第3話 悲劇
希望新聞には北崎直人が2年A組の教室で殺害されたこと。そして、6月8日。北崎直人が殺されて中ヶ原連続殺人事件が初めて発生した日。この日には初寺高校で毎年、北崎直人の命日が行われている。そして、悲しみと絆の祭典が毎年の6月8日に行われている。そのことが書かれていた。
「君もあの事件を調べるのに苦労しているんだね。」
「!?」
仲吉は思い切って振り返ると長田がいた。
「6月8日は伊理さんの兄の直人くんがここで殺された日と言うのは知っているよね。そして、この初寺高校には残念なことに多くの中ヶ原連続殺人事件の被害者を出しているんだ・・・。結構、警備は強化しているんだけどね・・・。」
「で、やけに警備が鋭いなっておもったわりにここに来ていますね。」
「何、ここの校長先生に許可をしっかりと取ってきた。又中先生にもちゃんと言っておいているよ・・・。又中先生は僕が仲吉くんに用事があるってことにしてくれたよ。校長先生にしか事件のことは言ってないけどね・・・。」
「そうですか。」
中ヶ原連続殺人事件は数多くの被害者を出していて、とくに初寺高校の被害者は生徒、そして教師と非常に多い。
「そして、初寺高校の敷地内には慰霊碑があってそこには死んでしまった人たちの名前が次々と書かれているのさ。もちろん浜無さんの名前もね。」
「いった誰がこんなことを・・・!許さねぇ・・・!」
「確かにそれは僕にも同意するよ・・・。知らない人たちであっても中ヶ原の仲間だから・・・。犯人を絶対に許せないよ・・・。」
だが、まだ手掛かりや証拠は不十分であった。
「そして、確か今年の6月7日。悲しみと絆の祭典の昨日に竜野正人が何者かに殺されたという事件がったよ。そして、今日の昼間に極秘で竜野正人の葬式が行われた。もちろん、今日は輝雄くんは休みだよ。」
輝雄の弟の正人が殺されて3日。今日、6月11日に葬式は行われていた。
「次は誰が殺されますか・・・?」
「分からないな・・・。共通点が透明で普通の目では醜い白い粉が撒かれているそれしか・・・。そして、最初の事件の被害者。伊理さんの兄の直人くん。彼は詩っての通り、4年前の6月8日にこの教室で死んでいるよ。事件発生時は別の場所で授業をやっていたよ。」
「それで今の教頭先生。大原貴一先生は当時の2年A組の担任をしていたんだよ。今年になって教頭先生が離任して新しく大原先生が教頭になったんだよ。」
高校の教頭。大原貴一が当時の北崎直人の担任であったことに・・・。
「でも、結構留守にしているからいる時に話聞いてみたら?大原先生が当時に今の先生たちの中ではすごく詳しいからさ。それに私の名をつかってくれれば事件のことを話してくれるよ。」
普通ではあまり中ヶ原連続殺人事件のことを初寺高校の教諭・生徒同様誰も話してくれない。しかし、この学校の教頭である大原が当時の2年A組の担任であったため長田の名前を使えば簡単に話してくれる人だという。
「大原先生は私の病院によく来る人さ。結構、事件のことがトラウマにでもならなければいいけどね・・・。直人くんの教師をやっていたというのは事実だし、僕の言ったことも全て事実。それとこれを又中先生に渡しておいてくれ。じゃあ。」
長田は2年A組の教室から廊下へと歩いていった。
「俺もそろそろ帰るか。又中先生にアリバイでも作るか。又中先生に用事があるってことにしているから。」
そう言って仲吉は2年A組の教室を後にして廊下を歩いて職員室に向かった。
職員室に向かった仲吉は又中に会う。
「何だい?徳川くん。私に何か用事かい?さっき、君は教室で長田先生と何か話していたが・・・。」
「実は長田先生が又中先生にこれをって・・・。」
仲吉はさっき長田からもらった書類を又中に差し出す。又中はしっかりとそれを受け取る。
又中の表情を観察してみると又中は深刻な顔をした。
「確かに受け取ったよ。じゃあ、徳川くん。しっかりと帰るんだよ。」
「はい。」
仲吉は又中に見送られて帰ることにした。
又中の表情から長田の書類には何かが書かれていた。だが、これは何かの検査の時の結果のような書類だと言うことを仲吉は考えた。
仲吉が帰る日はもう夕焼けであった。2年A組の教室を調べていたからだったからだ。
「あら?あなたが長田先生が言っていた徳川仲吉くん?」
仲吉が表をあげて2人の女性をよく見た。1人は緑の髪に水色の服を着ていて。もう1人は茶色の髪に白いシャツを着ている。
「誰!?」
緑の髪の女性は仲吉をよく見て喋り始める。
「私は長田先生の病院に務めている看護婦の菊地美紀。」
菊地が名乗った後に茶色の髪の女性も自己紹介を始める。
「そして私は初寺高校2年A組の副担任の萩野谷静香。よろしくね。」
実は仲吉は2年A組の副担任に会ったことがなかったのだ。最初の登校日も10日も・・・。
「副担任の私には徳川くんには会ってなかったわ・・・。又中先生から転校生が来ているという話は聞いていたけど・・・。この頃は風邪で休んでいたから・・・。」
「それで・・・何か用ですか?」
「今年の6月8日。北崎直人くんの命日。悲しみと絆の祭典がここ初寺高校で行われているのよ。その昨日の6月7日に竜野正人くんが中ヶ原連続殺人事件によって殺された日。」
「・・・・・・。」
菊地が今年の6月7日の輝雄の弟である正人について話し始めると、便乗して萩野谷も説明を始める。
「この日の悲しみと絆の祭典が行われて多くの中ヶ原の人たちが初寺高校に来るわ。それを利用されたかも知れないの。正人くんは悲しみと絆の祭典が終わって家に帰る途中で首がなくなっている状態の正人くんの死体があったの。犯人が正人くんの首を持っているかも知れないわ・・・。」
正人は今年の6月7日に犯人に首が取れて首が持っていかれて死亡した。
浜無が殺害された時は首はしっかりと現場にあった。だが、正人の場合は首が何者かによっていかれたらしいのだった。
「これは結構残酷な事件ね・・・。考えただけで・・・。大丈夫?」
「大丈夫です。菊地さん。では俺はこれで。」
仲吉は2人に別れを告げてその場を走っていった。
仲吉がはっきりしたことは謎の白くて醜い透明な粉は正人のときにも降りかかっていたのではないかとおもっていたことであった。中ヶ原連続殺人事件の共通点が謎の白くて醜い透明な粉が死体に降りかかっていることである。
それだけではない。沙良、伊理、輝雄、彩子の4人全てが中ヶ原連続殺人事件の被害者の関係者である。いや、4人以外にも初寺高校では中ヶ原連続殺人事件による殺人が行われて多くの職員や生徒、保護者、一般人。次々と死んでいく。
家に帰ってきた仲吉はしばらく中ヶ原連続殺人事件のことを考えていた。その間に時間はかなり経過している。
両親はまだ仕事中で家にはいなかった。
すると突如、電話の音楽が流れてきた。これを聞いた仲吉はさっそく電話に出る。
「もしもし。」
『中ヶ原署の黒田です。徳川仲吉さんですね。』
「はい。」
「竜野正人さんは首がなくなった状態で死んでいます。」
最初に黒田が話してきたのは輝雄の弟である正人についてであった。
「はい。俺の副担任の萩野谷先生からそのことを聞きました。」
萩野谷に最初に会ったのは夕方頃。そして、菊地もいた。
初寺高校の職員や教師、生徒たちは事件に関する話は黙っているはずなのに萩野谷は竜野正人について話した。
さらに竜野正人について菊地や萩野谷から聞いたことを黒田に話す。
「そうですか。話が変わりますが伝えたいことがあります。」
「なんですか?」
「星見さんは3年前の1月に母親を失いしばらくして母親を失ったショックで多くの人を机や椅子、素手で殴り、重傷にした事件が発生したということが分かりました。」
「え!?沙良が・・・!?嘘ですよね?沙良がこんなことをするなんて・・・。」
沙良が事件で母親を失ったのがショックで学校でとんでもない事件を起こしていたというのはものすごく初耳であった。
事件のショックや何か失ってあまりにも沙良は悲しんでいると考えている。
「残念ながらこれも本当です。だからと言ってこの人は信じないと言うのはよくありません。」
「分かっています・・・。」
「星見さんは多くの同級生、教師を机や椅子、素手などで殴り、多くの同級生が病院に搬送されました。事件発生時は人を無差別に殴り、そして教室中や廊下がすごく散らかっています。」
「それで沙良はどうなりましたか?」
「苦しみだして、その後に病院に搬送されました。相当、精神が不安定の状態でした。何とか2年間。中学卒業までに直りました。」
母親を失ったショックで当時の沙良は精神が不安定になり多くの人が沙良によって重傷を負わせてしまった。
沙良にもこれほどの悲劇があったのは仲吉も驚きであった。
「悲劇があるのは星見さんだけではありません。竜野さん、北崎さん、水野さんにだって悲劇があります。中ヶ原連続殺人という悲劇が・・・。」
「・・・・・・はい。」
多くの悲劇が起きる。それはとても恐ろしい自体にあった。
少しの出来事がきっかけで悲劇がすぐに出来、誰かが殺される。さらに殺された事で誰かが悲しみのあまりに殺される。そういうことだってありえるということだ。
「実は白くて透明な粉を偽って死体に振り掛けて、中ヶ原連続殺人事件を偽っている事件が多いです。事件で殺された人の遺族が悲しみのあまり、犯人ではないかと思う人を殺す事件だって発生しています。」
「事件が中ヶ原連続殺人事件だという確実な証拠はありますか?」
「白くて透明な粉があり、それは目ではすごく近づけないと見えません。普通の粉なら白い粉とか小麦粉とかそういうものが基本ですが、白くて透明な粉というものはあまり聞いたことがありません。しかも、何も反応もない粉です。」
毒もない。人に害がある物質も粉には含まれていない。その上、すごく目を近づけないと見えない粉。
「そのため、偽っている事件がありますが、どの事件も偽っているのに失敗しているということになります。だから確実な情報と言えるのです。大量にまいてもすごく目を近づけても見えませんし・・・。」
白くて透明な粉。普通なら考えられない粉。
犯人は何のために人を殺した後にこの人には何の反応もない粉を撒いたのか・・・。
何のために連続殺人を行っているのか・・・。
犯人は誰なのか・・・。
「ではこれで失礼します。」
「ありがとうございます。」
黒田との電話を終えると受話器を置いた。
仲吉は今までの出来事を頭の中で整理を始めた。
(4年前の6月8日。伊理の兄の北崎直人は2年A組の教室でバットで撲殺され死亡。)
(その2日後の6月10日に彩子の父が刃物を刺されて死亡。さらに3日後の6月13日に彩子の母が死亡。)
(3年前の1月1日。沙良の母の星見綺羅が放火により死亡。数日後に沙良は母を失ったことで悲しみのあまり、人を無差別に殴る事件が発生。)
(そして、今年の6月7日。俺が中ヶ原に引っ越す日に3年前の6月8日から行われていた悲しみと絆の祭典の昨日に輝雄の弟である竜野正人が首がなくなった状態で死亡。そして、3日後の6月10日に浜無康成さんが死亡。)
今はっきりしている事件はこれぐらいであり、それ以外にも中ヶ原連続殺人事件により、多くの事件が発生している。
(まだ情報不足か・・・。くそ・・・。)
6月12日。仲吉は朝になって起床する。
「ふああ・・・。もう、朝か・・・。」
現在の時刻は午前6時半と結構こう見えても仲吉は早起きである。
仲吉は朝ごはんの鮭とワカメの味噌汁を食べている。
「おう。仲吉。中ヶ原に来て4日。その間にいい出来事は起きたか?」
仲吉はもう中ヶ原に来て4日経っている。
数々の悲しみ。そう、中ヶ原連続殺人事件であった。この事件がある限り、中ヶ原の人たちはいつ殺されてもおかしくない状況である。
引っ越してきた仲吉たちはこの事件の存在はあまり知らない。この事件はテレビやネットではあまり乗っていない。結構、極秘の情報があるということだった。
「ああ。起きた起きた。」
仲吉は一定の質問を適当に答えて聞き流した。事件のことは黒田に他言しないように言われている。当然、家族にも事件のことは言っていない。
「そうか。そうそう、出張で父さんも母さんも中ヶ原を出ることになったぞ。」
「ええ。だから留守番よろしくね。」
「はいはい・・・。」
一定と満子は仕事で忙しくて仲吉によく留守番を頼んでいる。そのため、家には仲吉1人が多い。
仲吉は着替えて玄関を出る。
「あっ。仲吉くん。」
「さ・・・沙良か・・・。」
家の前に沙良が待っていた。
昨日、黒田から沙良が事件で母親を失った多くの人が重傷になったという悲惨な事件が発生している。
だが、黒田から仲間を信じるようにと言われている。仲吉はその期待に答えようとしていた。
「行こう。仲吉くん。」
「ああ。」
仲吉は沙良と共に学校へと向かった。
しかし、嫌な予感がしてたまらなかった。
「殺す殺す殺す殺す殺す・・・。」
「どうしたんだよ・・・。沙良・・・。」
沙良は殺す殺す殺すと連続でブツブツ言い始めた。
「へ!?な・・・なんでもないよ。」
「そ・・・そうか・・・。」
いったい何だったのだろうか。沙良が殺すと連続して言い始めるなんて・・・。
「仲吉くん!沙良!おはよう!」
向こうから聞こえた大きな声。間違いなく伊理であった。
「おはよう。伊理ちゃん。」
「おはよう。」
伊理は自分の兄が最初の事件の被害者である人だ。この事件のことは黒田から他言しないようにしている。
最初に中ヶ原に引っ越してきて初寺高校に転校した初日を考えていた。あの事件に関する出来事はできるだけ沙良や伊理を含めて多くの人があの事件を隠しているように・・・。
午前の授業が終わり、仲吉たちは屋上にいた。
「来たよー。仲吉くん。」
「仲吉さん。私もここで食べます。」
その声は輝雄だった。彩子も一緒に来ている。
仲吉以外の4人は全て事件被害者の関係者である。殺されて実際につらいのはこの4人だろう・・・。
「仲吉さん、美味しそうな弁当ですね。」
「そ・・・そうか・・・?お前らも美味しそうだけどな・・・。」
仲吉の弁当には母である満子の手作りのハンバーグとミートソースのスパゲティ、トマトサラダと白いご飯が入れられていた。冷凍食品の面影はまったく感じられない。
沙良たちの弁当も仲吉の弁当に負けじと豪華な弁当であった。
「あら?徳川くんたち、ここにいたのね。」
「萩野谷先生!」
昨日、夕方に菊地と共にいた仲吉たち2年A組のクラスの副担任である萩野谷だった。
「昨日、あったばかりね。ここで昼食?」
「萩野谷先生、どうして屋上に来ているんだ?」
「萩野谷先生はよく屋上に来ているの。」
沙良がいうには萩野谷はよく屋上に来ているようだった。
「星見さんのいうとおり、私はここによく来ているわよ。徳川くんはこういうの始めてらしいけど。」
萩野谷は柵に腕を乗せると空を見上げた。日光を見上げて、手を伸ばす。
彩子は萩野谷に近づくと萩野谷と同じように柵に腕を乗せた。
「萩野谷先生は病気になりすぎです。大丈夫ですか?」
「ええ。これから気をつけないと・・・。」
「そういえば、萩野谷先生は仲吉くんがきた頃にも病気で休んでいましたね!」
6月9日に仲吉は萩野谷の姿を見かけなかった。どうやらこの日は病気で休んでいたらしい。
輝雄は弁当を食べて飲み込んでから仲吉に近づいた。
「萩野谷先生は体が弱くてよく風邪になりやすい体質だよ。6月9日は夏風邪で休んでいたから。」
萩野谷は確かに体が弱くて風邪になりやすい。そのため休むことが多くなっているらしい。
「大丈夫よ。水野さん。私はもう夏風邪は直りましたから。」
「よかったです。」
「じゃあ、私はこれで失礼させてもらうわね。」
「分かりました。」
萩野谷はそう言い残すとその場を歩いて屋上を後にしていった。
放課後になると皆は家に帰ったり部活をしたりする。
初寺高校はなぜか、部活をする人より帰宅部がかなり多い学校であった。そのため、それぞれの部活の人数は少ない。
「さて、帰るか・・・。あれ?沙良と伊理は・・・何処だ・・・?」
いつの間にか沙良と伊理はいなかった。仲吉は学校中を探し始めた。
いったい何処へいったんだ・・・?
「今度は屋上の方へ行ってみるか・・・。」
仲吉は階段を次々と上がって屋上まで上った。
「やっと、ついた・・・っつ――!?」
仲吉は見てしまった。
あれは明らかに誰かによって殺された血塗れの死体だった。
「なんだよ・・・これ・・・!?」
仲吉は死体があるほうへ駆けつけた。後姿は顔が見えなくて誰だかわからない。
「しっかりしろ!?って伊理!?おい、伊理!しっかりしろ!」
何度も伊理を呼びかけたが残念ながら何かによって頭が割られていて死んでいた。
「いったい誰が・・・。これは・・・。」
「早く警察に連絡を・・・。」
仲吉はポケットから携帯を取り出すと110番をかけて連絡する。
「もしもし、初寺高校の屋上で伊理が何者かによって殺害されました。」
そう言い残してしばらく電話した後に警察が来るまで現場をそのままにする。
しかし、伊理が殺されているというのは驚きであった。嫌な予感はあきらかにしていた。まさにそのことであった。
「と言うことは・・・。沙良も・・・!?」
沙良の姿が放課後にはもう見えなかった。沙良がいないと言うことは・・・。
沙良が何者かによって殺されている可能性があるということであった。
すぐに仲吉は警察が来るまでの間に沙良を探す。
「いったい何処にいるんだ・・・。沙良・・・。」
廊下、教室。何処に言っても見当たらない。
2年A組の教室に来た仲吉はすぐに教室の扉を開けて中に入る。
「これは・・・。」
仲吉が目にしたのは萩野谷の死体であった。萩野谷も頭を割られて大量の血が流れている。
「萩野谷先生!?萩野谷先生も殺されて・・・。」
ここはかつて伊理の兄である直人が最初の被害者となり殺された事件現場でもあった教室である。また再びこの教室は殺人現場と化していた。