「子供と魔獣」の子供と魔獣視点
【美味しいご飯 フェリシア視点】
前は、ママが美味しいご飯を作ってくれた。
ママのご飯は、いつだってとっても美味しかった。
三歳のお誕生日は、ママがごちそうをいっぱい作ってくれた。
スゴくスゴく美味しくて、お腹いっぱい食べた。
「無能力の子」だって分かってから、狭くて暗いところに閉じ込められた。
それからは、ママは美味しいご飯を、食べさせてくれなくなった。
美味しくないものしか、もらえなかった。
野菜の皮とか、変な臭いがするお肉とか、変なものばっかり。
冷たくて硬くて臭くて、どれもみんな美味しくなかった。
でも、おなかがすいて、それしか食べるものがなくて、ガマンして食べた。
それも、ちょっとしかもらえなかった。
あと、バケツいっぱいのお水。
いつも、おなかがすいていた。
お水をたくさん飲んで、おなかをいっぱいにした。
時々、おなかが痛くなって、気持ち悪くなった。
ず~っとず~っと、暗いところから出してもらえなかった。
それからどれくらい、暗いところにいたのか。
ママとパパが、外へ出してくれた。
外は、とっても明るかった。
でも、色が見えなかった。
白と黒しか、色が見えなくなっていた。
きっと真っ暗なところにずっといたから、色が見えなくなっちゃったんだ。
何か悪いことをしたから、閉じ込められたんだと思って、たくさん「ごめんなさい」って言った。
でも、ママとパパは許してくれなかった。
わたしが悪い子だから、許してくれないんだ。
良い子じゃないから、許してくれないんだ。
わたしは良い子じゃないから、「奇跡の力」が使えないんだ。
それから、教会へ連れて行かれて、そこに置いて行かれた。
「もう二度と、家へ帰ってくるな」って、パパに怒られた。
わたしは、ママとパパから捨てられたんだ。
教会には、神父さんやシスターさん、子供がたくさんいたけど。
みんな、わたしに優しくしてくれなかった。
「無能力の子は、出て行け」って、追い出された。
入り口で通せんぼされて、ご飯も食べさせてもらえなかった。
教会の裏に置いてあったゴミ箱から、食べられそうなものを拾って食べた。
喉が渇いたら、水たまりのお水を飲んだ。
水たまりのお水は、美味しくなかった。
いつもお腹が空いていて、誰も優しくしてくれなくて、ずっと寂しかった。
お姉さんが、ご飯を作ってくれた。
匂いを嗅いでも、美味しそうな匂いしかしない。
あったかくて美味しそうなご飯は、いつ振りかな。
お姉さんが作ってくれたご飯は、とっても美味しかった。
美味しいものが食べられたのが、スゴく嬉しい。
「こんな、おぃちぃまんま、初めて食べたっ!」
そう言ったら、お姉さんから笑顔が消えた。
あれ? 何か悪いこと、言っちゃったのかな。
「あ、お姉しゃん? あの、えっと、わたし……」
「……初めて?」
真剣な顔をして、お姉さんが聞いてきたので、ひとつ頷く。
「うん。あのね、こんなにあったかくて、おぃちぃの、初めて食べたの」
「お前、今まで、何食べてたのよ?」
「うんとね、えっとね、ゴミ箱かりゃね、ばっちぃまんま拾ってね、もぐもぐしてたの」
「は? なんて?」
「なんもなかったらね、水たまりのお水いっぱいごくごくしてね、ぽんぽん(お腹)いっぱいにするの。そんでね、たまにね、ぽんぽんいたいいたいなったよ」
「何それ……」
それって、いけないことだったのかな?
お姉さんは、黙って顔を大きくゆがめた。
そうか! ゴミを食べるって、悪いことだったんだっ!
わたしは、慌てて謝る。
「ごめんなしゃいごめんなしゃい! ばっちぃまんま、もぐもぐしちゃいけにゃいの、知りゃにゃかったのっ!」
「もういいっ!」
お姉さんは大きな声で言うと、わたしをぎゅうって強く抱っこしてくれた。
抱っこは、あったかくて、気持ち良くて嬉しい。
抱っこが嬉しくて、お姉さんに顔をすり寄せた。
でも、なんで抱っこしたのかな。
「お姉しゃん?」
「もう二度と、ゴミなんて食わなくていい! 水たまりなんて、飲まなくていい! あったかくて美味しいもの、私が腹いっぱい食べさせてあげるからっ!」
「いいの? おぃちいの、食べていいの?」
「もちろん! 約束するっ!」
「やったぁっ!」
お姉さんが優しく笑って、頭を撫でてくれた。
そしたら急に、色が見えた。
色んなものに色が付いて、ビックリした。
わたしが驚いていると、お姉さんが不思議そうに声を掛けてくる。
「ん? どうしたのよ?」
「あのね、色が見えりゅの」
「色?」
「あのね、ずっとね、真っ暗なとこにいたかりゃね、色がね、見えなくなっちゃったの。でもね、今はね、ちゃんと色が見えるの! また見えるようになって、嬉ちぃっ!」
色が見えたことが、すっごく嬉しい。
きっとお姉さんが、色を見えるようにしてくれたんだ。
お姉さんは、病気を治す「奇跡の力」が使えるんだ。
お姉さんって、スゴいっ!
わたしは嬉しくて笑いながら、お姉さんの目を見つめる。
「お姉しゃんのおめめって、綺麗な赤色だったんだねっ!」
【わんわん エド視点】
気が付いたら、見知らぬ場所にいた。
薄暗い場所で、ひとりぼっち。
いくら見渡しても、誰もいない。
ここは、どこ?
ママは、どこ?
おなかすいた。
ひとりぼっちは、寂しい。
体に力が入らなくて、ろくに動くことも出来ない。
出来ることといったら、鳴くことだけ。
助けを求めて、ひたすら鳴き続けた。
「わんわんだ!」
突然、大きな音が聞こえて、ビクンッと体が跳ねるぐらい驚いた。
おれに、大きな影が落ちた。
見上げると、大きな生き物がいた。
なんだ、コイツ?
初めて見る生き物。
青くて大きな目が、綺麗で吸い込まれそう。
おれはとても寂しくて、なんでもいいからすがりたくて、青い目にひしと抱き着いた。
そしたら、向こうも顔をすり付けてくる。
「わぁ、可愛い、わんわんっ!」
「コイツはワンコじゃなくて、魔獣の仔子(子供)よ。どっから拾ってきたのよ? それ」
赤い目が、青い目に言った。
すると青い目が、おれのいた場所を指差す。
「ここ」
「そこ? 近くに、親や兄弟はいなかったの?」
「ううん。この子だけ」
「ふぅん? 親と、はぐれたの? それとも、お前も、親から捨てられたの?」
赤い目が楽しそうに、指で「うりゃうりゃ」と、おれの鼻をつついてくる。
つつかれるのがイヤで、キュンキュン鳴く。
噛んでやろうと、口を開けたところで、あっさり避けられた……残念。
青い目が怒って、赤い目からおれを離してくれた。
「お姉しゃん! わんわんイジメちゃめっ!」
「はいはい、ごめんて」
青い目が、おれをじっと見つめてくる。
「わんわんも、捨てられたの?」
捨てられた?
分からない。
気付いたら、ここにいたんだ。
青い目が、優しく撫でてくれる。
撫でられると、気持ち好い。
青い目は良い匂いがして、なんだかスゴく安心する。
心細さや寂しさは、いつしか消えていた。
そっか、おれ、コイツが大好きなんだ。
「きゃ~っ、くしゅぐった~いっ!」
青い目の顔をペロペロ舐めると、喜んでくれた。
コイツが喜ぶと、なんだかおれも嬉しい。
青い目が首を傾げて、赤い目に向かっておねだりする。
「ねぇ、お姉しゃん、このわんわん、拾っちゃメ?」
「お前も拾われた分際で、何言ってんの? 拾って、お前にワンコ育てられんの?」
「……ごめんしゃぃ」
青い目はしょぼんとして、おれを地面に下ろす。
イヤだ、ひとりぼっちになりたくない!
寂しい思いは、もうごめんだっ!
ずっと、お前の側にいるっ!
おれは青い目の足に、しっかりとしがみついた。
「メだよ、わんわん。ママのところへお帰り」
「くーんくーん……」
そんなおれを見て、赤い目が深々と息を吐く。
「あのね、私は『飼っちゃダメ』なんて、ひとことも言ってねぇべや。『育てられんの?』って、聞いたのよ。ちゃんとお世話出来るんなら、飼って良いわよ」
「え? 良いの?」
青い目が、キョトンとする。
赤い目は、青い目とおれの頭を優しく撫でる。
「いい? このワンコだけだからね? 次、拾ってきても飼えないからね?」
「やったぁ! あぃがとぅ、お姉しゃんっ!」
青い目は大喜びで、おれを抱き寄せた。
なんだか分からないけど、青い目と離れなくて良くなったらしい。
「わんわん! これからよろしくねっ!」
青い目が、喜んでいる。
おれも嬉しくなって、「わんっ」とひと鳴きし、しっぽをブンブン振った。
少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。
不快なお気持ちになられましたら、申し訳ございません。