もう、あなたのために時間を使いたくないんです
公爵令息、あなたとは婚約解消したはずですが、今更何の用ですの?
俺は婚約解消など認めていない?
あなたが認めようと認めまいが、どちらにしろ、私、あなたとは結婚できませんよ。
不治の病で、私は、もうすぐ死ぬので。
だから、あなたの相手という、この上なく無駄な事に時間を使いたくないので、帰っていただけませんか?
そもそも、先触れもなく、突然現れるなど迷惑この上ないのですが。
我が子爵家の使用人達も、公爵令息のあなたに、どう対応していいか分からず困っていたので、仕方なく、こうして、病に臥せっている私が相手をする事になったのです。
なんか、今までと違う?
あはは、当然じゃないですか。
婚約者だったとはいえ、子爵令嬢の私は公爵令息のあなたに失礼な言動ははできませんもの。多少の猫は被りますよ。
素の私が気に入らないなら、もういいでしょう。帰ってください。
俺を愛してなかったのか?
はあ、私のこの態度を見れば明白でしょうに、わざわざ訊かなきゃ、分からないんですか?
では、はっきりきっぱり言うので、納得したら帰ってくださいね。
愛してないどころか、大嫌いです。
私には相愛の恋人がいて、公爵令息であるあなたが私を見初めなければ、家族に祝福されて、彼と結婚できたはずだったのに、それを壊してくれたんだから、あなたに対して愛など芽生えるはずもないでしょう。
そにれ加えて、あなたと婚約を結んでから、私は不運の連続でした。
まず、あなたを好きな王女様と、その婚約者で、あなたの親友の侯爵令息。
あなたの婚約者にならなければ、この二人から目を付けられる事もなかった。
王女様の婚約者の侯爵令息は、好みだとか何だとか言って、私に言い寄ってきました。私は、あの方が全く好みでなかったし、一応あなたの婚約者でもあるから、当たり障りのない対応しかしませんでしたが。
それでも王女様は自分が好きなあなたの婚約者で、自分の婚約者の侯爵令息が言い寄る私が気に入らないようで、学園の生徒達に、私を無視するように指示してくれました。直接的な暴力こそなかったけれど、何とも居心地の悪い学園生活を送る破目になりましたね。
あなたの婚約者になってしまったのも、侯爵令息が言い寄ってきたのも、私のせいではないのに。
さらには、あなたの父親の公爵も何とも気色悪い視線を向けてきて、それだけでなく結婚後は自分の相手もしろなどと、息子の婚約者、義理とはいえ娘になるはずだった私に向かって耳を疑うような事を言ってきたし。ふふ、結婚前に手を出さなかったのは、まだ理性が働いたのか、息子への配慮だったのか。
どうして言わなかったと言われても。
公爵令息の婚約者になったとはいえ、所詮、私は子爵令嬢。そんな私が王女様に敵視されているとか、侯爵令息や公爵に言い寄られていると訴えたところで、どうにもならないでしょう?
そもそも、私が言う前に気づいて対処すべきでは? あなたは公爵となる方。公爵領の領民全てに目を向けるべきでしょう。まして、父親の公爵と妻となるはずだった私、家族が係わっているのだから。
そんなだから、私の苦境に気づかなったのは勿論、私のあなたへの嫌悪感にも気づかないのよ。
はっきりいって、公爵として、いえ貴族としての資質に問題がありますわね。
もういいでしょう?
帰ってください。
もう、あなたのために時間を使いたくないんです。
最後は、愛する人や家族と過ごしたいので。
あらあら、まあまあ。
私の元婚約者の公爵令息、父親の公爵と王女様と侯爵令息を殺したようね。新聞に書いてあるわ。
我が家に突撃した後、公爵と王女様と侯爵令息を問い詰めて、私の話が本当だと分かったようね。それで激昂して、三人を殺したと。
三人も、それも、父親と高位貴族と王族を殺したのですもの。彼は確実に断頭台に送られるでしょうね。
元婚約者で、しかも、もうすぐ死ぬ女のために、自分の将来を棒に振るとはね。
それだけ君を愛していたんだろう?
私には彼に対する愛など最初からなかったし、ちゃんとそれも口に出したのに。
まあ、三人を殺す事を決意し実行したのは彼自身。
もう婚約者でもなく、まして、死んでいく私には関係ないわ。
だのに、その私に、会いにきてくれという手紙を送ってくるとはね。
もう、あなたのために時間を使いたくない。最後の時は、愛する人や家族と過ごしたいと代筆しておいてくれる?
手紙を書く体力も、何より、彼のために何かをする気など毛頭ないもの。
ふふ、何にしろ、充分、彼らに対する報復がなったわね。
まさか彼が死んでいく私のために、ここまでしてくれるとは思わなかったわ。
それだけは感謝してもいいわね。
愛するあなた、私が死んだら、私の事は忘れて幸せになってね。
忘れない。修道僧になって、生涯、君を想っている?
ふふ、そう言ってくれるのは嬉しいけど、あなたには幸せになってほしい。
私は幸せだったわ。十七年という短い人生だったけど、愛する人がいて、愛する家族がいて、他の人の八十年に劣るとは思ってない。
充分幸せな人生だったわ。
だから、私の事を忘れても、あなたには幸せになってほしい。
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