第7話「”僕”と”俺”、今と過去」
~空き教室~
「それで話ってなんだァ?」
「僕の過去の話についてです。」
「隆人先輩は僕がかつて組んでいた音楽ユニット──『LYric/MUsicS』を知っていますか?」
「...『LYric/MUsicS』か。確か、とある学校だと有名って話じゃなかったか?」
隆人は音楽についての好奇心が深い。だから立輝と別の中学校に通っていても立輝のユニットを知っているのだ。
「隆人先輩、知っているんですね。」
「ああ。んで、かつては結構人気があったが...とある日を境に解散したってとこかァ?」
「それも知っていましたか。」
「お前はこの学校では問題児として扱われているよな。」
「ははは。そうですね。」
立輝は苦笑いした。
「だけど俺の知り合いがさァ?『阿久津はそんなに悪い奴じゃない』って言ってた気がするな。」
「別の学校の知り合いだけどな?アイツは『阿久津は寧ろユニットのメンバーの事を考えてた』って…お前の事を評価してたぞ?」
「…隆人先輩の知り合いは優しんですね。僕はその時、何も考えていなかったのに。」
立輝がそう言うと、隆人は照れた。
「…ああその、もしお前が良ければなんだが、過去に何があったのか説明してくれないか?」
「俺でもきっと考える事は出来るし、それにお前の話が気になる。」
「まあ、話したくなければ話さなくても良いけどなァ?」
立輝は考えた後、答えた。
「…いや話したい、です。」
「あの事件の事も…どうしてこんな事になったか、も。」
「そうか。それじゃあ話したい所のみ話してくれ。」
「──これは僕が中学生だった時の頃です。」
〜数年前〜
代々木音楽学園 1ーCにて。
「は?今日も授業が七時間あるのかよ。ダルすぎねぇか?」
此処は代々木音楽学園。その名の通り、音楽に特化している学校だ。音楽の全国のコンクールで上位に必ず名前が上がる、「コンクールの代々木」と言われている学校だ。
「(俺は音楽系の学校の方が他の教科の勉強が少ないと思ったから此処に来たのに…)」
この時(中学生の時)の立輝は一人称が「俺」という少し棘のある性格である。さらに言葉もキツく今の立輝は言葉は卓実のようにキツくはないが、過去の立輝は今の卓実並にキツい。
「(まさか『コンクールの代々木』と呼ばれてるこの学校でこんな勉強が多いとは…選ぶ学校間違えたか?)」
と言っているが、授業時間は50分と言う普通の学校と変わらない。立輝は50分ですら長く感じる。何故なら、立輝は勝手に45分が普通だと感じていたからである。
「(しかも今日は音楽の授業無いじゃねえか!最悪だよ!本当に!)」
「………あー立輝君?」
すると、のんびりした生徒がやって来た。
「ああ?誰だお前は。のんびりしやがってさ。」
「酷いなー忘れたの?僕の事を。」
「『のんびりな才能音楽家』、加賀谷の事を。」
「…はあ?加賀谷?何それ。加賀谷何なんだよ。加賀谷だけ言われても何も分からないが?」
「ええ!?加賀谷友凪だよ!酷いなー立輝は。僕の名前を忘れるなんて。」
友凪は、立輝のクラスメイト。立輝には冷たい態度を取られているが、実は立輝は何だかんだ気に入っている。友凪は音楽が好きで、勉強も嫌いじゃない。だからこそ、この学園が楽しいと思っている。
「ああ、友凪〜?誰だった?…ああ、思い出した。授業でものんびり過ぎて『やる気出して歌えよ!』って教師に言われている奴だ。」
「ええ〜?それ、僕の友達の夢先衣与君じゃない?」
衣与は友凪の友達。利己中心的で、マイペース。その為、クラスからは浮いている。とは言え、常識はある。友凪とは仲が良い。
「夢先……あの問題児と友凪は友達なのか?なんであんな利己的な奴と…」
「うん。まあそれは君が言う事かな?紀宝君が言うんだったら分かるけど。」
「紀宝静司だろ?アイツは真面目すぎて面白くないとしか言い様が無いな。」
静司は衣与や立輝などと違い、とても真面目な性格。ただそれ故に、冗談があまり通じない。その為か、立輝は面白くないと感じている。
「うーん…紀宝君は間違いなく良い人だと思うけどなー…おっと授業始まっちゃう!次の授業担当する先生厳しい人だし、すぐに用意しないと!」
そう言って友凪は授業の用意に向かった。
「...はあ。アイツ、マジで何だったんだ?」
「っと、まずい一時間目は厳しい教師だ。気を付けないと。」
そうして立輝も授業の用意に向かった。
そして授業中...
~一時間目 国語の授業~
「...ええ~ここの漢字の読みと意味を全て答えて下さい。」
「今回は阿久津さん。お願いします。」
「(はあ!?)」
立輝はいきなり当てられて驚く。
それもそのはずだ。立輝は授業なんて聞いておらずまさか自分が当てられるとは思っていなかったからだ。
「(えっと、この漢字は...手に似た字の隣に王というもの...なんだっけな。まず読みは...)」
「(『くるう』と...『きょう』だったか?それで意味は...)」
「(え?そのまんまの意味じゃないのかよ。キ〇〇イみたいになるみたいなさ。)」
「...意味はキ〇〇イみたいになる、読みは『くるう』と『きょう』だろ。ほら、答えは言った言った。」
立輝はまるで独り言のように言う。
「ん?阿久津さん。分からないですか?分からなかったら、他の人に助けてもらいましょう。」
しかし、そのせいで声が聞こえなかった為、意味が分かっていない認定されてしまい、パスされてしまった。
「.....は?俺は答えたんだが。」
「(別に意味がキ〇〇イみたいになるでも良くないか?間違ってはいないだろ。)」
「(まあ、せっかく答えたのに聞かないアイツも気が狂っているだろ。よくあんなので...)」
「──あ。ごめんなさい。阿久津さん。ちゃんと言っていたんですね。すみません。耳が悪くて。」
しかし、他生徒のお陰で立輝はしっかり答えている事が分かり、他の人に助けてもらう必要もなくなった。
「はあ...自分の都合でそう言うのは自己中心的って言うんだよ。...理解しろ。」
立輝は冷たく捨てたが、誰にも聞こえなかった。
そして授業が終わり──。
時間は休み時間に進む。
~休み時間~
~1ーC 教室にて~
「(...やっと半分終わったんだが。だるすぎねえか?この代々木は。)」
「...俺も兄貴みたいに楽しいものが見つかれば良いのになあ。ホント、俺ってツいてない!」
「はあ...うるさいんだけど?衣与を邪魔しないでくれる?寝ていたのにさあ?」
すると、誰かが話しかけてくる。
その顔を見た瞬間、立輝がさらに嫌そうな顔になる。
「げっ!お前は...夢先衣与!なんで俺に話しかけてくるんだよ!?」
「はあ...それはきみのせいじゃないの?だってどうでも良いことを大きな声で呟いてさ。」
「代々木がそう言う学校なのは前々から知っていたんじゃないの?...まあ、あの阿久津立輝だから調べていない可能性もあるか。」
その言葉に立輝はカチンと来た。
「なんでそれだけは勘が良いんだよ!お前はいつもだるそうにしている癖に!」
「...衣与はきみと違って、エネルギーを節約しているだけだけど?ただ単純にやる気がないから休んでいる奴とは違うんだよ?」
「それに別に衣与がだるそうにしているのは皆が眠るくらいつまらない授業の時と、休み時間の時だよ。それの何が悪いの?そもそも衣与は別に難関大は狙っていないんだけど?」
「単に楽しめば良いだけ。出来るだけ、面倒な事を”合理的”に避けて、青春というものを楽しめば良いだけなんだよ。」
「(コイツは何考えているのか分からないな。大体自由なしの代々木にどうしてコイツは来たんだ?)」
立輝は心の中で疑問に思った。
「(他に良い所があっただろ...代々木以外にもさ。)」
「........それでお前が話したいのはそれだけ?」
「いや、本題は此処から。」
「ほら、今日は部活の歓迎会があるよね?」
「そこで放課後、それが終わったら校門に行って欲しいんだって。」
「...誰が行けって言ったんだよ。まさか、」
立輝は知っている名前を言おうとする。が、
「──きみの関係者、阿久津武瑠だけど?」
「……え?兄貴?」
「そうなんだ。まあきみなら知ってるでしょ。ケルの事くらいは。」
「ケル…?変なあだ名だな。まあ、とにかく俺は放課後にそこに向かえって事なんだな?」
「そう。…話はそれだけ。残念ながら、何を話すのかはケルは話してくれなかったからそれはきみが確認して。」
そう言って衣与は何処かに行ってしまった。
「(んだよ。アイツ。兄貴の事をあだ名で読んでるだと?年上なのに…)」
「(ままいいや、とりあえず、放課後に向かおう。)」
〜現在〜
「………っとまあ、これが僕が中一でユニットを組む前の話ですね。」
立輝は声が枯れてきてしまったので一旦、此処で過去の話を切った。
「この時のお前は一人称『俺』だったんだなァ?」
「そうなんですよ。まあ、今考えると痛々しいですよね?」
「いや、気にするな。俺なんか、中学の時は『俺様』だったしな。」
「...まあ、想像できなくはないですね。」
立輝はからかう。隆人は笑顔で言った。
「なんだよそれ。おっと、話を切ってしまったな。再度、お前の過去の話を聞かせてくれ。」
「(やっぱり思った通りだ。コイツは俺と似ている。)」
「(なんだかんだ真面目で純粋である所は俺とは違うが、それでもやりたい事は絶対にやるという意思を持っている気がするな。)」
「はい。えっと、その代々木音楽学園の校門で...武瑠兄ちゃ...兄に出会って...」
~過去~
~数年前の放課後~
校門にて。
「兄貴?おい。兄貴、何処にいるんだよ。」
「あ!立輝!こっちに来て欲しいんだ。」
「そっち?まあ、いいや。向かおう。」
立輝が向かった場所は...
~とあるライブ場にて~
「(なんだよ。兄貴。いきなりこんなライブ場に連れて来て...)」
「皆!今日はありがとうねー!」
「っ!?アイツは友凪!?それに隣にいるのは衣与と...紀宝!?」
なんとそこには同じ学校の生徒で、知り合いの三人がいた。
「衣与達もみんなの期待に応えたいの♪だから聞いて。衣与達の音楽を。」
「(衣与...学校の時と様子が違うな。学校でもそんな優しい顔はしないし。)」
「...皆さん。私達『LYric/MUsic』のライブを見に来て下さりありがとうございます。」
「(『LYric/MUsic』。それが今、ライブしているユニットの名前か?)」
「(にしても紀宝...客さんには笑顔を見せるんだな。俺には見せないのにな。俺、嫌われてるのか?)」
立輝がそんな事を考えていると、もうじきアンコールの曲が始まろうとしていた。
「皆さんの期待に応えて──私達はアンコールの曲を演奏します。」
「それでは聞いて下さい!『Lyrical』!」
アンコールの曲が始まった。
「(始まった。衣与や、友凪はやる気がありそうだけど...紀宝はどうなんだよ。)」
しかし、立輝の予想とは裏腹に静司は思った以上にやる気だった。
「──♪──♪」
「...紀宝?お前、思った以上に...」
「(面白い奴だな!お前は堅実?真面目な事しか興味がないのかと思ったけど...こういう事にも興味あるんだな。)」
そして結局、立輝は「LYric/MUsic」の音楽を楽しんだのだった。
~ライブ終了後~
「...凄かったな。兄貴。」
「うん。そう言ってくれると思ったんだよ。」
「兄貴。わざわざ俺を連れて行った理由は何?」
武瑠は笑顔で言った。
「それは立輝は楽しいものを見つけて欲しかったから、だな。」
「...兄貴。」
「どうしたんだ?立輝。」
「今日はありがとうな。俺をライブに連れて行ってくれて。」
立輝は照れながらお礼を言った。
「いや、立輝が喜んでくれて良かった。俺も喜ばせる事が出来たんだな。」
「兄貴。あの俺さ、」
立輝は武瑠の方を見る。
「ん?」
「俺、あのユニットの仲間になりたい。」
「...そっか。それなら、明日くらいにメンバーに入りたいと言ってみたらどう?特に...加賀谷くんは話しやすいと思うな。」
「まあ明日、ソイツに出会ったら言ってみようかな。『メンバーになりたい』って。」
「(はは。立輝が興味を持ってくれて本当に良かった。)」
楽しい物がなかった立輝は兄のお陰で数少ない楽しい物を見つける事は出来たのだった──。
皆さんこんにちは。小山シホです。さて、今回は立輝の過去ですね。過去編はもう少し続きます。立輝の事が気になっている人は是非、次回も見て下さい。
次回予告
数年前。立輝は武瑠のお陰で音楽に興味を持ち始める。そして遂に「LYric/MUsic」のメンバーになる。そこであったのはまるで青春と言っても良いほどのものだった。しかし、それは崩れ初めて...?
そしてその話をする時、隆人にとって立輝は笑顔には見えなくなっていた──。




