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第8話 黒い死神

 この1ヶ月で必要な情報は大体集まったので、そろそろ計画を実行に移す事にしよう。俺はまず必要な道具をそろえるために市場に向かった。



 今回購入するものはローブと香水だ。まず、ローブだが所謂魔法使いが来ているようなやつが欲しい。それもフード付きで色が暗めのやつが望ましい。これは基本的に夜行動するため、闇に紛れるのとフードで顔を隠したいからだ。個人的には黒が好きなのでローブは黒が良かったのだが、見つからずこげ茶色の物を買った。


 そして、香水の方は匂い対策だ。上手く顔を隠しても、鼻の利くタイプの獣人なら臭いでばれてしまう可能性がある。だから、香水で自分の体臭を誤魔化すことにした。もちろん、大勢の人が持っているものでなければ意味がない。なので最近若い男性の中で一番流行っているものを店員さんに聞いて購入した。



 

 買い物を終えて宿屋に戻ると、まだ昼間だがベッドに入る。日が暮れるまでの時間で十分に睡眠をとると宿屋を出て、こっそりと路地裏でローブに着替える。もちろん、フードを目深にかぶって顔を隠すことは忘れない。


 そして、暗闇に紛れながら収集した情報にある場所に移動すると、建物と建物の隙間に入り息を殺す。あとは目標が現れるのを待つだけだ。


 今回俺が狙っているのは傷害の前科があり、現在、連続婦女暴行事件の犯人だと噂されている男だ。女性を殴って気絶させてからと言う手口のため情報も少なく、証拠も見つかっていない。さすがの異世界も何の証拠もなければ捕まえることはできない。


 1時間ほど待っていると、奴が酒場から出てきた。この1ヶ月で顔も確認しているので間違いない。再び、闇夜に紛れながら後を追う。街中をあちこちふらふらと歩きまわっていてどこを目指しているのかわからない。


 ……ふと、違和感を感じた。よく見ると奴越しにいつも同じ背中が見えている気がする。これはいきなりの当たりだろうか。思わず出てしまった笑みをすぐに引き締めると見失わないように少しだけ距離を詰めて後を追う。




 そして、大通りから奥に入ったためか人通りがほとんどなくなり、ふと月が雲に隠れた瞬間だった。光が遮られた瞬間に奴が消えた。これだけ気を配っていても気付かなかったのだから他の人間なんて欠片も気付いてないだろう。


 奴が消えた辺りまで移動すると周囲を見渡す。すると建物の間に人ひとりがギリギリ通れるくらいの路地があるのに気が付いた。心を決めるとゆっくりと路地に入っていく、足音に気を付けながら進み、曲がり角に辿り着くと顔を半分だけ出してこっそりと覗き込んだ。


 そこには奴がいた。女性の方はすでに気絶しているのかピクリとも動かない。しかし、そんなことなどお構いなしに奴は女性の服をむしり取るとその体を弄びだした。だがまだ動かない。女性を助けるなら今だが、俺の目的は女性を助けることではなく完全な奇襲で相手を倒すことだ。それは今じゃない。


 しばらくするとベルトを外す音が聞こえてきた。俺は物陰から少しだけ顔を出すと奴の後姿を見てステータスのスキルを発動した。それで分かったのは名前と性別のみ。まぁ、もしHPが分かればラッキー程度のつもりでやったので問題ない。そして、奴がズボンを脱ぎ、女性の腰に手を当てて奴の物を……というところで飛び出した。


 一気に加速して奴に接近する。足音に驚きこちらを振り向くがもう遅い。それに武器は脱いだズボンと一所で手の届く位置にはない。俺は走りながら右手でナイフを鞘から抜くと、左手で奴の口を押さえて腹部にナイフを突き立てる。


 右手が肉を貫く感触を感じる。ナイフの刃が7割ほど突き刺さったところで一度刃が止まったが、さらに力を込めて根元まで突き刺す。

 

 「がっ!……うぐぅっ!!」

 

 激痛に奴が声を上げようとするが左手で力一杯押さえているので微かなうめき声しか外には漏れない。声を上げられないことが分かり、奴が俺の手を掴んでナイフを抜こうとしたところで思い切り捻ってやる。


 「ぁぁ……ぐぅっ!!…ううぅぅぅぅぅっっ!!」


 奴の反応が面白くてナイフを右に左にグリグリと捻り続ける。非力な女性にあれだけ好き勝手しておいて、自分が被害者になったら涙を流して唸るだけとは滑稽だな。俺は込み上げてくる笑いを必死にこらえる。


 10秒もナイフを捻ってやると目が虚ろになり、ナイフを抜こうと掴む手にも力が無くなってきた。そろそろ頃合いか。


 「ソウルドレイン」


 小さな声で唱えると、動物たちのときと同じように奴が光の粒になって手袋の中に吸い込まれていった。


 完全に吸収するとすぐに獲得ポイントを確認する。


 「……くっくっく、あっはっはっは!」


 せっかく堪えていた笑いが思わず漏れちまったよ。いやいや、この高揚感はなんて言ったらいいのか分からねぇな。まぁ、とりあえず俺の考えが大当たりだったのは間違いない。


 なんとあの屑の魂を吸収して獲得したポイントは4Pだぜ。今までの効率を考えればメタルなあれを倒したような爽快な気分だよ。いやぁ~、人間を殺したっていうのに嫌悪感なんて微塵も感じてないんだぜ、これは変人確定だよなぁ。あっはっはっは。


 あ~、笑った笑った。しかし、こんなことしてる場合じゃないな。笑って声も出してしまったし、こんなところを見られたら俺が婦女暴行犯だ。さっさとこの場から消えさせていただくとしよう。


 もちろん、女性はこの場に放置だ。わずかだとしても俺の存在がばれる可能性は排除するに限る。まぁ、新たな犯罪に会う前に意識が戻ることを祈るとしよう。


 そして、俺はちゃっかりと屑の財布の中身をいただくとその場を後にした。



 

 次の日、午前中の仕事を片付けると宿屋に戻ってきた。そして、SPSのスキルを起動して尾行や奇襲に有効なスキルを探した。これは今回の計画において重要な要素だからな。ポイントをけちるつもりは少しもない。


 そして、取得したスキルはこれだ。


 ・気配遮断 Lv1 取得SP:5P

自分の気配を遮断し、周囲から気付かれにくくする。


 尾行と奇襲を考えると一番適したスキルだろう。今回獲得したのも含めて7Pあったので、残りは2Pになった。そして、新たなスキルの獲得に満足すると、夜のお仕事に備えてベッドに入った。



 さぁ、夜のお仕事の時間だ。昨日はだいぶ興奮してしまったが、一晩経って頭も十分に冷えた。一人目は上手くいったが、勝って兜の緒を締めろとも言うしな、調子に乗らないように気を付けよう。


 次の目標は街の不良たちだ。マーチルズの街は中央広場に向けて十字を描いて大通りがある。なので、街は北西、北東、南西、南東の4つの区域に分けられるのだが、騎士団の詰所から遠い北西区は不良のたまり場も多く街の中では圧倒的に治安が悪い。


 そして、その北西区を根城にしている不良たちが隣接する北東、南西をはじめ街のあちこちで問題を起こしているというわけだ。よって、その不良たちをストーキングして一人ずつ始末していく。気分は必殺○○人ってところかな?


 昨日のようにフードを目深にかぶり、北西区の通りを闇に紛れながら歩く。周りの人間から認識されている様子は無い。どうやら、スキルを取った効果が出ているようだ。 


 事前に確認してある顔が無いか、通りを歩く人間を確認しながら歩く。15分ほど歩いただろうか視界の端に何かが引っ掛かった。


 「見つけた」


 目標としていた顔を見つけて思わず呟く。今の俺の顔は、ニヤリとさぞいやらしい笑みを浮かべていることだろう。


 それから10分、相手は自分が狙われているなんて微塵も思っていないだろう。その後ろをチャンスを窺いながら追跡する。さらにしばらくするとその機会が訪れた、人通りも少なく目標の前方数十mのところに細い路地が見える。俺は先回りをすると路地に隠れて息を潜めた。


 自分の心臓の音だけが耳に響く中、目標が目の前を通るのを待ち構える。


 なぜ、こういう時間というのは長く感じるのだろうか。高鳴る心臓と焦る心を落ち着かせながらいつでも動けるように構えをとる。


 歩く速度を考えると、タイミング的にはそろそろのはずだが、…………………来た!!


 目の前に目標が見えた瞬間に手を伸ばし、口を押えながら路地に引っ張り込む。相手は驚愕で完全に思考が停止している。このチャンスを見逃さず、相手が我に返る前にナイフを腹部に抉りこむ。


 「…うぐぅっ!?」


 激痛に呻くが構わずナイフを引き抜く。吹き出す血液に手を赤く染めながらも気にせず再度ナイフを突き刺した。


 「ぐぅぅっ!!……うぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


 そして、止めとばかりにナイフをこねくり回す。それに合わせて血肉がグチャグチャと音をたてる。やがて、呻き声も聞こえなくなり、体がピクピクと痙攣しだした。これ以上はヤバいだろう。


 「ソウルドレイン」


 完全に命の火が消えてしまう前にその魂をスキルで吸収する。路面や腕に飛び散った血液も含めて光の粒になり、路地には服が落ちている以外、まるで何事もなかったかのように元の景色を取り戻した。


 「ふぅ」


 大きく息を付き、緊張をほぐすと服を拾い上げ、金銭だけを回収する。そして、残った服は路地の奥に放り投げた。全ての処理が終わると、ローブの乱れを直し、フードを目深にかぶり直して路地を後にした。


 その日はさらに4人、路地に引きずりこんでは腹部を抉る作業を続けた。その途中で気が付いたのだが、ソウルドレインにより蓄積した情報のおかげか、人間に関してはステータスのスキルでHPとMPが見えるようになっていた。


 目標のステータスを確認できるようになったので、次の日からはより確実に狩りを行うことができるようになるだろう。段々街でも違和感を感じる人が増えているようだが、大きな騒ぎにはなっていない様子である。




 次の日も昼まで仕事を行うと仮眠をとり、目が覚めるとフードを目深にかぶり夜の街に出かける。今日は昨日とは違う通りを歩く。そして、今日も目標を発見するとあくまで慎重にチャンスを窺い、確実にしとめていく。



 そして、変化が訪れたのは狩りを続けていく中、3人目の獲物を狩ったときのことである。


 いつものように路地に先回りし、息を殺して獲物を待つ。この数回の狩りで慣れてきたのか、心を静めて相手が通るのを待てるようになった。


 今回はナイフは手にせず、実験の意味を込めて攻撃手段に魔法を選択する。右手に魔力を纏わせていつでも魔法が発動できるように準備をして待つ。そして獲物が…………今!!


 いつものように相手が目の前に着た瞬間に口をふさぎながら引きずりこみ、脇腹に手をかざして魔法を発動する。


 「ファイアアロー」


 すぐに火の矢が形成され無防備の腹部を抉る。


 「ぐぅぅぅぅ!!」


 人肉が焼ける嫌な臭いがするが致命的な一撃とはいかなかったようだ。すぐにナイフを取り出し腹部に2回連続で突き刺す。


 「うぐっ、うぐっ!」 


 くぐもった悲鳴が2つ漏れ、2度体が震える。それに合わせて獲物の体から力が抜けていく。表示したステータスでもHPはすでに1割を切っていた。


 「ソウルドレイン」


 すぐにスキルを発動し魂を吸収した。段々と手馴れてきたのが自分でもわかる。そして、全てを吸収し終えた瞬間、急に目の前にウィンドウが現れた。



 ・総獲得SPが規定値に達しましたので、SPSのLvが2に上がりました。



 どうやらスキルLvが上がったようだ。前に見たスキル効果の通りなら取得できるスキルの種類が増えているはず、これはとても楽しみだ。ウィンドウを思考操作で閉じると、いつものように金銭だけをいただいて服を路地の奥に放り投げる。戦利品が減るのは本当にもったいないが、もし持ち歩いてそれが見つかったら洒落にならないからしょうがないか。


 俺は首を左右に振って未練を断ち切ると路地を立ち去った。


 



 そして、次の日。

 この2日で何人もの不良どもを狩ったことからさすがに警戒心を抱かれているだろう。なので、今日は目標を変える。


 この街は王国内でも発展した都市ではあるが、もちろん街の全員が裕福というわけではない。経済格差は存在し、ホームレスたちも大勢いるのだ。そして、そのホームレスの中には汚れ仕事を請け負って日銭を稼いでいる奴らがいる。今回の目標はこいつらだ。


 北門付近の街角、本当に外壁に沿ったところにホームレス犯罪者たちの拠点が並んでいる。


 遠くから観察して様子を探るが、特に警戒した様子は無い。まぁ、不良が何人も消えていることと自分たちのことをリンクして考えるような奴はいないか。


 一人で行動している奴を見つけて、いつものように追跡する。そして、これまでのように路地に引きずりこんでは腹部をめった刺しにしてやる。接近すると何と言っても臭いがきつい。その苛立ちも含めてナイフで肉を抉ってやる。

 もちろん失敗しないようにステータスでHPを確認しながら魂を吸収すると次の獲物を探す。


 

 そして、それが起こったのは2人目を吸収した時だった。この前のようにウィンドウが急に開いたので驚いた。心を落ち着かせ、内容を確認する。

  

 ・人間からのソウルドレイン成功数が規定値を超えたので、特別評価『ヒューマンキラー』を獲得しました。SPに5Pのボーナスが付きます。


 すっかり忘れていたが、こんな機能もあったなぁ。特別ボーナスの出現に少しやる気を取り出すと、さらに2人のホームレス犯罪者を襲撃し、魂を吸収した。



 そして、本日5人目。あまりの臭いに辟易しながらも、これで最後と決めて追跡を行う。後で考えるとこの時点ですでに油断をしていたのだろう。


 誰もいない路地に引きずりこむと口を押えて建物の壁に獲物を強くたたきつける。そして、右手に持ったナイフで突き刺した。


 「がはっ!……うっ、うぅぅぅっ!!」


 いつものように呻き声が漏れるが気にしない。さぁ、さっさと魂を吸収して帰るとしよう。ステータスのスキルを発動しながらナイフを引き抜く。


 「いだっ!」


 その瞬間、左手の力が緩んだのか、手を押えていた指を噛まれた。俺が痛みに手を離した隙をついて、ホームレス犯罪者は路地から出ようと走り出した。


 「だ、誰か!助けて………があぁぁぁっっ!!」


 負傷のため、走る速度もかなり遅かったので、通りに出る前に追いつき背中を刺して止められた。しかし、声を出されたのがまずい。すぐにソウルドレインで魂を吸収すると、フードをしっかりと押さえて全力疾走でその場を後にした。




 くそっ、完全に油断した。

 昨日の失敗でどうやら姿を見られたらしい。もちろんフードで誰なのかはばれていないが、昼ごろには街中の噂になっていた。


 曰く、黒い死神が現れたとのこと。暗闇の中だったので、こげ茶のフードが黒に見えたためか黒い死神と呼ばれているらしい。何とも安直なネーミングだが、まぁやってることを考えれば死神で合ってるのかな。そして、この数日街の悪どもが消えているのも死神の仕業ということになっている。


 いや、まぁ、それも間違いないけどね。


 でも、この噂のおかげで街の皆さんの期待度MAX、街の悪どもは警戒度MAXだ。そして、これまで小悪党を放置していた騎士団はいろいろな方面から叩かれるわメンツが潰れるわで怒りMAXときたもんだ。一月かけて準備したのにたった数日でストップとはね。まぁ、言っても仕方ないからほとぼりが冷めるまで死神は封印することにしよう。もちろん街の皆さんの期待なんて知ったこっちゃないしね。



 さぁて、しばらくは真っ当なお仕事に精を出すことにしますか。


第8話をお読みいただきありがとうございました。

大風呂敷を広げた割にはこれが限界でした。

もっとうまく表現できるようにこれからも精進していきたいと思います。

次回からは街の外でちょっと冒険者らしくを目標に頑張ります。

そして、少しでも楽しんで読んでもらえれば幸いです。

また、誤字脱字や文章表現の誤りの報告、温かいお言葉や助言などありましたらよろしくお願いいたしますm(_ _)m


※10/27 不適切な表現の修正

 罪を犯していたホームレスを表す部分に犯罪者を付けるように修正。

 

 誤解を招くような表現をしたことを申し訳なく思います。


 10/30・31 脱字の修正&表現の修正

 (旧)自分たちことを

 (新)自分たちのことを

 (旧)叩かれるはメンツが潰れるはで

 (新)叩かれるわメンツが潰れるわで

 (旧)くそっ、完全に油断だった。

 (新)くそっ、完全に油断した。

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