第4話「特異な噂と一瞬の安静」
『』は"ikutir ustuka"の歌の歌詞です。
「……三宮さん。ど、どうしたんだ?俺に聞きたい事なんて…」
秀は体の震えが止まらなかった。それは誰が見ても分かるレベルだった。
「あの、なんで一年の彼奴が桧崎先輩と仲良くしているんですか?」
「彼奴…?阿久津立輝の事か?」
「はい。」
「どうして彼奴が部活のエースと仲良くなっているのかなって思ったんです。」
「彼奴、そんなエースとかとは自分で関わらず、寧ろ避けて行くんですよ。」
秀は立輝がエースとかとは関わらない事なんて知っていた。だから、卓実が言っていた事をあまり真剣には聞いていなかった。
「そうだな。俺も知ってるぞ。初対面の時に逃げられたからな。」
「じゃあ、言いたい事言うんですけど。」
秀はドキッとしたが、「言うな」とは言える筈も無かった。
「立輝と関わるのは無害なのでまだ良いですけど、どうしてあの区川先輩と関わっているんですか?」
「もしも、これからずっと区川先輩と関わっていったら…桧崎先輩は歪んでしまうと思います。」
「だって彼奴にはそんな考え、思想がありますから。」
「……………よく知ってるな。」
秀は感激して卓実に言った。
「……オレのクラスメイト、区川先輩の裏の顔を見たと言ってました。」
「…どんな事してたって言ってた?」
「………立輝の事の悪口を言ってたそうです。後、ついでにオレの悪口も言われてたとも。」
「…ッ!」
秀は言葉が出なくなる。と、同時に啓斗は何をしてるんだとも思った。
「まあ、これは噂ばかり信じるクラスメイトの話ですからあまり気にするべきでは無いでしょう。」
「しかし、残念ながらオレは区川先輩の本性を高二の先輩達から聞いて来てしまっている。なので、今回の話が本当の可能性もあります。本当に僅かですけど。」
「ありがとう。三宮さん。教えてくれて。」
「別に良いですよ。まあ、一応言った方が良いと思っただけなので。」
「しかし、区川先輩はオレ達…特にオレのクラスメイトを嫌っています。もし、オレの話をする時、『卓実のクラスメイトが話していた』と言った言葉を使うと…桧崎先輩を殴るかもしれません。」
「だから、くれぐれも気をつけてください。」
「今回の話は噂ですから。」
「…ありがとう。三宮さん。」
秀はお礼を言ってその場を去って行った。
「……噂だったら良いけどあの人は違うかもな…」
〜授業中〜
〜Ⅱー2 教室にて〜
「おい。桧崎。此処の問題分かるか?」
「あ…え?えっと…」
秀は集中していなかったらしく、高二の簡単な問題ですら答えられなかった。
「すみません。秀は答えられないらしいのでわたくしが答えます。」
「答えは──「ウ」ですね。」
「正解。流石、区川だ。」
「凄いな!区川!この問題を解けるなんて!」
啓斗が答えた瞬間、教室は「流石!」という声が聞こえてきた。
「いえいえ、わたくしに掛かればこんな問題は余裕ですよ。」
「それに比べて秀は…いつもならこの問題だったら何とか解けるのに…今日は…」
が、一方で今日の秀に対する驚きの声も挙がっていた。
「確かに。少なくとも俺よりは頭良いからな。秀は。この問題だったら普通に解いてたしな。」
「なんか休み時間後の秀、あんまり…」
いつの間にか啓斗に対する声よりも秀に対する声の方がうるさくなっていた。
「おい。皆。桧崎の話はここまでだ。次行くぞ。」
しかし、先生が注意した為、騒がしさは消し去った。
「(………三宮さんの話…………)」
だが、秀はこの授業中は全く集中してなかった。
〜放課後〜
「はぁ…今日の授業、集中出来なかった。」
秀は今日の自分の授業の態度を思い出す。
数学の後も全く集中しておらず簡単な問題にも答えられなかった。
「(もう高二なのに…受験も近いのにな。俺…何やってんだろ。)」
「──おい。秀。」
秀が一人で悩んでいると啓斗が話しかけて来た。その言葉遣いは相変わらずだった。
「ど、どうした?啓斗?もしかして怒ってる?」
「いやそういう訳では無い。確かに午後のお前の授業の様子は先生からみても酷かったと思うが。」
「はぁ…怒ってないとはいえ、授業態度が悪いのは否定してくれないんだな…」
「ああ。誰も否定しないと思うぞ?お前の授業の悪さは。」
啓斗は授業で見せた態度とは真逆のキツめの態度を取るが無理も無かった。
「で、俺に話って何?」
「実は"ikutir ustuka"さんっていう人が『Itube』で音楽を投稿している。お前も見てみないか?」
『Itube』とは自分の好きな動画を投稿出来るサイト。ジャンルはバライティ、サブカルチャー、スレ、音楽など沢山ある。
「いくちあーる…うすつかさん?」
「その人が音楽を投稿しているんだが…結構その人の音楽のクオリティが凄いんだよ。…見るか?」
秀は何で成績の良い啓斗が音楽をわざわざ進めるのか分からなかったが、自分も音楽はまあまあ好きだったので啓斗が言っている人の音楽を聞こうと思った。
「まあ俺も音楽は好きだしな。聞くわ。」
「じゃあ行くぞ。"ikutir ustuka"さんの『日常』!」
──(イントロのギターの音)
啓斗が再生ボタンを押すといきなりギターの音が流れた。
「(…イントロはギターメインか。かっこいいな。)」
「来るぞ。秀。」
『いつも通りの毎日』
『何もせずに 未来に向かう』
「え?何?この歌の上手さ?」
秀は"ikutir ustuka"の歌の上手さに驚く。"ikutir ustuka"は一見、普通に見えるが声の強さを切り替えるのが上手い人である。
『"アイツには無理だろ"と舐めた 口ぶりも』
『僕の力で黙らせてやると』
「此処は少し強い感じ…解釈一致過ぎる…」
『決意した だから──!』
サビ前、ギターだけでは無く他の楽器も音楽を彩った。その音はまるでプロの人のように秀には聞こえた。
『僕は 自分の力で 走る』
『どれだけ 困難が待っていても』
『あの日 仲間と約束したから』
「(しかもサビになっても歌が上手いまま…いや寧ろ…もっと迫力が増してる!?)」
「(歌詞も何処か復讐心が見えるけど、仲間を想いやる優しさも見える気がする…)」
『例え その仲間とは』
『別れてしまったとしても 僕は──』
『約束を 果たすよ────!』
そうして一旦、曲のサビが終わった時点で啓斗が動画を停止した。
「どうだ?秀。"ikutir ustuka"さんは凄かっただろ?」
「あ、ああ。確かにな。」
「(そう言えば、三宮さんが言ってた噂って本当なんだろうか……ま、まあ今は良いか!後からにしよう!)」
「俺、"ikutir ustuka"さんの事気になってるかも!」
「それだったらその人にコメントしたらどうだ?"ikutir ustuka"さんはコメント欄を開いていた筈だぞ。」
「やったー!嬉しい!」
秀はこれまでに無い程に喜んだ。すると──
「──ところで秀。実は何か言いたい事あるんじゃないか?」
「!?」
秀はドキッとした。まさか噂の事について言いたい事がバレていたのかと思ってしまった。それ故なのか、秀の体は震え出した。
「おい…なんで分かったんだよ。」
「それか?…高一がわたくしの噂を話していたからだよ。」
「もっとも三宮では無かったがな。」
「…はは。そうだよ。俺が考えていたのはお前の噂だよ。良いよ。全部考えてた事言う。」
秀はまるで開き直ったかの様な言い方をした。
「実は昼休みに三宮さんからお前の噂を聞いたんだ。」
「その噂の内容は──」
「『区川先輩が高一の生徒を恨んでいる』…と言うものだ。」
「……」
「さ、流石に高一の生徒全員を恨んでるって事は無いよな!だって高一生徒は優秀な人も居るし!」
すると、啓斗は不敵な笑みを浮かべた。
「──半分正解、半分不正解って感じだな。」
「…それはどう言う事だ?」
「まず流石に高一生徒全員は恨んでいない。……だが」
「一部の高一生徒は恨んでいる。これは何ら間違っていない。」
「…じゃ、じゃあさどうして恨んでいるんだよ。一部の人達を。別に理由無かったら恨む必要も無いだろ。」
秀は妙に焦ってしまい言葉が強くなった。
「──わたくしの双子の兄を馬鹿にしたからだよ。」
「噂の真理は以上だ。もうわたくしは家に帰る必要があるからな。お前と違って。それじゃあまた明日。」
そう言った啓斗は廊下を走っていった。秀は一瞬の出来事を何とか理解出来るように考えたが、結局理解は出来なかった。
「(……啓斗の双子の兄…?)」
皆さんこんにちは。小山シホです。さて今回は中々文字数が多かったと思います。
啓斗の噂…それを聞いて困惑する秀、そしてその噂を伝えた卓実…まだ知らない立輝…
そして謎のアカウント"ikutir ustuka"…
物語はこれからどうなるでしょうか。
次回予告
啓斗がそんな奴だったのかと思った秀。上の空だった彼を見つけたのは立輝の兄、武瑠と立輝本人だった。秀は啓斗の事を話して生徒達の安全を確保しようと言い出すが──。