02.ようこそ【不思議の国】号へ
彼らは求めた。
【神子の玩具】と呼ばれる秘宝を。
まるで子どものように。
それがどこにあるか、
それがどんなものなのかも分からずとも、
彼らは捜し続けた。
そして、後に発見された事実に辿りつく。
それは、【主人公】と呼ばれる存在にしか
手にすることができない、と。
それは、【神子】が認めた【娘】にしか
見つけられない、と。
それから気付かされる、現実。
【神子】とは一体何者なのだろうか?
謎が謎を深めるだけではあれど、
それでも彼らは諦めなかった。
深く蒼い広大な海へと繰り出していく。
それから幾年も年月は流れたが、未だに
【神子の玩具】を手に入れたとの情報は、ない。
「なぁ、ネズミ」
「ヤマネです。何ですか猫」
「生意気なこと言ってっと食うぞ」
「人肉はあんまりオススメできませんよ。て言うかやめてください仕事の邪魔です」
「可愛くねー」
「本望です」
ごろんと、甲板に寝そべった。
生意気なネズミをからかったってなにも面白くなんてない。
航海は順調すぎてつまらなかった。
どこみても海、海、海、海、海!
一面青しか見えない。
何かすることもない、何か見つけることもできない。
別に仕事なんかいらないけど、それでも退屈は嫌いだ。
船のことなんて全部魔法でやるから、俺が何かやる必要もない。
「なぁ、ネズミ」
「ヤマネです。今度は何ですか、猫」
「なんか面白いことないわけ? むしろお前が何かやれ」
「何むちゃ振りしてるんですか。僕は貴方と違って忙しいんです。暇ならマッドに言って仕事を貰ってくださいよ」
「仕事はいらない、好きじゃないし。刺激が欲しいだけ」
「じゃあ、今すぐ海にでも飛び込んでサメにでも追いかけられてください」
「サメねぇ……。なんかフカヒレ食べたいかも」
あの濃厚スープの味を思い出してペロリと舌なめずりしたら、ネズミがびくりと肩をすくませたのが見えた。
猫とネズミと言ったって、ただの呼び名なだけなのに。
それでいちいちビビってる。
何事もないようにしているのは知っているけど、俺が恐いんだろう。
何故だかは知らないけど。
「そんなに暇ですか?」
とん、と耳に響いた声。
耳障りじゃないけど好きじゃない甘い声。
誰だかなんて見なくったって分かる。
「暇だけど暇じゃない」
「奇遇ですね。幸い、私も退屈をもてあそんでいたんですよ」
「うわ、嬉しくない奇遇。あんたと同じとか考えるだけで嫌だね」
優美な笑みとでも称されそうな笑顔で甲板に出てくる。
何の気まぐれだか。
日焼けは嫌いだから滅多に甲板になんか出てこないくせに。
潮風に混じって香水の匂いが鼻につく。
好きじゃない。
むくりと身体を起き上がらせて、ひらりと船縁へと移る。
だらんと腕を投げ出して、キラキラと輝く海を睨む。
「あ―…つまんない」
上下に揺れる船に合わせて揺れる視界。
何時間も何日も何年も乗ってれば、さすがに慣れる。
気持ち悪さすらなくて、今ではこの揺れで爆睡も余裕だ。
「んー?」
海ばっか見てるのも飽きた。
だからなんとなく上を……空を見上げた。
「……ねぇ、帽子屋」
「どうかしましたか、チェシャ」
「あれ、何に見える」
「あれ?」
ゆっくりと指差す。
帽子屋だけじゃない、ネズミもその指の先を見る。
見える? あれ、何だと思う?
「……人、ではないでしょうか?」
「だよねぇ」
くるくると何もない空から落ちてくる黒い影。
声も出さずに、何で空から落ちてるんだろ。
いや、そんなことはどうでもいっか。
「で、どうすんの?」
「猫、目が輝いてますよ」
「まぁ、どうするも何も……」
ゆっくりと、手を伸ばした。
その影に向けて。
「人助けはするものでしょう?」
そうこないとつまらない。
さすが帽子屋、分かってる。
これからしばらくは退屈しなさそうだ、なんて。
飽きたら捨てればいいだけ、なんて。
この時はそう思っていた。
だからただ純粋に、帽子屋が放つ魔法で救い出されるそいつの存在を、楽しみにしていた。




