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Backstreet Tokyo  作者: 夏実
season1

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第四話 家事代行も楽じゃない

「こんにちはー。佐藤さん、いらっしゃいますか?」

 少し曇り空な水曜日、涼とユウナはとある家を訪ねていた。家の中から老婆の声が聞こえ、玄関のドアが開く。そこには、年老いた老婆がいた。

「あら、涼くん。今日も時間ぴったりね。そちらのお嬢さんは?」

「えぇ、今日からお手伝いをしてくれるユウナさんです。ユウナさん、こちらの方が今回の依頼主です。ご挨拶を」

 ユウナは老婆に向き直り、頭を下げて挨拶する。

「あ、あの! 色々初めてでお手間おかけしますが、よろしくお願いします!」

「あらあら、元気ないい子ね。じゃあ今日のお仕事は期待しようかしら」

 今回の仕事はいわゆる「家事代行」。文字通り、家主に代わって家事をする仕事だ。二人は家に上がり込むと、早速仕事に取り掛かることにした。

「私は水回りの掃除をしますので、ユウナさんは居間の掃除をお願いできますでしょうか?」

「はい! 分かりました、頑張ります!」

「出来る範囲で大丈夫ですよ。さて、手分けして作業しましょう」

 涼はそう言って、台所へ向かって行った。ユウナは言われた通りに、居間の掃除を開始する。年老いた老婆では、掃除も行き届かないのだろう。居間は埃と蜘蛛の巣だらけで、とても綺麗とは言えない。ユウナはこれを掃除することに不安を覚えたが、頑張りたい一心で仕事に取り掛かった。そんなユウナを、涼は水回りの掃除をしながら密かに見守っていた。


 掃除の後、買い物を頼まれた二人は、近くのスーパーで言いつけられたものを買っていた。買ったものを手に、依頼主の家に戻ろうとしていた。

「あとは、私が料理の仕事をこなせば終わりです。掃除、ご苦労様でした」

「はぁ、掃除がこんなにも大変だなんて思ってなかった……。家事代行って、意外と大変なんですね」

「えぇ。何気ない日常の動きですが、やってみると意外にも大変なんですよ。最近この辺りも高齢者が増えて、日々家事代行の仕事も増えてます。それだけ、この仕事の需要が――」

 涼が突然、話すのをやめて前を向いた。ユウナはどうしたのかと、涼の姿を見つめる。涼の視線の先を見ると、そこにはモンスターが徘徊しているのが見えた。見た目は巨大なネズミのような、ハリモグラのような、そんな見た目をしている。

「あ、あの、涼さん……」

 狼狽えるユウナは、涼に助けを求めた。涼は持っていた買い物袋をユウナに預け、ネズミのモンスターに向き直る。

「ユウナさんは下がっててください。私が何とかします」

 涼は右手を前に向け、指をハンドガンのような形にさせる。そして、指先から見えない弾丸のようなものを撃ち出した。弾丸はモンスターに当たっているようだが、効いている気配はない。

『シャーッ!!』

 モンスターは涼の攻撃に気が付くと、威嚇のつもりなのだろうか、歯を剝き出しにして叫ぶ。そして、攻撃をする涼を襲ってきた。両手を振り回し、涼を捕まえようとするが、涼はそれを上回る速さで躱していく。

「(……く、思ったより動けない。かといって、ユウナさんを巻き込むわけにもいかない。ここは、私一人で何とかして――)」

 涼がユウナの身を案じた、その時だった。恐らく余計な事を考えたせいで隙が生まれたのだろう。その隙を突いて、モンスターが涼の右足を掴んだ。そして、そのまま涼を地面にたたきつけた。

「がっ……!!」

「涼さん!!」

 ユウナが声をあげると同時に、モンスターがユウナに視線を向ける。ユウナは恐怖し、その場から動けない。

『シャーッ!! シャーシャッシャ!!』

 モンスターは嗤いにも似た声をあげる。ユウナが恐怖に耐えられず、思わず顔を覆った。モンスターがユウナに襲い掛かろうとしたとき、涼の右手がモンスターの体を捉える。

「……それで、私に勝ったつもりですか? 残念ながら、この程度でやられるほど、ひ弱ではないのですよ」

 そう言いながら、地面に倒れた涼が目を開く。その色は、いつもの緑と紫のオッドアイではなく、鮮やかな蒼い瞳に変わっていた。同時に、涼の右手から魔力が溢れ出す。何かに気づいたモンスターが涼から離れようとしたが、もう遅かった。

「――私の本気を見せて差し上げます」

 涼がそう言うと同時に、右手から青い光線が放たれた。光線はモンスターの体を確実に撃ち抜く。モンスターはその一撃に耐えられず、死亡した。涼はふらつきながらも、何とか立ち上がった。

「涼さん! 大丈夫ですか!?」

「えぇ……、何とか。ユウナさんは大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。でも……涼さんが……」

 ユウナは涼の心配をしている。涼は、先ほどの戦闘で負傷し、体中傷らだけだ。

「これくらい、何ともありませんよ」

「そんなわけないでしょう! あんな攻撃受けて、何ともないわけがないです!」

 ユウナはそう言って、無理やり誤魔化そうとする涼を止める。彼女は溜め息をつくと、涼に近づく。そして、涼にこう言うのだった。

「……私も、持ってるんです。涼さんと同じ『力』を」

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