第十二話 少女の正体
ユウナの叫び声を聞いて、涼は思わず立ち止まる。ユウナがいる牢屋に、何か仕掛けられている。それを見た翔が、苛ついた声をあげた。
「……罠か。チッ、やってくれるな」
「ご名答。それに気づくとは、さすがですな」
突然、地下牢に声が響く。翔と涼が振り返ると、そこにあったのはハルキの姿だった。だが、以前翔が見た時の見た目ではなく、異形とも言える姿に変貌している。
「どうです、この素晴らしい姿! いまや私は、この街全てのモンスターを操る力を持っている。いずれはこの街だけでなく、この国、この世界を支配できる!」
ハルキは力を解き放つ。その力はあまりにも強大で、その場にいるだけで圧が感じられるほどだ。ハルキの言葉を聞いて、翔が言う。
「……やはり、ここ最近のモンスター関連の事件は、全部お前の仕業だったのか」
「その通り。私は魔人として、この街のモンスターを操り、支配しようとした。だが、君たち兄弟の存在が、私の支配を邪魔しているのだよ。だからこそ、君たちにはこの場で消えてもらう」
ハルキの様子に、涼が声を張り上げる。
「それならば、ユウナさんは関係ないじゃないですか! 今すぐ解放してください!」
そう言って、涼はハルキに向かって走る。涼は能力を用いて、ハルキに攻撃を仕掛けようとした。しかし、ハルキは涼を躱すと、反撃として衝撃波を涼に当てた。
「がはっ……!」
衝撃波を当てられた涼は、壁に激突する。涼はそのまま倒れ、起き上がろうとするも力が入らない様子だ。
「涼! ハルキ、てめぇ……!」
「ははは、何も対策せずに近づくからこうなる」
翔は涼の近くまで走り寄り、彼に肩を貸して起こした。そんな翔と涼を見て、ハルキは愉快そうに嗤う。
「そこの娘は、私にとって必要不可欠なのだよ。何故なら、私はその娘の父親なのだから」
「……なんですって?」
突然明かされた事実に、涼は思わずそう言った。ハルキは続ける。
「私はいずれ、この世界を支配する魔人となる。だが、その為には膨大な魔力が必要だ。だからこそ、作り上げたのだ。モンスターの肉を詰めて錬成した、娘という存在を。これならば魔力供給も上手くいくというもの。だからこそ、必要不可欠なのだ」
「モンスターの肉を詰めて……? ……それじゃあ、まさか」
翔が思わず、その残酷な事実を口にする。
「嬢ちゃんはモンスターの肉から作り上げた人造人間だから、記憶も何もなかった。そういうことか?」
「左様。警察がダメだと刷り込ませたのも、面倒ごとを避けるためだ。異能については、偶然生まれたものだがね。本来は自我無き人造人間だったが、クラブ襲撃の時に自我が芽生えたようでね。そこで逃げられたというわけさ」
涼は思わずユウナの方を見る。彼女は青ざめた顔で、頭を抱えている。今まで何も知らなかったのだろう。明かされた自分の秘密に、耐えられない様子だ。
「さぁ、長話は終わりだ。そろそろ、君たちには消えてもらう」
そう言って、ハルキが手を上げる。手からは膨大な魔力が迸り、一撃でこちらを仕留めようとしていることが分かる。それを見て、翔が涼に言う。
「……涼。お前、嬢ちゃんのこと頼めるか?」
「はい。牢を壊すことくらいなら、出来ます」
「よし。俺が時間を稼ぐ。せいぜい5分だ。それまでに嬢ちゃんを助け出して、外に逃げろ」
翔の言葉に、涼は驚いて声をあげる。
「正気ですか? あれは、あなたひとりで勝てる相手ではありません」
「分かってる。それでも、嬢ちゃんを助けるのが最優先だ。俺のことは気にするな。……やるぞ」
翔は涼から離れると、単身でハルキに挑む。翔を呼び止めようとした涼だったが、翔の言葉を思い出し、堪えるのだった。
「(私は……人間じゃなかった。ただの化け物だった)」
ユウナは暗い牢の中で、自分について考える。記憶がないのも、全てはハルキの手の上だったのだ。自分が醜く感じ、彼女は自分を嫌悪する。
「(私なんか、生きてる価値なんてない。あいつの魔力タンクになるくらいなら、いっそ――)」
そう思ったユウナは、地面に落ちていたガラス片を拾い、それを首元にあてようとした。その時だった。
「――ダメです! 己を見失っては!」
涼の声が響き渡る。ハッとしたユウナが見ると、涼が牢に対して攻撃している。罠が発動して、電撃が涼を襲っているが、それでも涼は構わず牢を壊そうとしていた。
「や、やめてください! 私なんかのために、傷つくなんて……!」
ユウナは涼に言う。しかし、涼は攻撃をやめなかった。牢が次第に崩れていくのが分かる。
「確かに、あなたは人間ではないのかもしれません。……でも! あなたには『人の心』があります! それは確かなはずです!」
「……涼、さん」
牢が崩れ、いよいよ人が出入りできるだけの空間が生まれた。涼がユウナに手を伸ばす。
「ユウナさん! 手を!」
ユウナは差し出された涼の手を取る。牢を出た彼女は、まず真っ先に走り出す。その先には、時間を稼ぐ翔の姿があった。




