第9話 Eランク昇格クエスト
さぁて、しばらくは真っ当なお仕事に精を出すことにしますか。
だが、その前にこれまで貯めたポイントでスキルを獲得しよう。貯めた預金を下ろして豪遊するような、超わくわく気分でスキルウィンドウを開く。
確認すると貯まったポイントは62ポイント、これを使って新たなスキルを取得する。方針としてはやはり戦闘力の向上だろう。SPSのレベルも上がったので期待しながら、スキルを確認する。
そして、まずは新しく取得可能になったスキルを確認しようと探していくと、1つのスキルが目に留まった。まぁ、さっき戦闘能力の向上とか言っておいてなんなんだけど、という前置きが付くけどね。
・ディメンションボックス Lv1 取得SP:5P
別次元にアイテムや魔物素材などを保管するスキル。スキルレベル×30kgの容量を入れることができる。思念操作で出し入れは楽ちん。
これはかの有名な青いタヌキさんのポケット的なスキルということか。うん、これは必須スキルでしょう。まずは1つ決まりだ。
次にステータス強化スキルは取っておこう。
・筋力強化 Lv1 取得SP:5P
STRを上昇させるスキル。STRにスキルLv×3のステータス上昇効果
・肉体強化 Lv1 取得SP:5P
VIT、最大HPを上昇させるスキル。VITにスキルLv×3、最大HPにスキルLv×5のステータス上昇効果
・瞬発力強化 Lv1 取得SP:5P
AGIを上昇させるスキル。AGIにスキルLv×3のステータス上昇効果
・魔力強化 Lv1 取得SP:5P
INT、最大MPを上昇させるスキル。INTにスキルLv×3、最大MPにスキルLv×5のステータス上昇効果
・器用さ強化 Lv1 取得SP:5P
器用さを上昇させるスキル。DEXにスキルLv×3のステータス上昇効果
Lv1しか取れないが、とりあえずこれで身体能力の底上げができる。今の貧弱な日本人の身体能力から、冒険者らしい能力に近づくだろう。
あとは戦闘に有効な技術スキルか。さて、どうしたものか?
まぁ、この前の悪人狩りみたいに発見、奇襲、反撃を許さず殲滅っていうのが理想なんだが、……なんか完全に暗殺者スタイルになってきたな。
そうとするとこんなところか。
・気配察知 Lv1 取得SP:5P
周囲の気配察知能力が向上する。
・攻撃回避 Lv1 取得SP:5P
攻撃に関する回避技術が向上する。
・不意打ち Lv1 取得SP:5P
敵に気付かれずに攻撃した場合、最初の攻撃の威力がスキルLv×30%上昇
これで残りポイントは17Pか。新しいスキルだけじゃなくてスキルLvも上げたいし、とりあえず残りは保留だな。……えーと、戦闘技術系の剣術ならLv2に必要なポイントが30P、戦闘補助系の気配遮断や不意打ちなどは20P、魔法はちょっと高めで40Pか。まぁ、じっくり考えることにしよう。
よし、今回のスキル取得の結果はこんな感じだ。
【ステータス】
Lv: 4
HP:26/21+5
MP:26/21+5
STR: 9+3
VIT: 8+3
AGI:15+3
INT:11+3
DEX:13+3
LUK:30
【スキル】
・ソウルドレイン Lv1 ・ソウルポイントシステム(SPS)Lv2 ・ステータス ・異世界言語(公用語) ・ディメンションボックス Lv1 ・筋力強化Lv1 ・肉体強化Lv1 ・瞬発力強化Lv1 ・魔力強化Lv1 ・器用さ強化Lv1 ・剣術Lv1 ・攻撃回避Lv1 ・気配遮断Lv1 ・気配察知Lv1 ・不意打ちLv1 ・元素魔法(火属性) Lv1 ・酒精耐性
+○となってるのが、スキルの補正ということか。それにしても、スキルが増えてステータスもだいぶ上昇してきたな。ステータスのスキルで確認したEランク冒険者のSTRなどの平均値は10を少し上回る程度、これで冒険者としての最低ラインの身体能力を得ることができた。また、これまでの検証の結果でHP、MPともに通常1時間で10%ほど回復していくことも分かっている。
次は資金面の方だが、正直なところFランク任務ばかりだったのでギルドの仕事で得た金は生活費で消え、狩りのときに奪った金を含めても資金は9万2千Zとあまり増えていない。防具も購入したいので、さらに資金は減ることが決定している。これからはランクを上げて、資金を増やしていきたいところだ。
……ということでギルドにやってまいりました。
扉をくぐってキョロキョロと周りを見回し、知っている人間を探す。
「あっ、エレナさんちょっといいですか?」
「……あら、おはようシン君」
書類を持って歩いていたエレナさんに声をかけるとこちらを振り向いて笑顔で挨拶をしてくれた。……あぁ、エレナさんっていうのは俺がギルドに登録しに来た時に受付で対応してくれたお姉さんね。で、これは栗毛というんだろうか? 茶系のロングヘアーを後ろでしばって、いつも優しく笑顔、ギルドの女性職員の中でもベスト3に入る美人さんである。
「で、シン君、今日はどうかしたの?」
「ランク昇格試験を受けたいんだけど、どうしたらいいのかな?」
エレナさんは俺がそういうと納得がいったという顔をした。
「そういえばシン君は昇格試験を受けたことがなかったのよね。Eランクへの昇格試験なら受付に行けばすぐに受けられるわよ。でも、Dランクからは申請したその日に試験とはいかない場合があるから注意すること」
エレナさんはギルドの受付としては数か月のキャリアだが、それまでは冒険者をしていたらしく、とっても親切で、初心者の俺に冒険者のいろはを優しく教えてくれる。
「……なるほど、よく分かったよ。エレナさん、ありがとう」
俺はエレナさんに礼を言うと、すぐに受付カウンターへ向かった。
受付に並ぶと、まだ早い時間のためかすぐに自分の順番がきた。
「すいません、Eランク昇格試験を受けたいのですが」
「Eランク昇格試験ですね。では、こちらをご覧ください」
差し出された依頼書を確認すると、そこにはこう書かれていた。
「……薬草採取ですか?」
「はい、非戦闘系で主となる採取任務が試験内容になります。西のシャペルの森の浅部にあるゲリール草を5株採取して持って帰ってくることが合格の条件になります」
薬草採取は俺も受けたことがある。このシャペルの森っていうのは奥はかなりやばい魔物が多いらしいのだが、浅部は出ても野犬やイノシシぐらいで新米冒険者でもかなり安全なことで有名である。こんなに簡単でいいのだろうか?
「ただ、試験なので制限時間があります。受付終了後から日が沈むまでの間に受付で依頼完了の手続きを行ってください」
なるほど。いくら最低ランクの試験でもそれぐらいの制限はあるわけね。朝一で来ればよかったのだが、今からでも間に合わないわけではないしな。また、自分で採取せずにどこからか購入するなどの不正が判明した場合は重い罰則があるらしい。まぁ、絶対にやらないけどね。
そして、昇格試験の受付を終了すると、まず防具屋に寄ることにした。何と言っても外の世界は何が起こるか分からないから防具は大事だよね。だが、いい店を知らなかったので、再び会ったエレナさんに良心的なお店を紹介してもらった。
……別にストーカーではないぞ。会ったのは本当にたまたまなんだから。
そして、ギルドから歩いて10分ほどのところにその店はあった。店の扉を開けて中に入ると鎧や盾など様々な防具が並んでいて少し興奮してしまった。
「いらっしゃい」
声のした方を向くと店の店主らしき40代くらいの男性がカウンターの裏に立っている。その男性に向けて声をかけた。
「初心者に合う革製の鎧を探しているんだけど、何かおすすめある? もちろん、できるだけ安いやつで」
「……うーん、その条件ならこいつだろうな」
そんな言葉とともに商品棚から出されてきたのは、濃いグレーの革で作られた軽鎧だった。
「灰色狼の毛皮で作った鎧だ。森で多く狩られるから値段も安いし、値段の割には防御力もあるから初心者はまずこれを買うな。サイズ調整も含めて5万Zだ」
ふむ、デザインも悪くないし、所持金の5割は痛いが他の鎧を見る限り値段もとても安い。……というか今の所持金じゃ選択肢はほとんどないな。
「じゃあ、これを買います」
「まいどあり。それじゃあ、サイズの調整をするから奥の部屋に来てくれ」
購入する意思を伝え、その後は言われたとおりに奥の部屋でサイズの調整を行う。調整自体はほとんどいじる必要が無かったので、20分ほどで終了した。調整してもらった鎧はそのまま着用して部屋を出ると、俺は鎧の代金を払って店を出た。
そして、防具の購入が終わると、そのまま西門を抜けてシャペルの森に向かった。新調した防具は革製なので重さも気にならず、動きも阻害しないし通気性も悪くないのでとても着心地が良かった。
ピクニックのような気分で、シャペルの森まで歩く。街を出たのが2時前くらい、片道1時間以上かかるので採取にかけられる時間は1時間半といったところだろうか。まぁ、薬草は森にたくさん生えているのですぐに見つかるだろう。
……そして、5株集めるのにかかった時間は20分ほどだろうか。少し余分に採取をしてそろそろ帰ろうかと思ったころだった。
「があぁぁぁ!!」
男の悲鳴。俺は手に持ったままのゲリール草を袋にしまうと、すぐに駆け出した。悲鳴の聞こえ方からしてすぐ近くのはず。周囲に警戒しながら森を進むと前方に人影を発見した。
確認するため、さらに近寄るとそこには3体のゴブリンに武器を突き刺された獣人の姿があった。いくら生命力の高い獣人でもあれは危険な状態だ。すぐに助けに入りたいがまだ少し距離がある。このままでは走って近づいても間に合わないと判断した俺は、後ろを向いて隙だらけの1体に魔法を放った。
「ファイアアロー」
飛び出した火の矢は隙だらけの後頭部に直撃する。『不意打ち』のスキルで威力の上がったファイアアローは一撃でゴブリンを仕留めた。残り2体のゴブリンは突然の攻撃に驚くような姿を見せたが、すぐにこちらを攻撃対象に変えて突撃してきた。
接近するゴブリン達を見て、俺は全速力でその場から後退した。
魔法を連発すれば勝てるんじゃね、と疑問を持った方もいるだろう。なので、逃げながら魔法について説明しよう。
この世界の魔法は、魔力を使って自分の望む現象をおこす技術だと考えられている。例えば、俺の火の元素魔法なら何もないところに火を生み出すといった感じにね。ただ、何もないところに火を生み出すということは、魔力で世界の法則を捻じ曲げているので、魔法を使用した空間には数秒間だが歪みが発生するらしい。まぁ、その歪みは数秒で修正されて元に戻るらしいのだが、歪みが魔法の発動を阻害する特性があるため、基本的には1発撃つごとに数秒間のクールタイムみたいなものが必要になるということである。
まぁ、歪みの範囲もそれほど広くないので、数mも離れれば問題はなくなる。
だが、今回のように戦闘の場合には、その数秒が命取りになることもある。まぁ、獣人が戦闘のとばっちりを受けないために距離をとったという理由もあるけどね。
そして、逃げ始めてからここまで数秒ほど、十分に離れたので、振り返るともう一発ファイアアローを放つ。2体の内の左側の顔面に直撃して敵の足止めに成功。今度は剣を抜き放ち、こちらから無傷な方のゴブリンに向かって接近する。敵は武器を獣人に突き刺したままのためか、武器を持っておらず無手のまま殴りかかってきた。
ゴブリンは右手を振りかぶって大振りのフックを放つ。だが、スピードも今一つだし、動きも単調だ。俺は体が感じるままに、その拳をかがんで回避すると、剣をゴブリンの喉元に突き刺した。
「ぎぃっっ!」
短く悲鳴を上げて、ゴブリンが動きを止めるとそのまま頭を鷲掴みし、スキルを発動させた。
「ソウルドレイン」
ゴブリンが光の粒となり、グローブに吸収されていく。
「ふぅ…………ぐはっ!」
それを見て終わったと思い、深く息を吐いた。だが、それは完全な油断であった。先ほど顔面に魔法が直撃したゴブリンは死んではいなかったようだ。俺は隙をつかれて腹部に体当たりをもらってしまった。その体当たりの勢いで地面を数m転がる。
これは本気で痛い。いや、鎧が無かったら痛いでは済まなかったかもしれない。俺はすぐに体を起こすと、最後のゴブリンに向けてもう一度魔法を放った。数mという至近距離では回避することもできず、その一撃を受けたゴブリンは今度こそその命を散らした。
久しぶりに感じる熱気がLvアップを伝えてくるが、少しも喜びはなかった。まだまだ自分が甘いことを反省しながら急いで獣人の所に戻った。
「おい、大丈夫か!」
駆けつけてその容態を見るが、とても助かりそうには見えない。辺りは血の海で、この出血量は致命傷だと俺に伝えてくる。だが、さすが生命力に定評のある獣人だけあってまだ意識があるようだ。
「どう……やら、助けて……もらった……ようだな……」
息も声も途切れ途切れでもう何分ももたないだろう。
「何か言い残すことはあるか?」
「これ……は……異常事態……だ」
それはそうだろう。この近辺にゴブリンが出るという情報は欠片もない。
「10体……以上の……ゴブリンに……仲間が……さらわれた。……ギルドに……報告を……そして……仲間を……救って……くれ」
男の真摯な願いを受けて、俺はその言葉と想いを心に刻む。
「分かった。必ず助けるし、仇もとってやる。……今、楽にしてやるから」
俺のその言葉に獣人の男性は微かに頷いた。そして、俺はその体に手を置く。
「ソウルドレイン」
名も知らぬ獣人の身体が光の粒になり吸収されていく。俺はその魂にかけて誓おう、必ず俺がお前の仇を討ってやる。
俺は獣人の荷物からギルドカードだけをポケットに入れると、それ以外の者はディメンションボックスに収納した。また、普通に倒した2体の耳を討伐証明のために回収すると、すぐに街に戻った。
街に戻った俺はすぐにギルドを訪れた。カウンターを見るとエレナさんがいたので説明するにはちょうどいいと思い、エレナさんのいるカウンターに進む。すると、エレナさんも俺に気付いたのか、声をかけてくる。
「あら、シン君お帰りなさい。昇格試験の薬草は集まった?」
「いや、それもあるんだけど……」
俺は森での戦闘と獣人のことをエレナさんに説明した。証拠としてギルドカードとゴブリンの耳を提出する。説明を聞いたエレナさんは一度カウンターの奥にある部屋に入っていく。そして、しばらくして戻ってくると今度は俺についてくるように言った。
エレナさんと一緒に2階への階段を上がる。そして、しばらく奥へ進むと1つの部屋の前で立ち止まって扉をノックした。
「マスター、エレナです」
「入りたまえ」
了承の言葉を聞いたエレナさんが部屋に入ったので、俺もそれに続く。そして、部屋の中に入ると壮年の男性が重厚な雰囲気を漂わせながら椅子に座っている姿が見えた。50代ぐらいなのだろうか髪は白髪だがその体からは力が溢れているような印象を受ける。
エレナさんが歩き出したので、一緒に部屋の中心まで移動し、二人でマスターと呼ばれた男の前に立つ。
「マスター、こちらが先ほど説明したシンさんです」
エレナさんの説明とともにマスターと呼ばれた男の視線が俺を突き刺す。そのプレッシャーにしばらく耐えていると不意にその視線から圧迫感が抜けた。
「……どうやら本当のようだな。シン君と言ったかな。少し試させてもらった、悪かったね。私はマーチルズのギルドマスターのアルベルト・レイヴンズクロフトだ。よろしく頼む」
スキルなのか経験則なのかは知らないが、俺の言葉に嘘が無いことは理解してもらえたらしい。そして、俺の口から、先ほどエレナさんにした説明をもう一度アルベルトさんにする。
「なるほど。確かに非常事態の可能性が高いな……」
その話を聞いたアルベルトさんは黙って考え込んでしまい、部屋に沈黙が訪れる。しばらくは我慢していたのだが、俺がその空気に耐えられなくなってそわそわしだしたところで、アルベルトさんが顔を上げた。
「エレナ君、『ヴァンクロイツ』と『疾風の狩人』にギルドからの指名依頼を出せ。そして、明日以降は森に関する依頼を受けるときは注意喚起をするように徹底してくれ」
「了解しました」
エレナさんは頭を下げると、ギルドマスターの命令を実行するために部屋を後にした。
それを見届けたアルベルトさんと俺の目が合う。
「シン君もご苦労だった。Eランクへの昇格手続きはすぐに行わせる。そして、ゴブリンをほとんど無傷で退治してきた君だ。明日からの働きにも期待している」
「ありがとうございます」
俺は労いの言葉を受けるとすぐにその部屋を後にした。そして、1階で昇格の手続きを終えるとそのまま宿に戻って疲れを癒すことにした。
第9話をお読みいただきありがとうございました。
今回は仕事の都合もあり、更新が遅くなってしまいました。
次回も頑張りたいと思いますので、また続きを読んでいただけたらと思います。
そして、誤字脱字などありましたらご報告お願いします。また、温かい励ましの言葉や助言がありましたらよろしくお願いします。
※10/27 変換ミスを修正
(旧)このままでは端って近づいても
(新)このままでは走って近づいても
10/30 表現の変更&脱字の修正
(旧)まぁ、そうとするとこんなところか
(新)そうとするとこんなところか
(旧)栗毛いうんだろうか
(新)栗毛というんだろうか
(旧)自分が甘いこと反省しながら
(新)自分が甘いことを反省しながら