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異世界事件簿 ~魔法世界の誘拐事件 ~  作者: 黎明
本編

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11/12

10. 策の内側に

 

 グッと体を伸ばしたルイスは、大きな溜息を吐いた。

「んで、結局、お前の予想通りだったわけか。探偵様は、どこまで分かってんだか」

「さてね」

 怠そうに息を吐くルシャージャ。

 ・・・言う気は無いってか。


『写真を使わずに聞き込みしろ』なんていう指示、言われた時は意味が解らなかった。けどまあ、此奴が言うなら何かあるんだろうなとは思ったけど。

 疑問をぶつけても答える気の無い此奴は、『さっさとしろ』って足を蹴りやがって・・・。

 無茶苦茶痛かったんだが。非力なルシャージャらしからぬ脚力だったぞ。

 確認したら、足に魔力を集中させたらしい。目を逸らして気まずそうに言っていたから、自分が何をしたのか理解はしてるんだろうな。



 魔力を体の一部に集中させるという行為は、疑似的な身体強化になる。・・・らしい。

 だけど、魔法として完成されていないから、一瞬でも気が散れば簡単に解けてしまうし、効果も弱い。それに加えて、燃費も悪い。だが、体に負荷がかからないのだと言っていた。

正直、ルイスには詳しい仕組みは分からない。要約すると『メリットばかりの物は無い』という事だろう。多少ニュアンスは違うかもしれないが。

 但し、一度でもミスをすればその部位は使い物にならなくなる。本来では在り得ない量の魔力を流し込んでいるのだから、加減を間違えれば足が吹き飛んでしまう。


 そんなものを、別の魔法と同じ器に掛けたらどうなるか。魔法同士であっても、重ね掛けという行為の難易度は高いという。ただでさえ難しいというのに、精密なコントロールが求められる行為を緊張も無く行えたというのは、己への自信からくるものだろう。もっとも、根拠の無い自信などではなく、実力に基づいた客観的な評価である。周囲の奴等が似た評価を出しているのだから、正しいのだろう。ルイスにはよく解らないが。


 身体強化は便利ではあるのだが、彼女はあまり使いたがらない。強化というのはその時の体の限界を超えるものであり、その分の負荷がかかる。具体的には筋肉痛。


 ルシャージャは筋肉痛が嫌いだ。前に『どれだけ有害な物であっても、使い方と加減さえ間違えなければ役に立つ』って言ってたのを覚えている。


 どれだけ有害な物であっても、使い方を、加減を見誤らなければ役に立つ。それが彼女の自論だと言っているのを、聞いた事がある。

 体が壊れないよう、調整してはいるんだろうが。

 それでも、だ。ルイスが許せるかどうかは別問題。


 取り敢えず、一発頭を小突いといた。文句垂れてたけど当たり前だ。んな危険な事をやるなんてな。

 全力ではないから、ルシャージャの脳に異常が出る事は無いだろう。多少落ちても高いもんは高いし。壊れて・・・は、ないけど割とズレてるし。


 結局、時間が足りなかったのもあり、同じ部署の後輩達を呼び出して、全員で街中を駆け回る事になった。一週間・・・とまではいかなくとも、2、3日分は走った。

 まだ、足が震えてる。ルシャージャに言わせると、『膝が笑う』状態。なんも笑ってなくねえか?

 でも、そんだけ走り回っても、圧倒的に数が足りない。この時ばかりは、社内秘が憎らしく感じた。

 まあ、夕方だったのもあって、大概の人は家に居たんだが。夕食の用意をしているタイミングだったから邪険にされた。と後輩達に文句を言われた。・・・・・・片付いたら、なんか奢んないとな。


 ルシャージャの事務所で、憂鬱だと溜息を吐いた。

 にしても、散らかってんな。来客を座らせるソファの前に置かれたテーブルには、幾つかのファイルが積み上げられていた。

 珍しい。普段から整理整頓してんのに。それにしても、何故ファイルが?依頼に来た時は何も載っていなかった筈だが・・・。

 それにしても、と目の前のテーブルよりも目を引くのは更に奥だった。

 ルイスの視線の先には、ルシャージャの定位置である彼女のデスク。

 何時も綺麗に片付けられているそこには、物が散乱していた。

 所狭しと大量のファイルや書類が積み上げられている。

 盗人でも入ったのかと言いたくなる有様だ。


「で、どうだったの」青に少しの紫が混ざった不思議な瞳が、ルイスを見やる。

 部屋の有様を気にも留めない辺り、この惨状を作り上げた犯人は彼女なのだろう。


 ルイスは奇襲された時に話そうとしたが、結局、此処に移動する事になったのだ。

 そういえば。気絶させておいた男達に、ルシャージャが何かしていたのだが、あれは何だったんだろうか。

 んー・・・、駄目だな。考えても、俺にはよく解らねえわ。

 ま、何かあったらルシャージャから言ってくるだろ。

 そっから考えればいいさ。


「ルイス。早く言え」

 上からだな此奴。

「へいへい」相変わらずな態度に、頭を掻く。

「あ、そうだわ。聞きたい事があったんだ」

「どうでもいい。報告」

 早くしろとルシャージャの目が鋭くなっていく。

 どうでもよくはないだろ。興味ないってか。


「聞き込みの結果、色々と分かった事がある。あのさ、お前・・・」

「ルイス」

 ――分かっていたのか。それが口から出る前に制される。報告が先だと、そう告げる瞳からは温度が失われていった。


「お前の言った通りに、写真を見せずに聞き込みをしてみた」目が合って数秒。切り替えたのはルイスだった。


「ら、服屋で子供用の服を買いに来る奴が居るってさ。しかも、毎回違う子供を連れていたんだと」

「へえ。よく覚えていたね。客は沢山来るだろうに」

「頻度こそ高くはないが、連れてくる子連れてくる子、皆が偉く綺麗な顔だったから。それと、買うのは毎回同じ無地の白い服だから、だとさ」

 ――あとは、

「わんぱく盛りの奴も大人しくしてたから印象に残ったらしい」

「ふうん。何か不審な点は?変な香りがした、とかさ」

「ああ、そうそう。変な臭いがしたんだと」

「どんな?」こてりと、首を傾げて見せる。長い髪が揺れた。

「ええっと、確か・・・甘い、って言ってたかな。あと、鼻にくるツンとした臭いだとも」

「そう」ルシャージャの目が細められた。「ありがとう。続けて」


 数秒頭を整理して、口を開いた。

「火傷のある子供を見た、って言う人が複数現れた」

「ああ、やっぱり?」

「やっぱりって、お前・・・っ、そういう事かよ」

 驚いているのを隠しているわけではない。そして、知ったかぶりというわけでもない。

 何故言わなかったのか。それは分かってる。ルイスに先入観を与えない為、何より「可能性は口にしたくない」・・・。

 やっぱりか。


 でも、

「確認するよう、何で俺に言わなかったんだ?」

 理由を話さずに調べさせるなんて、何時もの事なのに。

「それくらい、君なら分かるだろう?私が言わなくともルイスなら確認する筈だ、ってね」

 きょとんと瞳を瞬かせてから、悪戯っぽく笑った。

「は、お前なぁ・・・」

 本当、どこまでお見通しなんだかな。

 さらっと流せるのは、慣れからか。何からか。

(でも俺も、こいつの考えてる事が多少は分かるしな・・・理解はできんが)


「だとすると・・・間違いは無さそうだね」

「奴隷商のやつか?」

「まあ、余程お相手が賢くない限りはね」

「どれくらい」

「私よりも賢くないと駄目」すまして言う。「けどそういう人は滅多に居ないし、そもそもやらない。そんな、リスクばかりの事はね」

 ルシャージャよりも賢い奴・・・駄目だ浮かばん。そもそも、そんな奴が居るのか?


 無限に広がりそうな思考を止め、ルシャージャに向き直る。

「それで、どうだ。決定打になるか?」

「ああ、それね。ん~・・・、微妙」

「は?これじゃ足りねえのか?」

「いやー、惜しいところまでは行ったんだけどね。あと一押し、何かない?」

「あったら言ってるっての」

「そう、残念」

 思ってないだろ絶対。

 ――でもまあ、

 ルシャージャの顔を見る。

「殆ど、間違いないだろうねぇ」

 ここからひっくり返るなんて、相当だよと笑う。


 ――あれ、

「どこに行くの」

「どこって」

 決まってる。

 ――助けに。そう、口にしかけて固まった。

 彼女の瞳を、宝石の様だと思った事は何度もあった。けれどこれは、初めて見た。

 こんな、温度の無い、どこまでも底冷えする光をたたえた宝石は。

「出来るの?」

 ――君に出来るのかと問われる。

 首元に鋭利な刃物を突き付けられている、そんな錯覚に陥った。目の前が真っ暗になった気がした。

 本能が恐怖を覚える。

 ――それでも

「やるしかないだろ」

 知ってしまったのなら、それしかない。

 皆のヒーロー、何てものになろうとは、なれるとは初めから思っちゃいない。

 攫われた子供にとってのヒーローの一人。そんぐらいなら、自分でもできる。

 もういいか、と立ち上がる。急がなくては。

「・・・ルイスってさ」呆れの声がした。

「あ?」


「本当、馬鹿だよね」

 ――ただの馬鹿じゃない、救いようのない馬鹿だ。

「は・・・?」

 間抜けな声が漏れる。

 何を言ってるんだ此奴は。軽口に付き合っている場合じゃないんだ。

 ――まさか

 文句を言おうと開きかけた口は、己を嘲笑う声ですぐさま閉じる事となった。


「私が、策も用意せず君に話すとでも?」

 そう言ったルシャージャの顔には、意地の悪い笑みが浮かんでいた。


次話は20日20時に投稿。

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