9. 変な臭いと
冷たい床の感触が、最初に戻ってきた感覚だった。
んぅ、と自分から少しくぐもった声が出る。
瞬きを繰り返していく内に、視界が明瞭になる。ツンと、甘いような変な臭いが鼻を刺した気がした。
ズキ、と頭に鈍い痛みが走り、一瞬、視界が捻じ曲がった。
(・・・・・・今のって、一体・・・?)
頭に何かあたってる。なんだろう。
上を向くと壁があった。ああ、硬い何かは壁だったんだ。
地面に手をつき、ゆっくりと体を起こす。頭がくらくらする。
(えっと、・・・ここは、どこ・・・だっけ?)
痛いなぁ、なんて頭を押さえつつ壁に凭れかかる。
暫くぼう、としていると段々と意識がはっきりしてきた。それに合わせて、頭が回転を始める。
確か、眠たくて、寝ていた筈だ。ここ最近、というか運ばれていた時からすぐに眠くなる。変な事ばっかり、確かに疲れていた。けど、それでも可笑しい。
だって、僕は不眠症に近い状態だった。なのに、なんで・・・?
・・・・・・変だよ。
突然睡眠を求めるようになった体。
でも、無理矢理眠らせる様な物でもない・・・気がする。
そして、さっき鼻についた変な甘い臭い。
あれ、なんだったんだろう。一瞬だったけど、多分、気のせいじゃない。嗅ぎ慣れない・・・甘くて、鼻にツンとくる変な・・・、なんとなく、薬品っぽいような・・・。
頭が痛い。背後の、ひんやりとした壁が心地よかった。
また、あの変な臭いが鼻を刺す。
一瞬、意識が遠くなった気がした。
(・・・・・・・・・)
変な想像が、頭をよぎる。
心臓が嫌な音を立てた。
(いや、そんなまさか・・・ね)
あり得ない。ただの勘違い。僕の考え過ぎだ。
あー。駄目だな、一人だと。嫌な考えばっかり浮かんできちゃうや。
上を向いて、手で目を覆う。
一人と言えば・・・、と、頭に一人の男が浮かんだ。
誘拐犯―――否、グループか。あの、お人好しそうな、ガタイのいい男。
・・・・・・体格は、関係無いか。私情を挟んじゃいけない。
それが、命取りになるかもしれないんだから。
死が迫って来るって、身の危険があるって。草原で目が覚めた時から、嫌になる程実感してる。
大丈夫。僕なら出来る。ちゃんとやれる。
生きるって、決めただろ。なんとなく、じゃなくてさ。
って、あれ?今、なにか聞こえたような・・・・・・。
空耳か?
この牢の中・・・な訳ないよね。外からか。
鉄格子の所まで、そっと這う。物音を立てない様に、細心の注意を払って。理由は、よく分かってないけど。
ぎりぎりまで近づいて、耳を澄ませてみる。
・・・・・・ん、と・・・なにか聞こえる・・・?
やっぱりか、空耳じゃなかった。
人の、声・・・か?うん、人の声だこれ。
二人以上いて、会話してるみたいだけど・・・ぼそぼそ言ってて解らない。聞き耳を立てれば・・・いけるか?んー、まあ、暇だし。どうせやることも無いんだからやるだけやってみよう。
それに、僕はこのまま黙って待てる程イイ子では無いから、さ。
莉里は、勝気に口角を上げるのだった。
次話は13日20時に投稿。
よければ評価、感想お願いします。




