第七話 消えた少女の行方
「……こりゃひでぇな。荒れ放題じゃねぇか」
事務所に戻ってきた翔は、中の様子を見てそう言った。事務所の中はことごとく荒らされ、争ったような形跡も見られる。
「私が帰ってきた時には、既にこの状態でした。それにしても、ユウナさんはどこへ……」
「争ったような跡もあるな。誰かが事務所へ侵入してきたのか……。仕方ねぇ」
翔は涼に視線を向けると、彼にこう言った。
「お前、念視使えるだろ? それで視れば、何か分かるかもしれねぇ」
「念視……。確かに使えますが、それはあなたも同じですよね?」
「俺の念視は抽象的な場面しか視えねぇ。お前の方が正確に視えるからな。頼んだぞ」
翔はそう言って、タバコを咥える。どうやら涼の念視を待っているようだ。涼は溜め息をつきながら、荒らされた場所に視線を向けた。
「……分かりましたよ」
涼は集中し、部屋の残留思念を読み取ろうとする。涼の瞳が蒼く輝き、この場で何が起こったのか調べ始めた。
「これは……。翔、見てください。ここの争った形跡ですが、ここでユウナさんと何者かが争っている場面が視えました。この男は一体……」
「男? 誰だそいつは?」
「分かりません。少なくとも、私はこの男を知りません。少しくたびれたような、そんな男なのですが……」
くたびれたような男。それを聞いて、翔は思い出す。数日前にここに訪れた、ハルキという名前の男を。
「……まさか」
翔は思わず呟く。ハルキはユウナを執拗に捜していた。そんなハルキがユウナを見つけ、連れ去ったのだとしたら? 最悪の展開が翔の頭の中を駆け巡る。
「……涼。今すぐ嬢ちゃんを探すぞ。お前はそのまま念視を続けて、男の足取りを追ってくれ」
「分かりました」
翔と涼は事務所を出て、涼の念視を頼りに歩いて行く。こうして、二人は東京の街へ向かって行くのだった。
翔と涼は、人通りの少ない路地裏にやってきていた。どうやら、男はこんなところまで逃げているようだ。途中まで歩いたところで、涼が声をあげる。
「……あれ? おかしいですね、ここで残留思念は途切れています」
「ここから先は視えねぇのか?」
「はい……。視ようとすると、モザイクのようなものがかかって、よく視えないのです」
涼はそう言った。何故急に視えなくなったのか。謎を抱えたまま、翔は辺りを探し回る。しばらくして、翔はあるものを見つけた。
「なんだこれは。ゴミ……にしてはまだ新しい。ついさっきここに捨てた感じがするな」
翔が拾ったのは、くしゃくしゃに丸められた紙くずだった。路地裏のゴミには珍しく、まだ真新しい。どうも不自然な感じがする。翔は、その紙くずを広げてみることにした。
「これは……。おい、涼。これを見ろ」
翔は広げた紙くずを涼に見せる。そこに書いてあったのは、手紙のような文章だった。
『水瀬翔に水瀬涼。ここまで辿り着くとは、君たちの力は本物らしいな。だが、勝負はここからだ。私を倒し、優奈を助けてみたまえ。君たちに、私たちが倒せるかな? 晴樹』
「……やっぱりか。あのクソ野郎、事務所に侵入してユウナを誘拐するなんざ、卑怯な手を使いやがって」
紙くずの文章は、ハルキからの挑戦状のような文章だった。まるで、翔と涼の異能を見越しているかのような書き方だ。
「でも、どうすれば……。行方も分からないのでは、どうしようもありません。念視もこれ以上役に立ちませんし……」
涼はそう言って辺りを見渡す。翔は改めて紙くずの文章を読んでいた。
「……私『たち』?」
翔は文章の違和感に気づく。それは、最後の文章だ。「私が倒せるかな」ではなく、「私たちが倒せるかな」と書いてある。嫌な予感が翔の脳裏をよぎった途端、突然地震のような現象に見舞われた。
「涼! 伏せろ!」
「え、しかし――」
「いいから伏せろ! 巻き込まれるぞ!」
翔は涼に近づくと、無理やり涼を伏せさせた。涼が伏せたと同時に、道路の中から巨大なムカデのようなモンスターが現れた。ムカデは翔と涼を睨みつけ、脚を動かしている。
「これは、一体……?」
「恐らくだが、ハルキの刺客だ。あの野郎、一人で戦う気はないらしい。……連戦になるだろうな。涼、いけるか?」
翔は立ち上がりながら、涼にそう言った。困惑しながらも、何とか状況を理解した涼は、立ち上がって翔の隣に立つ。
「……私はいつでもいけます。翔、合わせてください」
「馬鹿、お前が俺に合わせんだよ」
そう話している二人目掛けて、ムカデが突進してくる。その突進を、翔が真正面から受け止めた。ムカデが驚いたように脚を動かしている。
「悪いな、この程度じゃ避ける気にもなれねぇわ」
翔はそう言いながら、ムカデの口を蹴り飛ばした。ムカデの口は翔の蹴りでボロボロになり、ムカデは悲鳴のような声をあげる。その隙に、涼が魔力から生成した縄を使い、ムカデの体を地面に縛り付けた。地面に縛り付けられたムカデに対して、翔が挑発する。
「お前、俺と最悪な時間を過ごさないか?」
そう言う翔の瞳は、いつもの黒ではなく、血のように赤く輝いていた。




