第八話 地下街へ続く道
「翔! なるべく早めに倒してください! このムカデ、意外にも力が強いです。拘束が解ける前に、早く!」
縄でムカデを拘束している涼はそう叫んだ。ムカデは暴れまわり、涼の縄を引きちぎろうとしている。そんなムカデを前に、翔は拳を振りかざす。
「ハッ、そう焦るなよ。言われなくとも倒してやらあ」
翔は拳に魔力を込め、一気にムカデ目掛けて走り出す。危険を感じたムカデが抵抗するが、涼の縄の拘束が解けず、再び地面に伏せさせられる。
翔はムカデの目の前まで走り寄り、その顔面に拳を突き出す。魔力を帯びたパンチは、ムカデの顔面を頭丸ごと吹き飛ばしてしまった。力尽きた体は、そのまま地面に倒れ伏す。
「なんだ、肩透かしもいいところだな。本気を出すまでもなかったか?」
翔はそう言いながら、余裕そうな様子でタバコを咥える。涼も縄を解き、翔の元へ合流する。
「もうちょっと手加減とか出来なかったんですか? 何か情報を持ってるかもしれなかったのに……」
「見た感じ、人語を話すようなやつじゃなかっただろ。簡単に聞き出せるなら苦労は――あ?」
ムカデを見ていた翔が、あることに気づいた。ムカデが出てきた地下からの穴。その穴は、ただの穴ではないような、そんな気がしたのだ。
翔は穴に近づき、ムカデの死体を退かす。穴は、地面深くに及んでおり、底は見えない。
「なぁ、涼。この穴の先、どうなってるか調べないか?」
「この穴の先、ですか? 確かに何かありそうな気配はしますが……。そこにユウナさんの手がかりがあると?」
「確証はねぇが、調べる価値はありそうだ。調べるだけ調べてみようぜ」
翔と涼は、穴の先を調べることにした。二人は穴の中へ体を滑り込ませる。彼らは深い地面の中を素早く駆け抜けていった。
穴の先に到達した翔と涼は、目の前の光景に驚く。
「これは……街?」
「認めたくはねぇが、どうやらそうらしいな」
そこにあったのは、地下に根付いたと思わしき街だった。見た目は九龍城砦のような、東京とはまた違う雰囲気だ。周囲には、異形のモンスターたちが徘徊している。どうやら、モンスターたちの住処のようだ。
「翔、どうします? このまま行くと、確実に戦闘になります」
「そうだな。……しょうがねぇ、気配を消して辺りを調べるか。涼、お前は向こう側を頼む」
「分かりました。何かあれば連絡します」
翔と涼は、能力を使い、姿を消して調査を始めた。所々に置かれた書類、モンスターたちの会話、壁の落書き――街のあらゆる場所を徹底的に調べた。
調べるうちに分かってきたのは、この街はつい最近出来たこと。モンスターたちの住処であること。そして、ハルキがこの街のボスとして支配していること。これらが調査の結果、明らかになった事実だった。
「(あの野郎、モンスターが住む街を支配してるとは……。だが、これだけのモンスターを統治するだけの力が、奴にあるのか? そうだしたら厄介だな、早いところ嬢ちゃんを見つけねぇと)」
内心少し焦りを感じながらも、翔は涼と合流し、次の場所を調べようとした。入った場所は、少し広めの部屋で、何やら騒がしい雰囲気だ。良く見ると、モンスターたちが賭け事をして騒いでいるようだ。
その部屋を調べようとした途端、二人に声がかかる。
「ここまで来ましたか。水瀬翔、水瀬涼」
翔と涼は驚いて振り返る。姿を消しているはずなのに、なぜ分かったのか。振り返ると、そこには異形のモンスターが一人、椅子に腰掛けて二人を見ていた。
「姿を消していても、分かるのですよ。しかし、ここでは賭け事以外の戦闘は禁止されています。どうぞ、お姿を現して頂いて結構です」
モンスターはそう言った。翔と涼は、一瞬顔を見合わせたが、バレているのであれば仕方ない、と姿を現した。二人の姿を見たモンスターは、拍手しながら続ける。
「私は賭け事が大好きでしてね。私と賭け事をして勝ったなら、ハルキ様の秘密を教えてあげましょう。しかし、負けたらどうなるか……お分かりですね?」
モンスターは賭け事を勧めてきた。勝てばハルキの情報が手に入ると言う。しかし、負ければ――それすなわち死、だ。
命を懸けた賭け事。躊躇する涼をよそに、翔が先手を打った。
「勝てばハルキの情報を教える、そう言ったな? いいだろう、乗ってやる」
「翔! 負ければ死ぬんですよ! 冷静になってください!」
涼がそう叫んだが、翔は気にしていない様子だ。翔は涼のすぐ傍まで近寄ると、小声で話す。
「……いいか、涼。どんなことがあっても、取り乱すな。冷静でいろ。……それだけで、俺たちの作戦は上手くいく」
「作戦ですって? でも、そんなのどうやって……」
「お前なら咄嗟に判断できるはずだ。頼んだぜ」
翔は涼にそれだけ言うと、モンスターの対面にあった椅子に座る。
「よろしい。では、私とポーカーで勝負していただきます。覚悟はよろしいですね?」
「あぁ、いいぜ。命を懸けて、勝負してやる」




