第2話 旅立ちへの準備
「どうせ、帰れないんだろう。なら、やってやるさ」
俺のその言葉を聞いて満足そうに肯く自称神様。
「うんうん。快く了承してくれて助かるよ」
さすが、自称神様だ。 俺の返答のどこに快い了承の言葉があっただろうか。
「もちろん、できる限り生き延びて僕を楽しませ……協力してほしいからね。僕が与えられるだけの加護を君に与えよう。まずはこのグローブを手にはめて」
気にしたら負けだと自分に言い聞かせながら、渡された黒のフィンガーレスグローブを手にはめる。しかし、自称神様の加護ではちょっとどころではない不安を感じるのだが。
いや、何もないよりはましだろう……たぶん。
「さっきから、ずいぶんと心外なことを……まぁ、いいや。まずはそのグローブの効果を説明しよう。これを見てくれ」
そう言って自称神様が手を挙げると、そこにゲームのメッセージウィンドウのようなものが浮かび上がる。
そこにはこう書いてあった。
・ソウルグローブ
装備効果:スキル「ソウルポイントシステム(SPS)」、「ソウルドレイン」を使用することができる。
・ソウルドレイン Lv1 装備品限定スキル
生物の魂を吸収し、その魂を神に献上するスキル。
献上した魂の評価に応じてSPを得る。
魂を吸収するにはその生物のHPを10%以下にした上で、グローブを対象の肉体に接触させた状態でスキルを発動しなければいけない。
・ソウルポイントシステム(SPS)Lv1 装備品限定スキル
ソウルドレインで貯めたSPを使用することでスキルの獲得、スキルLvの上昇を行うことができるスキル。
「なるほど、そのグローブを使って魔物とかの魂を吸収してポイントを得る。そして、得られたポイントで自分を強化して、より質の良い魂を狩れるようにしていくってことだな」
「その通り、理解が早くて助かるよ」
だが、肝心なのはそのポイントを集められるかである。
魂を吸収するには対象のHPを10%以下にしないといけない、つまり、瀕死に近い状態まで相手を傷付ける必要がある。
俺の運動神経自体は悪くはないとは思うが、中学、高校と帰宅部だった俺の腕力や持久力など、たかが知れている。もちろん、魔物と戦って勝てる自信など欠片もない。
まぁ、昔から走るのは得意だったので、逃げ足には自信があるが、逃げてばかりじゃ、いつまでたってもポイントは貯まらない。
魂狩りをするには、どう考えても戦闘能力が不足している。だから、これを埋めるための何かは絶対に必要だ。もちろん、その何かはこの仕事の必要経費だろう。クライアントに前払いで請求させてもらおう。
「……おい、これだけじゃ――」
「もちろん、君の心配はよくわかっているよ。今の僕の力でも20P分は加護を与えられるから何かスキルをとってから旅立つといい」
スキルを20P分かぁ。その20Pが多いのか少ないのか分からないが、何も無いよりはましだろうな。
もちろん、どんなスキルが取れるかにもよるが、少しは勝率も上がってくるだろう。
「はっはっは、特に無効と耐性系は秀逸なスキルがそろっているから期待してくれたまえ」
いや、その高笑いと自信は逆に恐ろしい。
正直嫌な予感しかしないな。
「さぁ、まずは、頭の中でシステム起動と思い浮かべるんだ」
もう、ここまで来たら仕方がないと覚悟を決め、言われた通りに頭の中でシステム起動と念じる。
すると目の前に先ほどと同じようなウィンドウが現れた。
そこにはステータスUPや魔法、耐性などと表示されており、おそらくは取得できるスキルの系統が一覧表示されているのだろう。
「基本的にやりたいことを思い浮かべるだけで操作できるんだ。さぁ、まずは無効化スキルを見てもらおうか」
今度は頭の中で無効化スキルと思い浮かべると、無効化の文字が点滅し、ウィンドウに表示されている内容が切り替わった。
<獲得可能スキル:無効化>
・水虫無効 取得SP:10P
・ぎっくり腰無効 取得SP:10P
・四十肩無効 取得SP:10P
・認知症無効 取得SP:10P
……使えねぇ。
おそらく、水虫やぎっくり腰にならないという効果なのだろう。需要がないことはないだろうが、少なくとも戦闘に役立つとは思えない。
「はっはっは、いかがですかお客さん。状態異常を無効化するのにリーズナブルなこのお値段。お買い得ですよ」
これは終わったかもしれない。
……いや、まだ項目を1つ見ただけだ。
「まだだ、まだ終わらんよ」
魂の叫びとともに、今度は耐性の項目を表示させる。
<獲得可能スキル:耐性>
・熱さ耐性 取得SP:3P
・寒い耐性 取得SP:3P
・痺れ耐性 取得SP:3P
・酒精耐性 取得SP:3P
おぉ、これはまともか。
熱さ、寒さに痺れか、最後のは酒精ということはアルコールに対する耐性か、これはちょっとな。
……ちょっと待てよ。
熱さはいいとしても、『寒さ』じゃなくて『寒い』って表示されている。
寒い耐性って何だ。
それに痺れっていうのもちょっと引っかかる。これまでやってきたRPGゲームの経験から言わせれもらうと、普通は痺れじゃなくて麻痺って言わないか。
うーん、落ち着いて考えると、いろいろなところに違和感を感じる。
いや、奴の加護だ。
これはもう確定と言ってもいいだろう。
そして、もう一つ気になるところがある。ウィンドウに表示されているのはスキル名だけで、そのスキルの効果が見れないというのはおかしいのではないだろうか。
普通に考えれば、スキル効果も当然見れるはず。設定で表示のON/OFFができるのだろうか?それならば、まず間違いなく見られるように設定を変えられるはず。
ならば試してみるまでだ。そう思い、頭の中でスキル効果表示と念じてみる。
・寒い耐性 取得SP:3P
スキル効果:正式名称は寒いギャグ耐性。つまらないネタやおやじギャグを聞いても寒さを感じにくくなる。
・熱さ耐性 取得SP:3P
スキル効果:正式名称は暑いキャラ耐性。水○一郎や松○修造などのキャラクターから熱さを感じにくくなる。
・痺れ耐性 取得SP:3P
スキル効果:30分程度の正座ならば足が痺れなくなる。
・酒精耐性 取得SP:3P
スキル効果:常識的な酒量では酔わなくなる。また、二日酔いになることがなくなる。
やはり、表示させることができた。
しかし、酒精耐性が一番まともに見えるとは。
くそ、奴の加護はすべてネタか!!
生き残らせるつもりがあるとはとても思えない。
……本当にふざけている。こんな、こんな、
「こんなスキルで生き残れるか~~!!」
俺は、湧き上がる怒りを抑えきれず自称神様の首を締め上げた。
「…ぎゅぅ!…ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、とれるとれる、首がとれる~~!!」
「こんなスキル取れるか~~!!……ぎゃっ!!」
衝撃とともに全身が痺れる。
し、しまった。まさか、こんな初歩的なミスをしてしまうなんて。
俺は迂闊な自分を心の中でひたすら責めた。この短い時間で先ほどのことをすっかり忘れてしまっているとは情けない。
俺としたことが同じネタを2連続で使ってしまうとは!!
……いや、そこじゃなかった。怒りですっかり神の雷の存在を忘れていた。
倒れた俺を見下ろし、自称神様は神の雷のボタンをもて遊ぶように、カチカチ押しながら不思議そうな顔をしている。
「まったく、こんなに素敵なスキルが揃っているのに何が不満なんだか」
いや、不満を抱かない方が不思議なスキルしかありませんでしたが。
しかも、本日2度目の電撃の影響で、俺の身体はぴくりとも動かなくなっていた。
……と、いったこともありましたが、よくよく確認すると普通に使えるスキルもあった。
候補としてはこんなところかな。
・剣術や槍術、弓術などの戦闘スキルLv1 習得SP:5P
・筋力、魔力などのステータスUPスキルLv1 習得SP:5P
・火や水などの魔法を使える、元素魔法スキルLv1 習得SP:10
・言語獲得スキル 習得SP:2P
他にも料理などの生活系スキルがあったが、今すぐ必要なわけではないので今回は除外する。そして、魂を集めて自称神様の力が増せば、取れるスキルの種類も増えるらしい。
まぁ、それは置いておこう。
とりあえず、一つは決めた。
・異世界言語(公用語)取得SP:2P
転移する世界において一番使用されている言語の知識を習得する。
コミュニケーションスキルは最重要だろう。言葉が通じないとかシャレにならない。
あとは、戦闘系スキルをどう取るかなんだが。
筋力などのステータスUPは魅力的だが、スキル効果の説明を読むかぎりでは、Lv1を取得して得られる上昇は+2である。
この+2がどの程度の効果なのか分からないのが怖い。いずれは必要になるだろうが、ポイントの少ない現状では非常に悩むところである。
そして、武器は必要だろう。武器が無くても戦えそうな、格闘技のスキルもあったが、スキルLv1で魔物と素手で戦闘するのは勘弁願いたい。
結局、2時間ほど悩み、次の4つのスキルを取得した。
・異世界言語(公用語)取得SP:2P
転移する世界において一番使用されている言語の知識を習得する。
・元素魔法(火属性) Lv1 取得SP:10P
スキル効果:火属性の元素魔法を使用することができるようになる。
1レベル上昇毎に1つの魔法を覚える。
習得魔法:Lv1 ファイアアロー 敵単体に火属性ダメージ(極小)
・剣術Lv1 取得P:5
スキル効果:剣術についての基礎程度の知識と技術を習得
・酒精耐性 取得P:3
スキル効果:常識的な酒量では酔わなくなる。また、二日酔いになることがなくなる。
皆さん、分かっています。
分かっていますとも。
最後に一つおかしいのが入っていると思っていますよね。
これは仕方がないんですよ。
先ほどの候補をもう一度見てください。ほとんど5Pとか10Pだったでしょ。取れるスキルが無かったんです。謀ったかのようにこいつ以外ね。
…ごほん、えー、まぁ、この4つのスキルを選んだ理由は、言語は先ほど説明した通りである。そして、近接戦闘を主体にするのは厳しいと思い、魔法による遠距離攻撃を主とするための元素魔法(火属性)。また、MPが無くなった時のために、一番扱いやすいのではと思った、剣術を取得したわけだ。
まぁ、剣術と短剣術はどちらにするか迷ったのだが、リーチが短いのはちょっと怖いので剣術の方を選択した。
酒精耐性はネタスキルの中では一番まともそうだったという以外の理由はない。
そして、これを読んでくださっている皆さんはお気づきかもしれないが、このときの俺は一つの失敗を犯していたのだ。
まぁ、俺自身が気づいた時にはとっくに手遅れだったのだが。
それと忘れていたが、さっきの4つの他に代行者が全員共通でもらえるスキルがあった。
・ステータス 取得SP:0P
蓄積情報量に応じて、生物の身体情報、取得スキル情報を表示させる。
自分のステータスやスキルだけでなく、情報量によっては敵のステータスも分かるようになるらしい。
まぁ、自分以外の場合、最初は名前くらいしか分からないらしいが、その種族について見たり聞いたり、戦ったりすると情報が増えてステータスなどが分かるようになる。一番効率がいいのはその種族の魂をソウルドレインで吸収することらしい。
そして、このスキルの良いところは対象が種族というところだろう。初見の相手には効果が薄いが、次に同じ種族と戦う時には、その個人を知らなくても、蓄積された情報からステータスを解析してくれる。これは非常に便利だ。
さて、これで準備は完了した。
振り返って自称神様と向かい合うと無言で頷く。それに対して、あいつが無言で頷き返すのと同時に、俺の足元に魔法陣らしきものが現れた。
「じゃあ、転送するよ。…あぁ、サービスで初心者用の武器と防具を用意しておいたから。転送が終了したときには持っているはずだよ。」
「急に優しくされるとちょっと怖いが、一応礼は言っておくよ」
「転送した後は直接的に支援はできないし、こちらからの通信の魔法もそれなりに力を使うから助言もそんなにできないからね」
「まぁ、後は自分でなんとかするさ」
「そうか。では、君の働きに期待してるよ」
「あぁ、じゃあな」
別れの言葉をいうと同時に魔法陣が光を放ち、世界が暗闇に包まれた。
第2話をお読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけるように次話も頑張りたいと思います。
誤字・脱字・アドバイスなどありましたらお知らせいただければと思います。
※10/30 ルビに関する修正
この短い時間で先ほど|《第1話》の…… → 不要と判断し、ルビを削除
|自称神様≪クソ野郎≫、|こいつ≪ネタスキル≫の2点がルビになっていなかったため修正
誤字脱字の修正
(旧)電撃の影響で、俺の身体はぴくりとも動かなっていた。
(新)電撃の影響で、俺の身体はぴくりとも動かなくなっていた。
(旧)魔方陣
(新)魔法陣