第二部 違和感
満開の桜。
中学生最後の1年間。
クラス分けが最悪だった事がどうとかは置いといて…なんとなく、分からないけど楽しくやっていけそうな気がした。
始業式から1週間程たったある日、そんな事を美咲に言ってみると…
「は!?私なんて全っ然楽しくも何とも無いよ!何か知らないけど色んな男に交際申し込まれるし…沙世がいるからいいものの、まったく…」
沙世の話を聞くと、明らかに不機嫌そうな顔をしてぶつぶつと文句を言った。
「あははは…」
困ったように笑うと「私は沙世だけいれば良いんだよ、男とか…うっさいんだもん」そう言って美咲は笑ってきた。
美咲ははっきり言って「すごく美人」だ。
スタイルも良いし色も白いし、私と比べると……なんて考えて落ち込む沙世。
だから、美咲に好意を持つ男子は数多い。特に、美咲の様な人ほどしつこく付きまとってリベンジを仕掛ける人が多いのだ。
美咲は元々、男子には興味が全くといって良いほど無い。そのせいで、男子達が熱くなるのかもしれない…
ともかく、美咲からすれば「男なんて目の上のたんこぶ」状態。男子達はこりることも無く、毎日毎日放課後にアタックしてくるのだ。
沙世から見ると振られていく男子達は「どんまい」と言うしかなく、美咲は美咲で本当に大変そうだなぁと思っていた。
「美咲も毎日毎日大変だもんね〜、頑張れ!その内あっちもあきらめるって!」
「…だと良いけどね…」
そう言って廊下の窓の方を見ると、この間美咲に交際を申し込んできた男子生徒がこっちを見ていた。
つられて美咲も沙世の目線を追うと「はぁ〜…!!」と言ってため息をついた。沙世は苦笑いした。
美咲は面倒くさそうに窓の所まで行くと「…何、また来たの?」と素っ気無く言った。男子は「俺、やっぱあきらめきれないからー…」と言う。
「だぁからさぁ〜、私男自体興味無いって言ってるでしょ?しつこいってば!」
美咲が遂に怒った。男子はまだ未練があるような顔をしていたが、
「……じゃあ、遠藤が好きな奴教えてくれたら…あきらめるよ…」
そう決心を決めた様だった。「恋」の「こ」の字も知らない沙世だったが、本気だという気持ちは伝わってきた。
美咲にも伝わったらしい、はいはいと言った感じでこう答えた。
「好きな奴は〜…沙世」
「え?」
男子がびっくりした顔をする。
「だから、沙世だって言ってんのっ」
「あははははは〜……」
沙世は思わず笑ってしまう。美咲が好きな人を聞かれるといつも必ず決まって「沙世」、と答えるのだ。
「え、でもだって女子だろ、男子は?」
「女子も男子も関係ない。男子は嫌いだってば」
「でもそれは友達としてだろ。本気なわけないだろが、同姓だろ?」
「…どっちにしろ、そーゆう事。私、はっきり言ってまだ女子の方が好きだし…」
美咲はそれだけ言うと、窓をピシャッと閉めた。
「おつかれ〜」
笑いながら沙世が手を振る。美咲が疲れた顔をして戻ってくる。
「…笑い事じゃないよ」
美咲はそう言うと少し呆れながら、でも困ったように笑った。
そして、また2人で他愛も無い会話が始まろうとした。
その時、
「美咲ー、また告られてたなぁ。しかも同じ奴に!」
(あ、春樹…)
どこからか、いきなり春樹が口を出してきた。美咲は不機嫌そうに春樹を睨んだ。
「…うるさい。しつこい奴って嫌いなの」
「み、美咲〜睨まないの!」
邪気が溢れ出している美咲を、沙世が何とか抑えようと必死になって言った。
「……沙世がそうゆうなら、頑張って止めるわ」
「ブッアッハハハハッ!」
「!?」
驚いて春樹の方を見ると、お腹を抱えて爆笑していた。
「え、何。どうかした!?」
沙世がそう聞くが春樹は爆笑していて耳に入っていないらしい。美咲が「気違い」だとでも言うような目で春樹を見ている。
沙世も呆れて春樹を見た。
「ッ…はぁ〜。あ、ごめんごめんっ!」
ようやく春樹は自力で抑えた。春樹の目に涙が浮かんでいる。
(それ程笑える事なんて今あったっけ…)
沙世は考えたが、当然の事頭の中に浮かぶ答えは何も無かった。
だが、その代わりに何か違う別の感じが心に入ってきた様な気がした。
(…?なんだろ…)
そんな事を考えていると、春樹が笑っていた真相を明かし始めていた。
美咲と春樹が喋っている。
「――だからさっき、美咲が水野に注意されてただろ?外見大人っぽいのは美咲なのに水野に叱られてて…」
「美咲」
「だから何よ」
「だぁから、美咲と水野が親子みたいに見えんのに何か違くて、笑えたの!」
「美咲」
「何それ。やっぱあんたおかしいよ」
「何が!」
「頭に決まってるでしょ?」
「なんじゃそりゃ!美咲の方がおかしいって!」
「美咲」
――…何?
何かがおかしい…。
何かが心の中でモヤモヤしてて、気持ち悪い。
春樹が「美咲」って呼ぶだけで…痛い。
なんだろ、分からない…――
そんな事を考えていることに夢中だった沙世。
その姿を美咲が見ていた事も
気づかずに…