第十四話 エピローグ
「はぁ、はぁ……。やっと出れましたよ! 翔さん、涼さん!」
地下街を彷徨い続けて数時間。ようやく三人は外に出ることが出来た。外は既に暗くなっていたが、周囲の様子は騒然となっていた。
「地下から火の気配がするぞ! 誰か消防車を呼べ!」
「うわあ、焦げ臭いぞ! みんな離れるんだ!」
三人が外へ出る頃には、火が地下街を焼き尽くし、外まで火が迫ってくるほどの勢いだった。外の人間が騒ぐのも無理はない。
「派手にやりすぎたか。……面倒ごとに巻き込まれる前に、ずらかるぞ」
「仕方ありませんね。一旦事務所に戻りましょう」
三人はすぐその場から離れ、一度事務所に戻ることにした。荒れた様子の事務所が三人を迎える。それに気づいた翔が、めんどくさそうに髪を掻いた。
「あぁ、そうだった。ハルキの野郎が荒らしたまんまだったぜ、くそが」
「掃除する暇もありませんでしたしね……」
翔と涼は、そう言いながら事務所を軽く片付け始める。二人の様子を見ていたユウナが、口を開く。
「あの……ごめんなさい。私なんかのために、大変な思いをさせてしまって……」
その声は申し訳なさそうな、か細い声だった。それを聞いた翔は、申し訳なさそうにするユウナに声をかける。
「本当に申し訳ないと思うんなら、今後のことを考えな」
「今後のこと、ですか?」
ユウナの言葉に、今度は涼が答える。
「はい。あなたには、人として生きていく道が残されています。どう歩むかはあなた次第ですが……ユウナさんなら、自分の道を歩いて行けると信じていますよ」
「人として、生きていく道……」
モンスターの肉詰めから生まれたユウナ。そんな彼女に、「人」として生きていく道がある。翔と涼はそう言った。二人の言葉に励まされたユウナは、覚悟を決めた。
「……私、まだ分かりませんが、今後のことをちゃんと考えようと思います。翔さん、涼さん、本当にありがとうございます。私、頑張ってみます!!」
ユウナはそう伝えると、事務所を出ていく。今後一人で生きていくには様々な困難があるだろう。それでも、彼女なら乗り越えられる。翔と涼はそう確信していた。
「さて、と。明日から通常営業だな、これは」
「そうですね。当分害虫駆除とかないでしょうしね」
二人はそう言いながら、事務所の片付けを再開する。事務所がようやく綺麗になったのは、夜中の3時を過ぎた辺りだった。
あれから数週間が経った。
翔と涼はいつも通りの日常に戻り、何でも屋の仕事をこなしていた。害虫駆除――という名のモンスター討伐の依頼はなくなったが、小さな仕事で何とか繋いでいた。
「翔、起きてください。起床時間ですよ」
「あー……まだ寝かせてくれよ。そんなに仕事ないだろ」
「あなたは酒の飲みすぎです。あと、仕事ならたくさんありますよ。早く起きて仕事してください」
朝の起床時間。こうやり取りするのも、二人にとってはいつものことだ。翔は気だるげな様子で起き上がり、髪を掻きながら洗面所へ向かう。そんな兄の背中を見送りながら、涼は朝食の用意をしていた。
「お前は本当真面目だねぇ。……で? そんなに仕事の依頼が来てるのか?」
「はい。家事代行が2件、庭仕事が3件、あとは……」
依頼の書類を見ていた涼の動きが止まる。それに気づいた翔が、タバコを吸いながら声をかける。
「あとは、なんだ?」
「……害虫駆除、1件です」
涼の言葉に、翔の動きが止まる。涼に視線を向けながら、翔は言った。
「本当に害虫駆除の依頼なんだな?」
「はい。そうです」
「……そうか、分かった。飯食ったらさっさと行くぞ」
翔と涼は手早く朝食を済ませると、すぐに外へ出る。依頼書に書かれた場所まで移動していく。
「もしかして、またモンスターを操る魔人が現れたんでしょうか?」
「そうとは限らねぇ。単発で出てきた可能性もある。どっちにしろ、注意は必要だがな」
そんな会話を交わしながら、翔と涼は目的地に到着する。そこにいたのは、異形頭のモンスターだった。モンスターは、翔と涼を見るなり、威嚇し、戦闘態勢に入る。
「おうおう、ずいぶん血の気が多いやつだな?」
「気を付けてください。嫌な気配がします」
異形頭のモンスターを前に、翔と涼は戦闘態勢に入る。一見弱そうな見た目のモンスターだが、侮ってはいけない。豹変して襲ってくるかもしれないのだ。
「涼。お前は後方支援を頼む。俺が前に出て、奴を殺る」
「……分かりました。あまり前に出すぎないように」
「ハッ、分かってらぁ」
翔が一歩、前に出る。すると、モンスターは翔を狙って襲い掛かってきた。翔は飛び上がってモンスターを躱す。その間に、涼が鎖付きの短剣を生成し、モンスターを絡めとる。魔力で生成された鎖は、頑丈でモンスター程度では解くことは叶わない。
翔は縛られたモンスターに向かって手を伸ばし、そしてにやりと笑いながらこう言った。
「お前、俺と最悪な時間を過ごさないか?」




