第5章 ~国家調査団と白装束 6~
「全く、往生際が悪くって!!」
ニヒルな笑みを苦し紛れに張り付けながら、カインは大きく息を吸い込み、思い切り吐き出した。
オーロラのようなプリズムを放つ絹糸が舞い上がったかと思うと、銃弾に纏まりつき瞬間冷凍。
拳大の氷の塊がカインの前にゴトリと落ちた。
「足掻くのはもう止め給え。」
カインは、固く凍り付いた唇を舐めまわす。
「君のような人間を機関に招き入れたことは私にも責任がある。これ以上逃げ回ろうものなら私の権力をもってして絶対監獄島に送還してあげよう。」
「逃げ回るだと。それは違う。」
白装束は、発砲するその反動を利用し氷の上をスケートのように移動する。十分距離を取り、晒した素顔に片手を当てた。
「狙うのは俺の方だ。対象者の首は必ず持って帰る。」
「・・・また来るのかい?」
「もう貴様には関係のないことだろう。調査団とやらに紛れて対象者に近づけたまでは良かったが・・・。ここまで貴様が頭を突っ込んでくるとは。」
「君が私の千竜矛を盗んだからだよ。今度調査団採用試験受けに来ても絶対雇ってあげなくって。」
「貴様らがまたこの国を訪れたその時は、皇族もがらりと変わっていることだろう。それを見て、私のことを思い出すがいい。」
言い終わるや否や白装束は身を屈め、全身をばねのようにしならせながら跳躍。
どこにそんなエネルギーを残していたのかと思うほど、城壁を軽々と超えていき姿を消した。
「・・・深追いはしない方がよくって。君達だけでは捕まえっこなくって。」
後を追おうとする調査団員達にカインはやんわりと制止をする。
「千竜矛がこうして戻ってきた。目的は達成したのだから。」
「・・・お前たちの目的だがな。」
「皇子殿。私も命を削ってケンカを仲裁してあげたんだよ。もっと喜んでほしくって。」
アナキスのぶっきらぼうの言い方に、いつもの笑みで答えるカイン。
確かに、自分ひとりでどうにかすることができただろうか。カインを頼っていたのは本当のことだったのに、ありがとうのひとつでも言えば良かっただろうか。
白装束が跳躍する寸前、視線がかち合ったのは間違いではない。
そして冷静な殺し屋の双眸に映っていたのは、どうやら俺1人ではなかったらしい。