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異世界事件簿 ~魔法世界の誘拐事件~  作者: 黎明
事件

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4. 能天気な生

 

 頭から血の気が引くのが分かった。呼吸が苦しい。目の前が真っ暗になる。心臓が早鐘を打ってる。身体が冷たくなって、自由が利かない。まるで、凍っちゃったみたい。身体中が冷たくて、冷え切っているはずなのに凄く熱く感じる。

 何でだろう。冷たいのに熱いなんて、矛盾してる。

 

 我ながら能天気だと思う。

 実際はただ、現実逃避しているだけ。だって、考えないようにしないと、頭が可笑しくなっちゃいそうで。否、もう既に、可笑しくなってしまったのかもしれない。だって普通は、こんな状況で関係の無い事ばかりをつらつらと考えたりはしない。普通ってなんだろう。この状況は、普通なのだろうか。


 普通ってなんだろう。異常との違いなんて、今の莉里にはよく分からなかった。

 

 突如、肩に強い刺激が走った。


「⁉」

 ハッとして、視界が広がり、どくどくと脈を打つ音が聞こえた。

 は、は、と体が荒い息を繰り返す。どうやら、呼吸が止まっていたらしい。身体中が酸素を求めていて、苦しかった。今、莉里の頭が痛い原因は酸欠だからだろう。

 左肩が熱い、数秒経ってからこれは痛みだと気が付いた。自覚した途端に、痛みが増していく。増していく、というよりかは気付いていなかっただけなんだろうな。そう、考えて、驚いた。


 いつもの‘‘僕‘‘は感情的で、こんな風に理由を考えたりはしないから。まだ、抜け出せていないのだろうか。否、そんな筈はない。身体の感覚がある。痛みも居たいと認識していた。多分、自由に動く事も出来るだろう。

(さっきの事を引き摺っている?)

 分からない。こんな事は、初めてだった。


「おい、大丈夫か」男の声がした。莉里ではない。自分の口は動いていない。自分は何時の間に腹話術を習得したのだろう。練習した覚えは無い。もし習得していたとして、全く口を動かさないのは不可能だと思う。莉里は達人ではないし、達人だとしても出来ない事だ。

 聞こえた男の声は低く、自分の声があまり低くない自覚がある莉里のものとは到底思えなかった。

 誰だ。解らない。

 頭の中で疑問が上がりつつも、莉里の脳は動き続けていた。


「聞こえてるのか?ああいや、そもそも話せないって事もあんのか。聞こえてんなら手、上げろ」ぶつぶつと、独り言交じりに問いかけてくる。

 声は、後ろからではない。横から聞こえていた。


 どうしようか。数秒程で莉里は結論を付け、チラリと顔を横に向ける。莉里は決断が速い方だった。

 渋い焦げ茶色が目に入った。正体は髪で、日本では見慣れないもの。染めているのだろうか。30台前後だろうか。日本人らしい顔立ちならば似合わなかったりもするだろうが、浮いてはいなかった。

 童顔では無い、所謂大人顔だった。顔立ちも整っていて、美形に入るだろう。

 顔の影響か、随分と大人に見えた。大人の魅力、というやつだろうか。

 心底羨ましいと、莉里は思う。それにしても、一体誰だろう。誘拐犯なのか。決め付けてはいけない。先入観を生む。だが、怪しいのは事実だ。


「おい、どうした」怪訝そうな顔がこちらに向けられる。

 観察に夢中で、忘れていた。手を上げるんだったか。

 ゆっくりと片手を上げて見せる。

「おお、聞こえてんのな。お前、話せるか」男が莉里を見つめる。

 莉里は戸惑った。何故、話せるかを問われているのだろう。嗚呼、そういえば、一言も発していない。成程。ずっと黙っているのだから、疑問を抱かれて当然だ。

「あ、えっと・・・大丈夫、です。話せます」先生等、大人の前で話す時の様に、少し猫を被って答える。言い終わって、小さく不格好に微笑んだ。

 莉里の声は少し震えている。体から恐怖がまだ抜け切っていないらしい。


 莉里は人から好かれやすい性格をしている。好かれなくとも、反感を買う事は無い。相手がよっぽど捻くれていない限りは。


 さて、男の反応はどうだろう。取り敢えず、怒らせてはいないらしい。

「お、おお、そうか。なら、いいんだ」男は、小さく笑って見せる。莉里を安心させる為だろう。

 どうやら、効果はあったらしい。声が震えていた、というのも、庇護欲を増長させたのだろう。莉里としては、計算外だったが結果良い方向に転んだのだから、文句はない。



 莉里は可愛い。事実だが、莉里が自分を嫌う要因だった。

 死ぬのなら、それでも構わないと思っていた。大嫌いなこの体と、離れられるのならそれでもいい。と。

 だが、それは違ったようで。

 死に対する恐怖。それは、本能のような物で、意思とは関係ないのかもしれない。

 だが、自分は死にたくない。そう、思った。


 世の中は、生きていて当たり前。生きている前提で話が進む。それが当たり前だと思っていたし、常識だった。なんとなくで生きて、死ぬのは怖いけれど態々抵抗する程でもない。そんな考えだった。

 なのに、だ。生きたいと思った。

 莉里が初めて、明確に、生を願った。

 それは、莉里にとってはとても重要な事で。なんとなくで流されるのではなく、自分の意志で、生きる事を決めた。それは、意味のある事。

 莉里は、黒沢(くろさわ)莉里は感情的な人間だ。所謂、野性的な人間。理性はあるけれど、ある程度の制御は可能だけれど、最優先は自分の感情。感情、というよりは本能が近いだろう。


 生きる。最優先事項。それが、莉里の脳に刻まれた。


 スー、と頭がクリアになっていく感覚がした。最優先が決まった。

 何をしてでも、生き延びる。


 莉里は自分の容姿が嫌いだ。それは依然として変わらない。男らしくない。女に見えると評判の容姿。童顔で可愛らしい顔立ち。顔に似合った、小柄で華奢な体付き。同年代に比べて、ほんのりと高い中世的な声。日本人らしい黒髪と、クォーターである祖母から貰った翡翠色の瞳。以前鏡に映った自分は、吐き気がする程に可愛らしかった。

 最優先は決まってる。どんなに嫌いでも、利用すると決めた。



「なあ」

「あの」

「「あ・・・」」

 二人同時に話そうとして、止まる。

 声が重なった。普通なら偶然。でもこれは、必然。

 たったそれだけの事で、

「悪い。先どうぞ」

 一気に親しみが持てる。

「あ、有難う、ございます」恐縮しながら。

 素直な、イイ子だと思われるように。

「ここって、どこ、ですか?それに、お兄さんは?」すこし、舌足らずに話す。

 普通の疑問を投げかけるだけだから、可笑しくは思わないだろう。


「ああ、此処。此処なぁ・・・何て言ったらいいか。えっと、俺は此処で働いてんの」

 言えない・・・か。使えないな。言っては駄目、という訳ではなさそうだし、単純に語彙が無いだけか。

 此処で働いている、という事は誘拐犯側。何か情報を聞き出せるといいんだが。幸い、莉里の顔は好みな様だし、上手く使えればいけるか。とはいえ、出来るだけ、慎重に。

 男は筋肉質という訳ではないが、そこそこ上背がある。華奢な莉里だと体格差で不利だろう。

 怒らせたりはせず、持ち上げて気分を良くさせる。ハイテンションになれば口が軽くなるかもしれない。


「え・・・ここで、ですか・・・?ま、さか・・・ぼ、くを、さらったの・・・・・・」大袈裟に、びくりと肩をはねさせる。怯えたように体を竦め、自分の体を抱きしめる。そして、瞬きをしない事によって乾燥し、少し潤んだ瞳で上目遣いに見上げた。

 ここからは少し賭けだ。

 男から見た今の莉里は大層可愛い事だろう。涙目の莉里を見て、庇護欲がそそられるのか、加虐心が芽生えるのか。

 莉里の希望としては前者だが、どうなるか。


「ああああ、違う違う違う!!攫ったのは俺じゃない!」慌てた様に顔の前で両手を振り、否定する。

 どうやら、莉里の希望は叶えられたらしい。内心で微笑みつつ、戸惑った顔を作った。

「え?違うん、ですか?・・・ご、ごめんなさい。僕、てっきり・・・」

「いやいや、ごめんな。勘違いさせるような言い方しちゃって」

「い、いえ。・・・・お兄さんが僕を攫ったわけじゃなかったんだ。よかったぁ」はっきりと聞こえるが不自然にならない程度の大きさで、独り言のようにそっと呟く。良かった、と眉を下げて笑った。



「・・・・・・」男はどこかぼぅ、としている。

「お兄さん、どうかしたんですか?」こてりと、首を傾げた。

「ッ、悪い。何でもねぇよ」慌てた様に答えた。

 どこかあざとい仕草も、話し方も。通常の莉里ならば、吐き気を催していただろう。何故平気なのか。それは、腹を括ったから。

(こうなったら、とことん利用してやる)

 というか、唯の開き直りである。



 それから暫くは男との雑談ばかりで、特にこれといった収穫は無かった。何度か、此処の事についての話を振ったのだが、その度に分かり易く話を逸らされてしまった。

「そういえば、お兄さん。聞きたいこと、あるんですけど・・・いいですか?」

 思うようにいかず、内心で苛々を募らせていく。

「ああ、まあ。答えられる事なら」笑いながら、莉里の頭を撫でる。

 話しているうちに大分気安くなったな、と莉里は笑みを零す。会話に付き合った甲斐があった。

「僕の服、なんですけど」莉里は話そうとして、少し躊躇う。「その・・・これって、ワンピース、ですよね」

「おお。何だ、気に入らねえのか?ま、そりゃそうだよな。()()()なら、もっと可愛いやつ着たいよな。でも、全員これだからなぁ。・・・悪いんだが、これで勘弁してくれや」

 男が何とも的外れな事を言う。

(矢張りか)

「あの、僕、その・・・」莉里は困った様子を見せる。「僕、男です!」意を決して言った。

「・・・・・・は?」男は目を丸くした。


 矢張りと言うか何と言うか。莉里の予想通り、女だと間違えられていたらしい。

 慣れてはいるが、何とも言えない気持ちになる。今の莉里は、遠い目をしているだろう。

 利用するとはいえ、間違えられる事が嫌いなのには変わりないので。


 取り敢えず、ワンピースではなくズボンに交換して貰えないか、男と交渉する必要があるな。と、莉里は若干の現実逃避をしながら考えるのだった。

次話は2月6日20時に投稿。

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