閑話 少女と再会した兄弟の話
「えっと……確か、この辺りだったはず……」
その日、ユウナは仕事で街の郊外に来ていた。地図を頼りに目的地まで歩いてきたのだが、目的地近くまで来て迷ってしまった。目的地はどこかと、迷いながら歩いていると、ユウナに近寄る不審な男たちが話しかけてきた。
「よぉ彼女、暇そうやなぁ。わいらと遊ばへん?」
「な、なんですか! 私は行かなきゃ行けないところがあるんです、邪魔しないでください」
ユウナは男たちをはねのけて歩こうとしたが、男たちはユウナの進路を邪魔してくる。これでは先に進めない。
「へへっ、ええやんか少しくらい。遊ぼうや」
「通してください!」
ユウナが思わず声を荒げると同時に、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「おう、ここにいたのか。探したぜ」
その人物はユウナの肩を抱くと、自分の方へ引き寄せる。突然現れた男の姿に、不審な男たちがたじろぐ。ユウナは顔を上げ、男の顔を見た。
「翔さん!?」
「悪いな。この嬢ちゃんと会う約束があってな。ほら、さっさとどっか行け」
翔は、以前からユウナと約束があったという前提で話を進める。本当は会う約束なんてしていないのだが、不審な男たちを追い払う口実なのだろう。明らかに腕っぷしが強そうな翔が現れたのを見た男たちは、すごすごと退散していった。
「やれやれ、今時いるもんだな。ああいうやつら。嬢ちゃん、大丈夫か?」
「は、はい! 大丈夫です。でも、こんなところで会うなんて奇遇ですね?」
「まぁ、俺らも仕事でここに来てるからな。涼もそろそろ来るはずだ」
久々の翔との再会に、ユウナは思わずこう声をかけていた。
「あ、あの! 仕事が終わった後で良いので、この後お食事でも行きませんか? 久々にお話したくて……」
「おう、いいぜ。涼も喜ぶだろうよ。あいつ、お前のこと心配してたしな」
翔はタバコを吸いながら、そう言った。彼はユウナの持っている地図に視線を移す。
「ところで嬢ちゃん。道分からねぇのか?」
「あ、はい。そうなんです。目的地がどこか、迷ってしまって……」
「ここか。俺が案内してやる。ついてきな」
翔はそう言って、ユウナを目的地まで案内してくれた。二人は仕事が終わった後、特定の場所で落ち合うことにした。
「ユウナさん、お久しぶりです。どうですか、最近の調子は?」
仕事の後、カフェでユウナに会った涼はそう尋ねてきた。翔と同じく、変わらず元気そうだ。
「涼さん! はい、おかげさまで順調です。あの時はありがとうございました。私、あの時の言葉に今も救われてるんです」
翔と涼がユウナにかけた言葉。それは「人として生きていく道がある」という言葉だ。彼女はこの言葉に励まされ、今も助けとなっている。
「そうですか。ふふ、元気そうで何よりです。たまには事務所に顔を出しても良いんですよ」
「本当ですか! じゃあ今度お邪魔させてもらおうかな!」
涼の提案に、ユウナは喜んで声をあげる。いつかこの兄弟に恩返しをするのが、ユウナの夢だ。その為に、今は仕事を頑張りながら、人として生きていく道を歩んでいた。
カフェの席についた三人は、各々注文をする。翔はブラックコーヒー、涼とユウナはカフェオレを頼んだ。
「あれ、涼さんはブラックじゃないんですか?」
「えぇ。私、あまり苦いものは得意ではないので……。どちらかというと、甘党ですね」
「あら、そうなんですか。なんだか意外です」
翔と涼は双子ゆえに、好みも同じだと思っていたユウナは、率直な感想を口にする。そこへ、コーヒーを飲みながら翔が話しかけてきた。
「涼はマジで甘党だからな。こないだも仕事帰りに菓子食ってたし」
「仕事帰りくらい良いじゃないですか。これでも前よりは節制してるんですよ」
「本当かぁ? 前に外食に行った時、でけぇパフェ一人で食ってたよな。あれは節制と言えんのか?」
ユウナは思わず、涼が巨大パフェを一人で食べている光景を思い浮かべてしまった。涼は肩をすくめながら、翔にこう言い返す。
「あなただって酒とタバコやめないまま、毎日吸っては飲んでるでしょう? そちらこそ節制したらどうなんです?」
「やなこった。これは俺の楽しみだ、減らすのも嫌だね」
「まったく……。そんなあなたに節制がどうの言われたくないですけどね」
予想通り、翔と涼は口喧嘩を始めてしまった。それを見ていたユウナが、慌てて二人を止める。
「わわ! ストップです! 喧嘩しないでください!」
「……畜生。お前といると喧嘩しかしねぇな、本当」
「誰のせいですか、まったく」
お互いに険悪な雰囲気の兄弟二人を、ユウナは宥めるのに必死だった。
カフェから出た三人は、外で少し話をしていた。
「今日はありがとうございました! 久々にお二人とお話出来て良かったです!」
「おう。嬢ちゃん、これからはどうするんだ?」
翔がユウナの今後について尋ねる。ユウナは、それに対して胸を張って答えた。
「はい。仕事を頑張って、人として生きて行こうと思います。いつか、お二人に恩返しするのが夢なんです。だから、また会える日まで元気でいてください」
「えぇ。私も、また会える日を楽しみにしてます。無理だけはしないでくださいね?」
「はい! もちろん!」
そんな会話を交わし、ユウナは翔と涼に別れを告げる。街の中に消えていく彼女の背を、二人は見送っていた。
「……上手くやっていけるといいですね」
「やっていけるさ、きっとな」
翔と涼はそう会話を交わしながら、事務所へと戻っていく。辺りは夕焼けで明るい。明日はよく晴れそうだ。二人はそう思いながら、街の中を歩いて行くのだった。




