第三部 過去
「美咲」
春樹が美咲の名前を呼んだだけ。
それだけなのに…胸が痛む。
こんな気持ちには、納得がいかない。
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「あ、あのさっ美咲と春樹って何か関係あるんですか!?」
「は?」
単刀直入に聞かれてかなり驚いている男子。
それは勿論驚くだろう。いきなりしゃべった事も無い女子から呼び出されて、いきなりそんな事を聞かれたら…
「美咲」
彼がそう呼んでいるのを聞いた日から、何か心にまとわり付くものがあった。
「名前で呼ぶなんて、別に普通」
確かにそうだと思う。
だけど、美咲は男女どちらからも「遠藤」や「遠藤さん」と呼ばれている。「美咲」と呼んでいるのは、沙世と春樹だけ。
それに、春樹が女子の事を名前で呼んでいるのは…美咲だけ…
ついに我慢できなくなった沙世。だが、本人に聞く勇気も無ければ、美咲に聞く勇気も無い。
そこで考えて出した結論が「仲が良さそうな男女に聞く」だった。そして、今にいたる…
「は、何で?」
何か疑わしそうな目で見てくる男子。思わず沙世も冷汗が出てくる。
(さ、さすがに単刀直入で聞くのはマズかったか・・・っ私の事知ってるか分からないし。一応、同じクラスだけど・・・)
沈黙が続く…
目の前に居るのは、沙世と同じクラスでいつも春樹の隣に居る男子…高橋潤。
あまり表情が変わらなく、一言で言うと「クール」。髪質は柔らかくて薄い茶髪。背は春樹よりも少し高そう…。
いつも眠そうにしていて何を考えているのか分からない不思議な人、でも、とても優しい人だと人気が高い。
春樹と並ぶと良い「絵」になるらしい…。
(…確かに。初対面からしてもかっこいいと思えるし、ね…)
「…で、何でそんな事聞くの?」
沈黙の間に潤の声が響く。
「あ、あのですねっ何か…」
「…名前で、呼びあってたから…」
「?…あ、あぁー…」
沙世の質問に一瞬「分からない」と言う様な顔をしたが、すぐに思い出した様に返事をした。
また、沈黙が続いた。
すると、潤が「あのさ――」と声をかけてきた。
「あ、はいっ!」
驚いて顔を上げると、潤からとんでもない質問が投げかかってきた。
「――あんたさ、春樹の事好きなの?」
「え?」
とんでもない質問に、沙世の目は点になってしまうぐらい唖然とした。
(え…好きって、春樹の事?…でも私、男子好きになった事無いし…)
少し考えてから、沙世は言った。心に違和感を感じながら…
「…いや、好きじゃ無いと思うよ。たぶん!…って何で?」
「いや、別に。ま、好きじゃ無いんなら言ってもかまわないか」
潤は、少し困った様な顔をしていたが「ま、いっか」と言うと美咲達の話し始めた。
「あいつらさ、て言うか、春樹の一方的だったんかも知れないけど…中2の頃、付き合ってたんだって」