第五話「阿久津兄弟」
〜翌日の放課後〜
〜参宮橋公立男子高等学校〜
〜グラウンド〜
「はぁ…昨日の何だったんだろ…」
「(頭が全然回らないな…授業も何か集中出来なかったし…)」
「つ、疲れているのかな?あ、あはは…」
秀は明らかに授業にも集中していなかった集中していなさ過ぎて教師に顔洗えと言われた程だった。
「ねえねえ武瑠兄ちゃん。今日出た宿題教えて!」
「はいはい。学校終わってからな。」
「ありがとう!…って彼処に居るのは…」
立輝は武瑠と話していると秀を見つける。武瑠は立輝と一緒に秀の所へと行く事にした。
「おーい。秀〜?」
「……え?立輝と…武瑠さん!?」
「ごめん。立輝がちょっと…ね。話に付き合って欲しいんだ。」
秀は武瑠が自分に話しかけたのは意味が分からなかったが、立輝と話せるのは寧ろ良いと思い、付き合う事にした。ついでに武瑠も付き合う事にした。
〜グラウンドの土管側〜
「それで秀。何か表情暗くないか?どうしたんだよ。」
「実は──」
秀は昨日にあった事全て話した。
「へえ。そんな事があったんだな。秀。」
「にしても…区川先輩がそんな事をしていたのか?あの人がそれをやるとは信じられないけど…」
「…俺は桧崎さんの言ってる事分かるかな。」
その言葉には立輝どころか秀すらも少し驚いていた。
「そうなのか?武瑠兄ちゃん。」
「うん。だって俺は…いや俺も…」
「──区川さんの本性は知っているから。」
「…区川隆人って知ってる?」
区川隆人は啓斗の双子の兄。高二一組。啓斗は隆人のことを誰よりも崇拝…というか愛している。それはほぼブラコンと言えるレベル。隆人本人の性格は(表面上は)ぶっきらぼうで優しさよりも厳しさの方が見えるが、裏では啓斗より根は優しい。
その為、仲の良い人と関わっている所をクラスメイトに見られた時はあまりのギャップに驚かれた。隆人は啓斗の事を「自分ばかり崇拝してくるウザい奴」という印象を持っているようだ。ただ、完全に不仲な訳では無い。
「…区川隆人さん?名前だけは聞いた事あるけど…もしかしてその人が…」
「ああ。その人が啓斗さんの双子の兄らしい。本人が言ってた。」
「そ、そうなんですね。」
「啓斗さんは隆人さんの事が好き過ぎる。だからこそ隆人さんを嫌っている高一の生徒達を恨んでいるのだろう。」
「だけど…流石に何もしていない高一の生徒をキツく言うのは俺も良くないと思う。だから──」
「申し訳ないけど桧崎さん。啓斗さんに何もしていない人にキツく言うのは辞めてって言って欲しいな。」
武瑠は想いを伝えた。秀は少しだけ考えた。
「(…成程。やっと啓斗が嫌そうな顔を最近していた理由が分かった。)」
「…話してくれてありがとうございます!武瑠さん!」
そして啓斗の所に行くのを決めた。武瑠と立輝は嬉しそうだった。
「俺、ちょっと啓斗に言って来ます!」
「ありがとう。桧崎さん。ほら、立輝も桧崎さんとに感謝するんだぞ?」
「え〜?彼奴の事ちょっと心配だし僕もついて行こうっと。」
そう言うと立輝は秀の所へ走って行った。
「あ!立輝!」
「まあ、でも立輝だったとしてもサポートは出来るか。」
〜高二二組の教室〜
「お、おーい!啓斗ー!」
「(さて、秀に付いてきちゃったけど肝心の人は居なさそうだな。)」
「………」
「おーい!!!!」
「…秀。」
秀が大きな声を出すとやっと啓斗は秀の方向を見た。だが、彼は立輝が外にいるのを知らなかった。
「あ、あのさ啓斗!ちょっと今日はお前に言いたい事があるって言うか!」
「何だよ。」
「啓斗。──もう高一生徒にキツく言うのは辞めろ。」
「は?」
秀は武瑠の言葉を借りた。だが、啓斗は何処か納得していないようだった。
「…武瑠さんが言っていたんだ。流石に嫌がっている高一を虐めるのは良くないって。」
「…わたくしは別に虐めてない。兄を守っているだけだよ。」
「その兄の名は──」
「──区川隆人さんでしょ?」
「は?何でその名前を知って…」
秀は思わず考えるよりも先に言葉が出た。自分の双子の兄の名前を知っている秀に啓斗は驚きを隠せなかった。
「これも武瑠さんが言ってたんだ。『双子の兄の名前は区川隆人』って。」
「啓斗も聞いた事はあるでしょ?阿久津武瑠さんの事。」
「…!」
そう。啓斗にとって兄の次に尊敬する人、それが阿久津武瑠である。自分の憧れの人に言われていたのを知り、啓斗は後悔をした。
「(そんな…武瑠先輩が…?わたくしはその人を尊敬しているのに…あの人をガッカリさせた…?)」
「だからさ、武瑠さんが困るから高一にキツく言うのは辞めて欲しいんだ。」
「お願い。啓斗。」
秀の頼みに啓斗は断る事は出来なかった。
「ちっ。仕方ないな。これからは高一に酷い事はしない。」
「ただ…お前がわたくしの兄の事を馬鹿にした時は…分かっているだろうな?」
啓斗は申し訳なさそうな顔から一転、とても怖い顔に変わった。これには秀すらも恐ろしいと感じる程だった。
「わ、分かった。それは絶対にしないから!な!」
秀はそう言って教室を出て行った。
「良かったな!秀!」
「ああ!説得出来て本当に良かった!」
喜び合う二人。立輝も珍しく嬉しそうだった。
「…あのさ。立輝。聞きたい事があるんだけどさ。」
「ん?どうしたんだ?」
秀は雰囲気が変わった。少なくとも立輝にはそう見えていた。
「もしかしてこのアカウント名である"ikutir ustuka"ってさ立輝の事?」
皆さんこんにちは。小山シホです。さて急展開です。
啓斗の件が解決したかと思ったら…"ikutir ustuka"の正体を聞く秀…
ま、まあとにかく次は解説編です!分かりやすく解説できるように頑張ります!
第六話 次回予告
"ikutir ustuka"の正体は立輝だと言う秀。しかし、立輝は答えなかった。秀は恥ずかしがっているのかと言うが…