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BLUE_LIGHT~海賊アリス~  作者: 葉山
Episode0.不思議の国のアリス
3/36

02.ようこそ【不思議の国】号へ


 彼らは求めた。


 【神子の玩具】と呼ばれる秘宝を。

 まるで子どものように。


 それがどこにあるか、

 それがどんなものなのかも分からずとも、

 彼らは捜し続けた。


 そして、後に発見された事実に辿りつく。



 それは、【主人公】と呼ばれる存在にしか

 手にすることができない、と。


 それは、【神子】が認めた【娘】にしか

 見つけられない、と。



 それから気付かされる、現実。



 【神子】とは一体何者なのだろうか?



 謎が謎を深めるだけではあれど、

 それでも彼らは諦めなかった。


 深く蒼い広大な海へと繰り出していく。


 それから幾年も年月は流れたが、未だに


 【神子の玩具】を手に入れたとの情報は、ない。






「なぁ、ネズミ」

「ヤマネです。何ですか猫」

「生意気なこと言ってっと食うぞ」

「人肉はあんまりオススメできませんよ。て言うかやめてください仕事の邪魔です」

「可愛くねー」

「本望です」


 ごろんと、甲板に寝そべった。

 生意気なネズミをからかったってなにも面白くなんてない。


 航海は順調すぎてつまらなかった。

 どこみても海、海、海、海、海!

 一面青しか見えない。

 何かすることもない、何か見つけることもできない。


 別に仕事なんかいらないけど、それでも退屈は嫌いだ。

 船のことなんて全部魔法でやるから、俺が何かやる必要もない。


「なぁ、ネズミ」

「ヤマネです。今度は何ですか、猫」

「なんか面白いことないわけ? むしろお前が何かやれ」

「何むちゃ振りしてるんですか。僕は貴方と違って忙しいんです。暇ならマッドに言って仕事を貰ってくださいよ」

「仕事はいらない、好きじゃないし。刺激が欲しいだけ」

「じゃあ、今すぐ海にでも飛び込んでサメにでも追いかけられてください」

「サメねぇ……。なんかフカヒレ食べたいかも」


 あの濃厚スープの味を思い出してペロリと舌なめずりしたら、ネズミがびくりと肩をすくませたのが見えた。


 猫とネズミと言ったって、ただの呼び名なだけなのに。

 それでいちいちビビってる。

 何事もないようにしているのは知っているけど、俺が恐いんだろう。

 何故だかは知らないけど。


「そんなに暇ですか?」


 とん、と耳に響いた声。

 耳障りじゃないけど好きじゃない甘い声。

 誰だかなんて見なくったって分かる。


「暇だけど暇じゃない」

「奇遇ですね。幸い、私も退屈をもてあそんでいたんですよ」

「うわ、嬉しくない奇遇。あんたと同じとか考えるだけで嫌だね」


 優美な笑みとでも称されそうな笑顔で甲板に出てくる。


 何の気まぐれだか。

 日焼けは嫌いだから滅多に甲板になんか出てこないくせに。


 潮風に混じって香水の匂いが鼻につく。


 好きじゃない。


 むくりと身体を起き上がらせて、ひらりと船縁へと移る。

 だらんと腕を投げ出して、キラキラと輝く海を睨む。


「あ―…つまんない」


 上下に揺れる船に合わせて揺れる視界。

 何時間も何日も何年も乗ってれば、さすがに慣れる。

 気持ち悪さすらなくて、今ではこの揺れで爆睡も余裕だ。


「んー?」


 海ばっか見てるのも飽きた。

 だからなんとなく上を……空を見上げた。


「……ねぇ、帽子屋」

「どうかしましたか、チェシャ」

「あれ、何に見える」

「あれ?」


 ゆっくりと指差す。

 帽子屋だけじゃない、ネズミもその指の先を見る。


 見える? あれ、何だと思う?


「……人、ではないでしょうか?」

「だよねぇ」


 くるくると何もない空から落ちてくる黒い影。


 声も出さずに、何で空から落ちてるんだろ。

 いや、そんなことはどうでもいっか。


「で、どうすんの?」

「猫、目が輝いてますよ」

「まぁ、どうするも何も……」


 ゆっくりと、手を伸ばした。

 その影に向けて。


「人助けはするものでしょう?」


 そうこないとつまらない。

 さすが帽子屋、分かってる。


 これからしばらくは退屈しなさそうだ、なんて。


 飽きたら捨てればいいだけ、なんて。


 この時はそう思っていた。

 だからただ純粋に、帽子屋が放つ魔法で救い出されるそいつの存在を、楽しみにしていた。




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