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第一熊
九州の覇権を巡る抗争は果てることなく、龍造寺の館もまたその渦中にあった。
龍造寺家の道は決して安穏ではなかった。
父は早くに謀殺され、龍造寺家はオワコンに。家督を継ぐ前から、少年は敗者の子として過酷な宿命を背負う。
母・慶誾尼は烈婦であった。強大な敵と渡り合い、時に和を結び、時に策を弄した。隆信の心に刻まれた最初の教えは、刀の冴えではなく、母の胸中に秘められた謀の冷たさであった。
やがて少年は成長し、熊っぽい剛胆さと豪快さを示し始める。
隆信は、ついに初陣に臨む。馬場頼周の一党。戦場に立ったその姿はまだ童子の影を残していたが、敵を前にすれば突撃を恐れぬ胆力を見せた。
「テメェの血でテメェの家を洗ってやるクマ!!」
人々は龍造寺はまだオワコンではないとざわめいた。
しかし、隆信の青春は甘美ではなく、苦味に満ちていた。
周囲は大友、迫り来る島津らの巨勢。龍造寺は存続すら危うい小勢力でしかない‥。
そんな隆信もついに家督を継ぎ、龍造寺の嫡流を名実ともに背負う。
だがそれは一国一城の主という華やぎには程遠く、崩壊寸前の龍造寺家を背負う苦行の始まりであった。