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異世界事件簿 ~魔法世界の誘拐事件 ~  作者: 黎明
本編

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6/12

5. 奴隷商

 

「奴隷商」

 静かな室内に、ルシャージャの言葉が響いた。

 奴隷商。奴隷。奴隷?誰が?何故?そもそも何故、奴隷商の話が出てきたんだ?これはルシャージャの冗談だ。きっと。そうに、決まってる。

 ああ、こんな馬鹿げた話をしている場合じゃない。ふざけるなって、怒って。真面目に取り合ってもらわなくては。

「・・・ルイス」

 バチン、と頬に刺激が走った。

「目は覚めたか、ルイス。現実逃避するな。それが原因で真相が暴かれない。なんて事、私は御免だ」呆れの滲んだ声色で言う。

「ルシャ―、ジャ・・・お前」


「お前、全力でやっただろ!すげぇ痛いんだが。え、お前、ここまで力強かったか?」

「いや、手に魔力を集中させただけだよ。私にそこまでの被害はないけれど、痛いね。これ」ルシャージャは手をぶらぶらさせて見せた。


「落ち着いたようで何より。さて、話を戻そうか」呆れているルイスに、ルシャージャは言った。

「あ、そうだよ。どういうことなんだ、奴隷商って」

「言葉通りだよ。何、君は奴隷商人以外の奴隷商という言葉を知っているわけ?字を書いて見せないと分からない?」

「いや、そういうわけじゃないけど」

「そう。解ってるなら別にいいよ。・・・さてと、行くよルイス」ルシャージャはソファから立ち上がり、ポールハンガーから上着を掴んで羽織った。

「行くって・・・何処へだよ」

「決まっているだろう。疑惑の目撃者の所へだよ」

 いや、分からねえよ。

 何を当たり前の事を、という顔をしているルシャージャに対して、心の中で軽く悪態を吐く。


「疑惑の目撃者・・・母親の事か?」

「そう。確認したい事があるんだ。結果次第では、誘拐犯の正体が判明する」

「はぁ!?本当か、ルシャージャ!」驚きに目を丸くするルイス。

「結果次第だって言っているだろう。それを確認する為に行くんだよ。ほら、早くして、君が居ないと辿り着けないだろう」

「あ、ああ。解った」

 何故辿り着けないのかと疑問が浮かんだが、そう言えば、ルシャージャは住所を知らないのだったと思い直す。

 慌てて立ち上がったルイスは、出入口に鍵を挿し込んで待っているルシャージャと共に、外へ出るのだった。




 コン、コン、コン。軽やかな音を立てる。

 二人は、目撃したとされる母親の住居の前に立っていた。ルシャージャは、ルイスが止める間もなく扉をノックする。

 遅かった。と、行き場を失った手を、諦めて下す。


 少しして、破棄の無い母親の声がした。はい、という返事の後、扉が開けられる。

「はい、・・・あの、どちら様ですか?」家の中から顔を覗かせた中年の女は、戸惑ったようにルシャージャとルイスを見つめる。

 アポイントメントを取っていないのだから、戸惑って当然だ。

 女の顔は青白く、目の下には濃い隈が出来ていた。寝れていないのだろう。

 目撃したのは彼女か、とルシャージャの目がルイスを向いた。

 ルイスは痛ましく思いつつ、ルシャージャに軽く頷いて返す。

 女と目を合わせ、声を掛けた。

「突然すみません。その、・・・」話し始めたはいいものの、途中で言い淀んでしまう。

 ルイスは、ルシャージャからここに来た目的を聞いていないのである。道中は、ルイスが目撃者である母親や攫われた子供の簡単な説明をして終わっていた。知らないのだから、説明のしようもない。


「初めまして。奥様。お話が御座いまして」

 ルイスがルシャージャに視線を向けると、見惚れてしまいそうな程に美しい笑みを浮かべていた。勿論、作り笑顔、営業スマイルだ。

 精巧な彫刻の様に整った顔に浮かんだ、完璧な笑み。

 自分の顔を最大限に生かした見る者を魅了する顔は、見ることが出来たら、何があってもいい一日だったと言えそうだ。普段の姿は欠片も無い。

 よくやるよ、と呆れが滲む。

 ルイスも、綺麗だとは思うのだが、中身を知っているので、ありがたみが微塵も感じられなかった。

 母親は少し緊張しているが、ルシャージャの美しい笑みについ引き込まれているようだった。

 だが、話があるという言葉に、母親の体が強張った。


「話・・・?」今まで恍惚としていたルシャージャを見る目に、怯えが混じる。

「はい。今、少々お時間宜しいですか?子供達が攫われた事件について、調べていまして。貴女が攫われたお子様を目撃した、と窺ったものですから」

「え、と・・・あの、貴方達は・・・?」

「あー、警備課のルイス・アンダーソンです」証明証を見せて名乗る。


「ルイス、アンダーソン・・・アンダーソンさんでしたか」

 警備課と聞いて、更に身体を強張らせたが、ルイスの名前を知り、安堵した様に微笑む。顔を合わせてから、初めて、肩の力を抜けた様だ。

「はい。何度も来てすみませんが、もう一度、お話聞かせてもらえますかね。ああ、勿論。無理に、とは、言いませんが。お願いします」頼む形ではあるが、断りにくいだろうなと思う。

「はあ。分かりました。必要な事、なんですよね。あの、立ち話もなんですし、中へどうぞ。アンダーソンさんと、えっと・・・」

「キュリアスディーです」ルイスが答える。本人はにこにこと笑みを浮かべたまま、何も言わない。きっと、周囲を観察しているのだろう。瞬きの回数が多く、目が忙しなく動いている。

「キュリアスディーさん。どうぞ」

「有難うございます。それじゃ、お邪魔します」


 有難く、家にお邪魔し、通されたリビングの椅子に並んで腰掛ける。

「随分と信頼されているんだな」お茶を淹れてくるとキッチンへ向かった母親の背中を見つめながら、ルシャージャが言う。

「ああ、まあ」

「余程、周囲が酷い対応だったと見える。気をつけろよ」

「何に」

「背後」

「何で」

「周囲に否定されて不安になっていると、肯定されただけで依存されるから」

「え、俺、奥さんに殺されんの」

「さあね」

「おい」

「知らないよ。奥さんかも知れないし、旦那かも知れない」

「何で旦那」

「妻を取られた恨みだー、って」

「棒読みだな。んまあ、一応気をつける」

「そうしてよ。知人だからって理由で、事情聴取受けたくないから」

「お前な」

「ルイス」

「どうした?」

 二人で軽口を叩いていると、何かに気付いた様子のルシャージャが、小声で耳打ちしてきた。

「基本は私が話すから、黙っていて。何かあったら話合わせるように」

「は?」

 直後、三人分のティーカップを持った母親が戻って来た。自然と、二人揃って口を噤む。


「お待たせしました。・・・あの、何か?」二人に黙って見つめられている事に、母親は怪訝な顔をする。

「いえ。何も。すみません。お茶、有難うございます」ルイスは誤魔化す様に笑う。

「わ、良い香りですね。カモミール、ですか」ルシャージャはカップの縁を指でなぞり、母親に笑いかける。

「はい」釣られたように微笑んだ彼女は、先程よりも少しだけ、落ち着いているように見えた。


「では、早速ですが、幾つか質問しても?」

「・・・はい」少し緊張した面持ちで母親が言う。

「有難うございます。質問、と言っても、予め聞いていまして。確認が殆どです。お手数ですが、宜しくお願いします」

 ルシャージャは、こくりと肯いた母親に安心させるように微笑むと、切り替えた様に、では、と前置きをして話し始めた。


「行方不明のお子様を見た、という事は間違いないですか」真直ぐと目を見て問う。

「っ、ルシャージャ」ルシャージャの腕を軽く小突いた。

 幾ら何でも直球過ぎるだろう。

「ああ、疑う、というよりは確認の為です。周囲の発言ではなく、貴女が信じている方を教えて頂けますか」気にした様子もなく続けた。

「・・・見ま、した。私、娘を見たんです。ボロボロになっていましたけど、あれは間違いなく、娘でした」ルシャージャが眉を寄せた。

「他人の子と、見間違えた可能性は?」

「ありません。幾らボロボロになっていても、自分の子を間違えるなんてあり得ない」下を向いていた顔が上げ、断言する。

「そうですか」ルシャージャが頷いた。「奥様、娘さんを見た場所を伺っても?」

「え?信じてくれるんですか・・・?」

「信じるも何も、見たのでしょう?嘘は吐いていない、そう、判断しました。元々、あまり疑ってもいませんでしたし。それで、質問なのですが」


「ええと・・・」少し視線を彷徨わせて答えた。「大通りです。すぐそこの。あの、お店が沢山並んでいるところ。そこの、服屋の側に娘が居て」

「目撃した時、貴女が居た場所は?」

「青果店の前に」

「そうですか。奥様、その、ボロボロ、というのは具体的にどういったものでした?服が傷んでいた、とかでしょうか」

「いえ。えっと、服、は問題なかったです。ボロボロだったのは、・・・体、でした」

「体?」

「はい。傷だらけで・・・。腕とか顔とか。そのくらいしか見えなかったんですけど、多分、服の下にも傷が沢山。服は普通だったから、目立っていて」

「何か他に、何か変わったところは?」

「他に・・・火傷。腕に、火傷の痕?の様な痣があったんです」

「火傷の痕・・・。それは、どの辺りに?」

「えっと、確か、この辺りに」左腕を差し出して、二の腕にくるくると円を描く。「大きさは、これくらい、だったと思います」

「その痕は、どういう形をしていました?」

「えっと・・・、すみません。そこまでは」

「そうですか。その、火傷の痕。娘さんが居なくなる前は、無かったんですね?」

「はい。在りませんでした」

「成程。お時間、有難うございました」ルシャージャが満足気に微笑んだ。

「あの、・・・これで終わり、ですか?」

「はい。助かりました。ご協力、有難うございます」

 やけにあっさりしている。聞きたいことは聞けたのだろうか。


「帰ろう。ルイス」

「ああ」


 二人は母親に見送られ、家を後にした。




「何か分かったか、ルシャージャ」先を歩くルシャージャを追い掛け、その背中に問い掛ける。

「ああ。収穫はあった。来た甲斐があったよ」ルシャージャは機嫌良く言った。

「そうか・・・って、おい。何処に行くんだ」分かれ道で、来た方向と反対の道を進んで行く彼女の背を、慌てて追う。

「大通り」

「大通りって、さっきの話に出たやつか?」隣に並ぶ。

「そう。ちょっと確認したい事があるからさ。勿論、君にも手伝って貰うよ」

「拒否権は?」

「あるわけないだろう。依頼達成には、必要な事だよ」

 それを言われると、ルイスは黙るしかない。

「それにしても、奥さん、相当参っているみたいだね」ルシャージャが話題を変えた。

「そりゃあ、子供が攫われたんだしな。参るだろうさ。でも、何で」

「お茶。カモミールだっただろう?」

「ああ、言ってたな。カモミールだと、何なんだ?」

「効果だよ。ストレスや不安を和らげる効果があるんだ。勿論、魔法は使われていない」

 だから何なんだ、とルイスが口を挟もうとしたところで言葉が続けられた。「多分だけど、あれ、彼女以外の誰か、・・・まあ、旦那さんかな。が、買って来たんだろうね。不眠になっていたから、気休めでもいい、少しでもマシになればってさ」

 あの部屋に、ハーブの類は無かった。ちらりと見えたキッチンにも、ハーブティーはカモミールただ一つだけ。元々、あまり飲まない人なのだろう。だから、彼女以外が用意した物だと、ルシャージャは推察した。

「不安でしかないだろうしな」

「うん。だろうね。だからこそ、君は、早く見つけようと私の所へ来た」


 ルシャージャは服屋の前で立ち止まり、周囲を見回した。

「此処でいい、かな」ルシャージャが呟く。「ルイス。此処、立っていて。くれぐれも、動かないように」

「え、は」

「じゃあ」

 そう言って、返事も聞かずにルシャージャはさっさとその場を離れた。

 ルイスは溜息を零し、指定された場所に立つ。


 ぼんやりと小さくなっていく背を見つめていると、少し離れた所で止まった。地面を見つめ、何かを確認している動作の後、体がルイスを向いた。少し下がったり、少し前に出たりと、細かく動いていた体が止まる。じっと此方を見つめる姿は、少しだが前のめりになっているようにも見える。

 その場から動かなかいまま互いを見合った状態で一秒、二秒と時間が過ぎていく。


 一体何をさせられているのだろう、とルイスが考え始めた頃に漸く、ルシャージャが戻って来た。


「ルイス」

「ルシャージャ。一体何だったんだ?これ」

「確認」キョトンとして答えるルシャージャ。

「何の」

「解らない?」首を傾げ、不思議そうに言う。

 どうやら、ヒントは既に出ているらしい。


 確認、確認。と頭を回転させた事で、思考を止めていたことに気付いた。

 これは何かを確認する為の行動だった。場所は?ルシャージャは、態々指定した。服屋の前と何処だ。

 先程ルシャージャが立ち止まっっていた場所に目を向けると、青果店が在った。

 確認。服屋。青果店。これを関連付けると、一つ、浮かんできたものがあった。

「子供の目撃場所の確認、か?」

「正解」ルシャージャは微笑んだ。「思ったよりも遅かったね。思考を止めていたの?」

「ああ。忘れてた」ルイスも微笑む。

「そう」

「で、どうだった?確認の結果は」

「ん-、まあ、あり得なくはないかな」ス、と長い髪に指を通しながら言う。「あの距離なら、はっきり、とまではいかなくとも顔は見えるし、誰なのか、判別出来る。別に、表情まで分かる必要は無いしね」

「つまり?」

「証言の信憑性が高まった」

「そうなのか?」

「ああ。もっと離れていたら幻覚か、勘違いだと言えたんだけど・・・この距離だと可能だからさ」

「ふぅん」気の無い返事をしつつ、ルイスは内心、安堵していた。

 ルシャージャはゆっくりと歩きだす。ルイスも並ぶ。


 そういえば、とルイスは口を開く。

「誘拐犯の正体が判るかもって言ってたけど、結局どうなんだ?」

 覚えてたんだ、と失礼な言葉を放ちつつ、ああそれは、と口を開いた。

「断言は出来ないかな。でもまあ、他より可能性が高いものが一つ」

「お前の自信は?」

「九割程」

「そんだけあるなら充分。教えてくれ」


「奴隷商だよ。正確には、奴隷商関係者。話を聞きに行く前に言ったやつ」


 ガツンと、鈍器で頭を殴られたような気がした。

「・・・ルシャージャ」ルイスの足が止まる。絞り出すような声だった。

「何?」ルシャージャも足を止めた。

「それ、冗談とかじゃ・・・」

「ないよ」

「そう、か・・・」

 冗談であってほしかった。

「ルイス」抑揚のない、静かな声がした。

「何だ?」

「これは確定じゃない。ただの可能性」凪いだ瞳が、ルイスを見つめる。

「でも、九割も自信がある」ルイスは続けた。「なら、きっと正しい」

 青に数滴の紫を混ぜた不思議な色の瞳が、ぱちりと瞬かれる。珍しく顔に出して驚く姿は、幾分か幼く見えた。

「馬鹿だね」

「そうか?」

「大馬鹿」

「そうかもな。でもお前、根拠の無い自信は持たないだろ」

 ルシャージャは、もう一度、馬鹿、と言ってクスリと笑った。

「なあ」

 不思議な色の瞳が、此方を向く。

「教えてくれ。その自信の根拠。考えても、誘拐事件と奴隷商が繋がらない」

「わかってる。それは別に構わない。元々、そのつもりだったし。ルイス、先程の母親。彼女の証言が正しいという前提で進める。幻覚ではない証明は、後でする。確定ではないけれど、根拠を示す事は可能だから」いいか、と視線で問われ、頷いた。

 目撃証言をルイスは信じているのだから、何も問題は無かった。ただ、ルシャージャがそういう事を言い出したという事が、少し意外だった。


「事務所に居る時にも言ったけれど、身代金と怨恨は除外していい」事務所に居る時――ルイスが、ルシャージャに事件についての説明をした時だ。「整った容姿である必要性に欠けるからね」

 一瞬、ルシャージャの瞳がルイスを見た。

「被害者は皆、整った容姿だった。これに、例外は無い。そう、言っていたよね」小さく首を傾げる。

「ああ」頷いた。

「うん。なら、いいんだ」ルシャージャは小さく微笑む。「ルイス。やっぱり、君の考え方は効率的とは言えないね」

「まあ、お前からしたら、そうだろうな」いきなり何を言い出すんだ、とルイスは怪訝な顔になる。

「そういう事じゃないさ。何と言うんだろう・・・うーん、頭が固い。それか、視野が狭い、かな」視線を漂わせながら言う。

「なんだよ、悪口か?」軽い口調で聞いた。先程のショックが幾分か抜けてきたらしい。


「違うよ」クスリと笑う。「誘拐事件の動機。なんて、幾つもあるだろう?そこに一つ条件を入れただけで当て嵌まるものが何も無くなった、そう、君が勘違いしているように見えた」

「勘違い?」

「そう」真面目な顔を作る。「君は思いつかなかった、気付かなかった、それだけ。事実、私には思い当たる物があった」

「それが奴隷商?」

「整った容姿を選ぶのは高く売れるから。ほら、理由完成」おどけて言った。

「まさか、これだけで九割の自信を持った、なんて事は無いよな」

「まさか。勿論、それだけじゃない」クスクスと笑う。

 今日はやけに笑う。正確には、さっきの‘‘確認‘‘の後からか。

 彼女は、謎解きの後は何時も、機嫌が良い。それが理由かな、とルイスは推理する。九割、とは言っていたが彼女の中では殆ど決まっているのだろう。


「もう一つは、年齢」

「年齢?」ルイスはそのまま繰り返す。

 言葉を繰り返すのは、分からない時と、咀嚼に時間が掛かる時。今回は前者だった。

「年齢の幅は、四歳から十四歳。殆どが十歳未満。幼いと、奴隷商にとってメリットが発生する。どんなメリットか、分かる?」

「メリット・・・」

「そう。メリット。ただ奴隷が欲しいだけなら、十歳辺りの子供だけである必要は無い。というか、もうちょっと成長した十代半ばの方が良い値が付く」

 ルイスは、何でそんな事知ってるんだと突っ込みたい気持ちを抑え、頭を回転させる。


「従者の一族の子供する事と一緒だよ。最悪の方向に使われてはいるけれど」頭を悩ませているルイスを見兼ねてか、ルシャージャはヒントを出した。

 従者。十歳辺りの子供。従者という事は、仕える相手は決まっている。子供の内からする事・・・。

「教育・・・か?」解らずに困り果て、取り敢えず思いついたものを口にした。

「正解」

「でも、教育って・・・奴隷と、どんな関係があるんだ」

「質のいい従者を作る為に幼い頃から教育を受ける」ルシャージャは続ける。「それと同じだよ。質のいい奴隷を作るための教育を施す」笑っていた顔から一変して、表情が抜け落ちる。そして、まだいまいちピンと来ていないルイスに衝撃を与える言葉を放った。


「幼い内から刷り込んで、反抗しない従順な奴隷を作る。言ってしまえば洗脳だよ。まあ、魔法は使わないから、疑似洗脳、かな。でも、こちらの方が余程、悪質だ」

 吐き捨てる様に言い、腕を組む。端正な顔を歪め、不快だと主張する姿は、まるで、子供の様だった。感情を露わにした、珍しい姿。

 ルイスがそれを物珍しそうに眺めていると、美人はどんな顔でも美人だ、という意味も関係も無い感想が浮かんできた。

「ルシャージャ、その、悪質っていうのは?」

 魔法を使っていないのなら、魔法を解く手間は無いだろう、なのに何故。

「洗脳の真偽を問う際は、嘘かどうかを判別する魔道具を使用する」演説するような口調で語り出す。「質問は、魔法を掛けて洗脳したか否か、だろう。否、と答えたとしても、これは嘘にならない。‘‘魔法は‘‘使っていないから。嘘を付いていないと判断されれば、釈放される。そしてまた、繰り返す。洗脳している、という事が分かっても、証拠は出てこない。存在しない物を見つけ出す事は出来ない」

 ルイスは愕然とする。ルシャージャの言う通りだった。

 嘘ではない。それならば、嘘を見抜くための魔道具も、反応する事は無い。


「とにかく、これで、説明がつくんだ。見目の良い子供ばかりが狙って攫われた理由も。十にも満たない子供ばかりが狙われた理由も。勿論、・・・あの母親の目撃証言もね」


「待て、最後のはまだ説明を受けてないぞ」

「ああ、そっか。まだだったね。ていうか、攫ったのは奴隷商関係者。これで分からない?」

「分からない」即答する。

「そう。ルイスなら、自力でも分かるとは思うよ。時間は掛かるだろうけど」

「お前と話していると忘れかけるが、時間が無いんだ。無い、というか、事件解決は速いに越した事は無いだろう?俺が考えるよりもお前が説明した方が余程早いと思うけどな」

「分かったよ。説明する」ふうと一息ついた。


「目撃証言ね・・・。どう話すかな」顔を上に向けた。胸元にあった髪が、後ろに動く。「ん-、あ、そうだ。ねえ、ルイス」何か思いついたように言う。

「何だ」

「あの家の子の容姿って、知ってる?」

「まあ、一応は」

「そっか。どう見えた?」

「どうって、・・・普通に、可愛い子だなとは思ったけど」

「可愛い子・・・ね。分かった、有難う」

「有難うって、何が。お前、何が聞きたかったんだよ?」

「欲しかった答えを貰えたから充分。ルイスの言う通り、確かに可愛い子だったね」

「見たことあんの?」

「あの家の写真立てで」顔を戻した。「御免御免。いい表現を探していたんだ。見つかった事だし、話そうか」

 やっとか、とルイスは息を吐く。


「これに確証なんて無い。こじつけと言われれば、肯定するしかない」ルシャージャは続ける。「でも、これが正しいなら、奴隷商が関わっていると、断言出来る」

 ルシャージャの目がルイスを射抜く。

「証言を聞いている時、私は、あまり疑っていなかった。そう、言ったのを憶えてる?」

「ああ。お前にしては珍しい事を言うなって、驚いたから」

「疑う必要を感じなかったからね」小さく笑った。「彼女の証言を改めて聞いたお陰で、九割の自信を持つに至ったんだ」


「腕に付けられた火傷の痕の様な痣」


「ルイスに聞いた時から気になっていたんだ。だって、元から娘の腕に在った物なのなら、態々君達に訴えたりはしないだろう?」


『火傷。腕に、火傷の痕?の様な痣があったんです』

『娘が居なくなる前は、そんな物、在りませんでした』


「だからお前、奥さんに詳しく聞いてたんだな」

 あの時、痣について異様に気にしていたのは、そういう理由だったのか。

「そう。残念ながら、形までは分からなかったけれど。それでも、一般人の目撃証言としては十分鮮明だ」

「で、どう関係してるんだ?」

「せっかちだなぁ」ルシャージャがぼやいた。


「その痣が、奴隷紋なんじゃないかって思ってさ」

「奴隷紋・・・」

「流石に知っているよね。奴隷の証に入れられるやつ」

「流石に知ってる。でも、火傷の痕の様なって言ってただろ。魔法ならそうはならないんじゃないか?」

「様なってだけで、確定じゃない。それに、入れたのが魔法じゃなければ、そうなる」

「魔法以外で?どうやって」

「焼印。体に熱い物を押し当てて痣を残した」

「そんな事出来るのか。それに、何で態々」

「言い逃れの為にかな。魔法だったら、洗脳疑惑とセットでそのまま収容される可能性があるけど、魔法じゃなければ言い逃れできる。これはお洒落だ、とかね」

「言い逃れ・・・、クソ」

 確かにそうなってしまうだろう。ルイスは悔しくなり、悪態を吐いた。


「なあ、何で幻覚だと疑わないんだ?」

「もし母親が見た物が幻覚なら、可笑しいんだよ」

「可笑しい?」

「うん。可笑しい」ふうと息を吐く。「幻覚って、もうちょっと近くで見る物だし。表情が解る範囲が殆どだよ。それにさ、あの人、娘が無事だと願いたいって感じだったでしょ。なのに、不安を増長させる様な幻覚を見る?見たとして、体の傷は解る。けど、奴隷紋まで付くかな?それこそ、普通に生活していて奴隷紋の存在を知る事なんて無いと思うけど」

「そうか。確かに、そうだな」

「まあ、何となく違和感があるってだけだけど。実際は火傷の痕かもしれないしね。でも、もし奴隷紋だったとして、形が解れば奴隷商の特定も出来るかもしれない。知ってる?奴隷紋って、奴隷商毎に違うんだよ。多少似ていたりはするけど、全く同じって事は無い」

「お前のその情報は何処から来てるんだ・・・。まあいいさ。ルシャージャ」

 ルシャージャが振り返る。


「お前の推理は分かった。けど、何で九割?」

「足りないから」

「足りない、って何が?」

「んー、・・・決定打、かな?あと一つくらい、証拠になる物があれば完成するんだけど、それが無い」困ったように言う。

 少し芝居掛かって見えたが、決定打になる物が無くて困っているのは本当だろう。

「どういうのなんだ」

「え?」ルシャージャはきょとんとした。

「決定打。それになる物は、何があればいい」

 驚いていたが、すぐにルイスの考えに気付いたらしい。

「目撃証言。あの母親以外にも、もう一人くらい目撃した人が居れば、疑いようのない真相を証明できると思う」

「了解」

「でも、どうするのさ。母親の証言の裏付けの為に、聞き込みくらいはしたんだろう?今更、新しい証言が出てくるか分からないよ」

「それなんだがな?」

「何」

「どうしたらいい?」

「は?まさか、考え無しだったの?」呆れてものも言えないとは、まさにこの事だとルシャージャは思った。

「ルイス。聞き込みの時って、写真を使った?」溜息の後に聞く。

「ああ。使ったけど」

「・・・そういう事ね」納得したように呟く。

「は?どういう事だよ」

「ルイス。もう一回、聞き込みしてきて。それと、確認したい事があるから、聞き込みついでに十歳を超えている被害者の写真。用意して」

「そのつもりだったし、別にいいけど。写真もまあ、大丈夫」

「但し」静かに言う。


「次は、聞き込みの時に写真。使わないで」少し傾き始めていた太陽を背に、ルシャージャは笑っていた。

次話は13日20時に投稿します。

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