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Backstreet Tokyo  作者: 夏実
season1

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15/18

閑話 意外にも弟想いな兄の話

「(……なんだか、変だ)」

 その日の朝、涼は起きると自身の体の異変を感じ取った。なんとなくだるいような、熱っぽいような、そんな気がする。昨日、寒い外で仕事をしていたせいだろうか。

「(まぁ、これくらいの体調不良なら気にしなくても大丈夫か。それよりも仕事を片付けないと。依頼書が溜まってるんだった)」

 涼は着替えを済ませると、すぐに依頼書を見て仕事を始めた。しかし、体調が悪いせいなのか、依頼書を見てもなかなか内容が頭に入ってこない。それでも涼は、無理をしてでも仕事をしようとしていた。

「おい、涼。そっちに俺宛の依頼書来てねぇか?」

 そこへ、翔がタバコを吸いながら涼の元へやってきた。翔宛の依頼書と聞いて、涼はすぐ手元の依頼書を見て確認する。

「ちょっと待ってくださいね、えっと……あぁ、ありました。これです」

 涼は依頼書を見つけ、それを翔に渡す。すると翔は、返事もせず、じっと涼の姿を見ている。翔の視線に気づいた涼は、顔を上げて翔に尋ねる。

「……なんですか、人の顔をまじまじと見て」

「涼。お前、具合悪いだろ? 顔色悪いぞ」

 体調が悪いことを言い当てられ、涼は内心驚く。しかし、それくらいで下がるわけにはいかない、と強がって返事をする。

「た、たまたま顔色が悪いだけですよ。別に平気です」

 その返事を聞いた翔は、涼の近くにやって来た。そして、自分の右手を涼の額に当てる。そんなに熱は出ていないはず、そう思っていた涼に翔の言葉が突き刺さる。

「おい、結構熱出てるじゃねぇか。無理してまで仕事すんな。寝てろ」

「え、しかし――」

 反論しようとする涼の首根っこを、翔が掴んだ。涼を捕まえた翔は、真っ直ぐ涼の部屋へ向かい、ベッドに涼を寝かせた。それでも涼は抵抗する。

「これくらい大丈夫です! あなたは心配しすぎです、私はそんなにひ弱ではないのですよ」

「うるせぇ。病人は黙って寝てろ。それ以上文句言うとぶん殴るぞ」

「う……」

 翔に脅された涼は、仕方なく寝ることにした。大人しく引き下がった涼を見て、翔は部屋から出て行った。涼は部屋着に着替え、ベッドに横になる。

「……本当に、心配しすぎです。言葉遣いも乱暴ですし……はぁ」

 そんな独り言を呟きながら、涼は一度眠りにつくことにした。時間は昼前。涼はほんの少しだけ眠るつもりだった。


 目が覚めると、窓の外はもう暗くなっていた。涼は自身の体の不調が、さらに重くなっていることに気づく。明らかに熱が出ていて、体は鉛のように重い。おまけに咳まで出始めていた。

「(こうも重くなるとは……。……あぁ、もうこんな時間だ。夕飯を作らないと)」

 涼は起き上がろうとするが、体が重く、思うように起き上がれない。これでは夕飯を作るどころではない。涼は起き上がるのを諦めた。

 ふと顔を上げると、ベッド横にあるテーブルに水が置いてあった。それだけではない。いつの間にか、枕が氷枕になっている。寝る前は確かに普通の枕だったはずだ。

「(もしかして、翔が……?)」

 そう思っていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。ドアの向こうからは翔の声がする。

「おい、涼。起きてるか?」

「あ、はい! 起きてます」

「そうか、入るぞ」

 そう言って翔はドアを開けた。翔は何かを持ってきたようだ。見ると、木のトレイに土鍋とスプーンが乗っている。

「あの、それは……?」

「なにって晩飯に決まってるだろ。そんな体調じゃ飯も作れねぇだろうと思ったからよ。冷める前に食えよ」

 翔はそれだけ言うと、また部屋から出て行った。あの様子では、自分の夕飯も作っていそうだ。そう思いながら、涼は土鍋の蓋を開ける。中身は卵がゆだ。

「……いただきます」

 涼はそう言ってから、スプーンで卵がゆを掬い、口に入れる。わざと濃い味付けにしているようで、熱で鈍くなった味覚にも分かる味だ。同時に、懐かしさも感じられる。

「(あ……この味付け……)」

 涼は遠く昔の記憶を思い出す。それは、卵がゆの味が以前母親が作ってくれたものと酷似していること。自分や翔が風邪を引いたときなどに、よく作ってくれた味だ。

「(……覚えていたんですね、昔のこと。……本当、大雑把に見えて意外と細かいんですから)」

 涼は翔に対して、少しだけ感心する。

 翔はいつも乱暴で、だらしなくて、粗野な人間だ。だが、そう見えるのは表向きの話で、意外と優しく、そして弟想いなのだ。思い返せば、翔はいつだって涼の助けになっていた。いつもは喧嘩ばかりしていて、翔の見えなかった一面が垣間見えて、涼は少し嬉しくなった。

「(あとは酒とタバコやめてくれればいいんですけどね……。まぁ、今日のところは黙っておきましょう。喧嘩ならいつでもできますしね)」

 卵がゆを食べ終えた涼は、テーブルに土鍋が乗ったトレイを置き、風邪薬を飲んでベッドに横になる。明日には治っているだろうか。そう考えながら、再び涼は眠りにつくのだった。


 後日、涼の風邪が翔に移ったというのは、また別のお話。

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