第九話 命がけの賭け事
かくして、命がけの賭け事が始まった。
賭け事の基本ともいえるポーカー対決。カードを配る役は、その辺に歩いていた無関係そうなモンスターに頼むことになった。カードが配られている様子を、涼はじっと見守っていた。
「さぁ、賭けるとしましょう。コール!」
「んじゃ、俺もコールするぜ」
賭けられ、積み上がるチップを前に、モンスターはニヤニヤ嗤っている。対する翔は、涼し気な様子でタバコを吸っている。賭けが終わり、カードがオープンされた。
「ははは! 私の勝ちだ!」
結果はモンスターのフルハウス、翔のノーハンドでモンスターの勝ちだ。翔のチップがモンスター側に取られていく。ゲームは次のフェーズに移行する。
再び配られるカード。そして賭けられるチップ。先ほどと同じ状況だ。相変わらずモンスターは翔を見て嗤っている。カードがオープンされ、モンスターのフラッシュ、翔のノーハンドの結果だ。
「いつまでその強気な態度を保っていられますかな? もう後がないのですよ?」
モンスターは翔に対し、そう挑発してくる。一方の翔は、特に何も反応しない。様子を見守っていた涼は、思わず取り乱しそうになったが、翔の言いつけ通りに冷静な様子を保っていた。だが、内心穏やかではない。
「(もう後がないじゃないですか……! 翔、一体何を考えて……)」
モンスターは勝ちを確信し、余裕の様子を見せる。
この勝負は全て、モンスターの手の上なのだ。カードを配らせている無関係そうなモンスターは、実は関係者だ。無関係そうに見せかけて、モンスター側の有利になるようにカードを配っていた。これを見破れなければ、翔の勝ちはない。
最後の勝負が始まった。カードが配られ、チップを賭けるフェーズに入る。だが、翔は一度も自分のカードを見ようとしない。
「どうしました、カードを見ないなんて負けを認めましたか?」
モンスターがそう言った、その時だった。翔の口元にあった、吸い終わったタバコの吸い殻が、いつの間にか新しいタバコへと変わっている。小さな変化だが、それをモンスターは見逃さなかった。
「(こいつ、いつの間にタバコを……。まぁ、いい。たかがタバコなぞ――)」
モンスターがそう思った時だった。翔が酒を手にして飲んでいる。先ほどまで酒など持っていなかったはずだ。それを見たモンスターは推察する。
「(どこから酒を……!? 能力を使っているのか? ……まさか、能力を使ってカードのすり替えを?)」
モンスターは涼を見る。涼は拳を握り締めながらも、翔たちの勝負を見守っている。怪しいところなどない……はずだ。
「(……弟の涼も冷静だ。まさか、隠れて兄に協力しているのか? 協力すれば、カードのすり替えなど容易い。……先ほど言っていた作戦というのは、このことか!?)」
モンスターは疑心暗鬼に陥る。だが、こちらが有利なのに変わりない。モンスターが叫んだ。
「いいだろう、私のカードは――」
「待ちな、俺のレイズの権利がまだ残ってるぜ」
「レ、レイズ!? だが、お前のチップの数はもう……」
モンスターの言う通り、翔のチップは残り少ない。だが、翔はそこへチップを追加してレイズを宣言する。
「――賭けるのは、俺の弟の命だ」
「な、なにッ!?」
突然宣言されたレイズに、モンスターは動揺する。それを賭けるだけの強い役が出来ているというのか。翔はさらに追い込む。
「ついでだ、俺が勝ったら追加の情報を教えてもらおうか。……そうだ。嬢ちゃんの居場所だ。知ってんだろ?」
「そ、それは……」
「俺たちは嬢ちゃんを追ってここまできた。こちとら覚悟してきてんだよ。その為なら、涼だって命を賭けられても許すだろうよ」
モンスターは涼を見る。涼に動揺は感じられない。本気だ。本気で彼らは勝ちに来ている。モンスターはそう確信した。
「――さぁ! 賭けるのか、賭けないのか! はっきり宣言してもらおうか!」
翔が叫ぶ。翔の気迫に押されたのか、兄弟の作戦に負けたと感じたのか、モンスターは降伏した。
「……負けました。情報を話すので、どうか命だけは……」
勝負は決した。まさかの翔の逆転勝利だ。勝負が終わったのを見て、涼が思わず翔の元へ駆け寄る。
「翔! そのカード、本当に強いんでしょうね!?」
「さあな。見たけりゃ見ろ」
涼が翔に配られたカードを見る。そのカードの役は――ノーハンドだった。
翔の作戦とは単純明快。翔と涼が結託してカードのすり替えをしていると思い込ませること、ただそれだけだった。ゆえに翔は、涼に「冷静でいること」を言いつけたのだ。
「それにしても、3回連続でノーハンドとは、さすがにゾッとしたぜ」
「勝手に命を賭けられた私の身にもなってください。はぁ、生きた心地がしませんでしたよ……」
二人はモンスターから、ユウナの居場所を聞き出す。彼女は地下牢に閉じ込められていて、鍵はハルキにしか開けられないのだそうだ。
二人は地下牢へ向かうべく、そこへ繋がる道を探す。モンスターの情報によれば、地下牢はさらに下の階にあるらしい。
「とりあえず、下の階層に行ってみるか。何かあれば良いんだがな」
「えぇ。翔、急ぎましょう」
彼らは下へ下へ、ユウナを探して地下街を下りていくのだった。




