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第2幕

 文科九組は第二外国語でフランス語を選択したクラスだ。男女比はほぼ半々。一般教養科目の出欠は各自の興味や関心によってばらばらだが、英語とフランス語の時間は全員が集まる。そのため、何かあるとこのように授業後に残って話し合うことも多い。


 試験が終わってしまうと今日は取り立てて予定はない。そのため、プライベートな都合がある者を除き、打ち合わせの後も引き続き一緒に行動していた。


 青々と葉を茂らせたイチョウ並木が真っ直ぐに続いている。食堂やコンビニなどの店舗が入る東のコミュニケーションプラザと、グラウンドやテニスコートがある西のエリアを結ぶこの道は、キャンパスのシンボルとして近隣住民にも親しまれている。散歩に訪れる人々も多く、秋にはギンナン拾いの中高年で賑わう。


 ツヤカたち演劇班は自然とひとかたまりになって歩いていた。


「ところで、まず何から手を付けりゃいいんだ?」

「そもそも、この中に多少なりとも演劇のことをわかってる奴って、いるのか?」


 ノトリエの問題提起に全員が顔を見合わせる。打ち合わせでは仕切り役を務めることが多い彼だが、今は一人の班員にすぎない。もちろん、演劇に関する知見はまるでない。


「ねえ、今日のうちにもうちょっと話しておいた方がよくない? みんな、この後も時間あるでしょ?」


 ジュンジュンが提案する。嘘か誠か、入学試験をほぼ満点の成績で突破したという才女だ。一般教養科目では彼女のノートの世話になっている者も多い。


「確かに。少なくとも、次のアクションとして何をしなければならないかくらいは目途をつけないと」


 アーチャンが賛同する。彼女はもともと理科系だったこともあり、筋道だった理詰めの話しぶりには定評がある。


 しかし、そんな二人もヨーコの天真爛漫さにはかなわない。


「そんなことより、まずお昼食べよ。お腹空いた」


 そう言って颯爽と先陣を切る。一団が向かうコミュニケーションプラザの南館入口にはガラスケースが置いてあり、今日のメニューの見本が並べられていた。




 南館は食堂棟だ。一階は丼ものや麺類などの単品系が多く、二階は定食が中心となっている。演劇班の面々は九組の定位置である二階の南西隅に集まっていた。教室だけでなくここもよく会議室代わりになるのだ。テーブルの上には食べ終わった後の食器やトレーが片付けられないまま残っている。


「演劇とは?」


 キッカワが口火を切る。


「シェイクスピア」

「ギリシャ悲劇」

「ゴドーを待ちながら」


 連想ゲームのように各人から次々と単語が出てくる。


「ブロードウェイ」

「それってミュージカルじゃないの?」


 ジュンジュンの指摘にヨーコが驚いた顔を見せる。


「えっ? ミュージカルも演劇の一種じゃないの?」

「それを言うなら歌舞伎は? 日本の伝統的な戯作よ」


 ユツキが身を乗り出してくる。彼女は日本の伝統芸能に造詣が深い。というか、ヲタクだ。授業もそこそこに大学の近くにある能楽堂に通い詰めているらしい。この大学を志望したのも能楽堂の存在が大きかったとは本人の弁だ。


「そこまで広げると、さすがに収拾つかなくないか? だいたい、歌舞伎なんて俺たちにできるのか?」

「うーん、そう言われると、衣装を作るのにもかなりお金がかかりそうね」


 ツヤカの疑問にユツキがトーンダウンすると、それまでの盛り上がりはすっかり鳴りを潜めてしまった。議論の取りかかりとしては良いのだが、連想ゲームをいつまでも続けるわけにもいかない。この先どのように話を進めていけばいいのか。


 沈黙を破ったのはサクライだった。彼独特の朴訥とした口調で語り始める。


「今までの話からして明らかなように、そもそも僕たちは演劇に関する知識が乏しいわけだから、世の中にはどんなジャンルや形式があるのか、まずはそれらを調べるところから始めたらどうかな?」


 何人かがスマホを取り出し、さっそく検索を始める。


「西洋の演劇は悲劇から始まり、やがて喜劇が成立した」

「演劇の三要素は俳優、戯曲、観客」

「日本では落語も演劇の一種とみなされるみたいだ。意外だね」

「現代の演劇は大まかに言って商業演劇と小劇場演劇に分かれるみたいだな。とはいえ、劇場の大きさくらいしか違いがないようだけど」

「動画サイトにもいっぱい上がってるけど、どれ見たらいいのか、全然わかんないな」

「いつの間にか、好きなアニメとか見ちゃってそう」


 連想ゲームがさらに拡散し、ますます収拾がつかなくなってきた。もはや言いっぱなしに近い。ブレインストーミングの試験なら合格点はもらえなさそうだ。だが、どうやってまとめに入ればいいのか。


 この流れにけりをつけたのはカトーだった。


「じゃあ、見に行ってみるか」


 全員の視線が一気に集まる。


「演劇は身体で表現する芸術だろ? 画面を通じてじゃなく、見る方も実際にその場に身を置いてみたら、いろいろと発見があるんじゃないか?」


 ただでさえ細い目をさらに細め、ニカッとカトーは笑った。

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