみの時、先輩はあれだけ怒っていたのだ、もっと、怒りを露わにするもんだと思っていた。

「だって、責められないわよ」

「え…?」

「私も犯人と何ら変わらないでしょ」

「……」

何も返せなかった。

慰めの言葉なんて言えるはずもない。

昨日、ミコトが言った事を先輩はわかっていたのだ。

「だけど…だからって、許しちゃいけないよね」

それは怒りでも軽蔑でもない。

これ以上、少女達を傷つけさせない為に犯人を止めたいという気持ちだった。

「ああ。そうだな」

もちろん、高校生の俺達にできる事なんて、たかが知れてる。

それでも、何ができるか考え始めた。

「何か有効な手掛かりがあればいいわね」

「手掛かりね…そういや、一つおかしい事があるな」

「おかしい事…?」

「ああ。昔と今の犯人が同一だとしたら、間がないんだよ」

それは、記事を調べていてわかったのだが、明日香の事件を最後に起こらなくなった。

そして、最近、また事件は起こり始めたのだ。

これは、この事件に何か手掛かりになるのだろうか…?

「そう…なの…」

何か考えるように、先輩は口元に指を置いて俯いた。

「先輩?」

「な、何!?」

声を掛けると、驚いたように顔を上げる。

余程、考えに耽っていたようだ。

「いや、何かわかったのかと思って…」

「ううん。別に何もわからないわ」

俺の言葉に首を横に振る。

だけど、何だか様子がおかしい。

どうしたというのだ?

「先ぱ…」

「いけない。そろそろ、いずみを迎えに行かなくちゃ」

不審に思い、問い質そうと口を開いた俺を遮り、慌てた様子で立ち上がる。

どうも、誤魔化しているような気がする。

しかし、こうなると聞いても答えて貰えないだろう。

仕方なく、俺も立ち上がる。

「そうだな。迎えに行くか」

「ええ。行きましょ」

スタスタと歩き始める先輩の後ろをため息を吐きながら、ついて歩いた。

先輩は、いずみと学校で待ち合わせているらしく、向かったのはいずみの通う小学校だった。

いずみは、校門の前に立っていた。

辺りをキョロキョロと見回していて、いずみは先輩が来るのを待ち侘びているようだ。

その視線が先輩を見つける。

「いずみ」

「お姉ちゃん!…と、甲斐性無し」

「おい…」

先輩に嬉しそうな笑顔を見せたいずみは、冷たい視線を俺に向けてボソリと呟いた。

「甲斐性無しでしょう?私を襲った犯人を捕まえられなかったんだから…」

「…ぐっ…」

完全に言葉に詰まる。

本当の事だから、何も言い返せない。

しかし、まさか、いずみに言われるとは思わなかった。

「まあまあ。さあ、帰りましょう」

睨み合いを始めた俺達を、先輩が軽く窘めた。

冗談を言うように、言い合いを続けながら、俺達三人は帰路へと就いた。

先輩といずみと別れた俺は、先輩達の見送りが見えなくなった所で家まで駆け出した。

楽しい毎日…。

限りある日常…。

後、少しで終わりを告げるのだ。

一人になると、それが余計に感じられてしまう。

家に着くと、部屋の中で、見もしないのにテレビをつけて音を高く鳴らす。

自分の落ち込んだ気持ちを紛らわしたかった。

そうでもしないと『死』の恐怖に押し潰されてしまいそうで…怖かった。

先輩を助ける事を決めて、自分が死ぬ事を俺は選んだ。

だけど、死の恐怖は薄れる事はない。

「くそっ…」

震える手を押さえ、できる限り動かないようにする。

プルルル…。

家の電話が鳴り始めた。

時計を見ると、すでに九時を回っている。

こんな時分に誰だろうか?

「もしもし」

受話器を取り、電話に出る。

どんな相手でも、話ができるのは嬉しい。

不安が紛れるから…。

「お姉ちゃんが帰ってこないの!」

「お、おい…。お前、いずみか?」

電話を取ると同時に少女が捲し立てた。

声からいずみだとわかるが、かなり動揺してるようで、話に要領を得ない。

「お姉ちゃんが…お姉ちゃんが…」

「落ち着け。取りあえず、一度、深呼吸してみろ」

いずみは泣いているようだった。

嫌な予感がする。

今すぐにでも、聞き出したい気持ちを押さえて、いずみを落ち着かせる。

電話口から、何度か深呼吸する音が聞こえてくる。

「落ち着いたか?」

「うん…」

「よし!じゃあ、先輩が帰ってこないって、どういう事だ?」

少し落ち着いたいずみに、話をするように促す。

「お姉ちゃん、二時間ぐらい前に出掛けたっきり帰ってこないの」

「遅いには遅いが、今ぐらいの時間なら心配する程じゃないんじゃねぇか?」

いずみの心配を和らげようと、俺は時計に視線を送りながら返す。

そう、まだ、遅いとはいえ、九時だ。

自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。

だけど、それとは対照的に嫌な予感は更に大きくなっていく。

「違うの。出て行く時も何だか思い詰めた顔してて…それに、何だか犯人がどうとか言ってたし…」

犯人…。

帰り道の先輩とのやり取りが脳裏に浮かぶ。

俺の言葉に挙動不審だった先輩。

やはり、先輩は何かに気付いていたのだ。

「わかった。俺が探しに行くから、お前は家で待ってろ!」

「うん。お願い」

電話を切って、俺は外へ出る準備をする。

それにしても、先輩は何に気付いたのだろうか?

俺は今回の事件の事を改めて考えていく。

「…ッ!」

背中がゾッとする。

俺はある事に気付いてしまった。

恐らく、先輩も同じ事に気付いのだろう。

俺は先輩を探す為に家を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ