無能力の子の幸せ
ここまでお付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。
お姉さんは、真っ黒な木を何本も何本も、切り倒している。
真っ黒な木は、病気になっちゃった木なんだって。
そのまま放って置くと、周りの木にも、病気がうつっちゃうんだって。
だから、病気がうつらないように、病気の木を切って、離さなきゃいけないんだって。
この病気は木とか草にしか、うつらないから、わたしたちは触っても大丈夫なんだって。
病気の木はたくさんあるから、「お手伝いしたい」って、言ったんだけど。
「ちょっと、それはムリじゃない? まぁ、試しに、それ持ってみ? 絶対、持ち上がんないから」
お姉さんはそう言って、困った顔で笑った。
さっきお姉さんが切ったばっかりの木が、地面に置いてある。
言われた通り、木を持ってみようとしたんだけど、スゴく重かった。
どんなに頑張っても、全然持ち上がらなかった。
お姉さんは、太い木をヒョイヒョイ持ち上げてるのに。
お姉さんは、スゴい力持ちさんだなぁ。
お手伝いしたかったのに、残念。
お姉さんのお仕事を見ていたら、お姉さんが細い枝を一本くれた。
「ほら、ワンコが遊んで欲しそうにしてるわよ。棒あげるから、遊んでやれや」
言われて見れば、エドがわたしを見上げて、嬉しそうにしっぽを振り振りしている。
エドって、いつも元気いっぱいなんだよね。
ボールとか棒とか投げて、それを持ってくる遊びが大好きなの。
今も投げて欲しそうに、棒をじっと見つめている。
「もぉぉぉ~、しょうがないでしゅね~。ほーら、エド、取っておいで~っ」
棒を投げると、嬉しそうに「わんわん」鳴きながら、飛んでいく棒を追い掛けていく。
棒を咥えると、走って戻って来る。
戻ってきたら、いっぱい撫でて、たくさん褒めてあげるの。
「エラいエラい、ちゃんと取ってこれたね。エド、良い子良い子」
褒めるとね、エドが喜んで、しっぽをブンブン振るの。
それが、めっちゃ可愛いんだよ。
誰だって、褒められたら嬉しいもんね。
わたしも、お姉さんから褒められたら、嬉しいもん。
だからね、エドも良いことしたら、いっぱい褒めてあげるの。
良い子にしたら、褒めてもらえる。
わたしもエドみたいに、いっぱい褒めてもらえるように、良い子にならなくちゃ。
「やれやれ……だいぶ片付いてきたし、そろそろ、結界を張り直そうかしらね」
「『けっきゃい』って、なぁに?」
「『対人結界』っつってね。分かりやすく言うと……」
お姉さんは拾った棒で、地面に絵を描き始める。
まず、モジャモジャしたもの描いて、クルリと丸で囲む。
「モジャモジャが、この森な。そんで、丸が結界とする」
棒人間が丸の中に入ってくると、丸がグニャグニャした線になる。
丸からグニャグニャの線が伸びて、森の中にいた棒人間にくっつく。
「このモジャモジャが、うちらが今いる森ね。そんで、この〇が結界。結界に人間が入って来ると、結界が『人間が来たよ』って、教えてくれるのよ」
「へぇ~、そうにゃんだ? 結界しゃんって、しゅごいね」
わたしが驚くと、お姉さんがにっこりと微笑む。
「フェリシアが、初めて森に入って来た時も、結界が『フェリシアが来たよ』って、教えてくれたのよ」
「結界しゃんが教えてくれたから、お姉しゃん、会いに来てくれたの?」
「そうよ。でも、困ったことに、今はその結界が壊れちゃってるんだわ。直さないと、なんも教えてくれないのよね」
もし、結界がなかったら、お姉さんと会えなかった。
お姉さんが来てくれなかったら、わたしはきっと死んでいた。
そんな大事な物が、壊れているなんてっ!
「お姉しゃんは、結界しゃんを直しぇるの?」
「私なら、直せるわよ。したっけ(じゃあ)、フェリシアも結界直すお手伝いしささってくれる?」
「うん! お手伝いしゅるっ!」
「そう、良い子ね」
元気に手を上げると、お姉さんは頭を撫でて、褒めてくれた。
大好きなお姉さんに褒められると、とっても嬉しい。
もっといっぱい褒めてもらえるように、もっと良い子になりたい。
お姉さんのおうちは、燃えてなくなっちゃった。
だから、お姉さんとお兄さんが、切り倒した木をたくさん使って、新しいおうちを作った。
「ここが、うちらの新しいおうちよ」
「新しいおうち?」
「そうだぜ。今日から、俺もフェリシアもエドもアリーもみんなで一緒に、ずぅっとこの家に住むんだぞ」
お兄さんが嬉しそうに笑って、わたしを抱っこして、高い高いしてくれた。
わたしも嬉しくて、にっこり笑う。
「みんなと一緒、嬉ちぃっ!」
「俺も、フェリシアとずっと一緒で、嬉しいよっ!」
エドも、お兄さんの足元で「わんわんっ!」って、嬉しそうにしっぽを振り振りしている。
お姉さんもお兄さんもエドも、みんなとっても嬉しそう。
みんなが嬉しいと、わたしも嬉しい。
それから、わたしたちは森の中で仲良く暮らした。
わたしたちはいつも四人一緒で、おさんぽしたり、木の実を集めたり、結界さんを直すお手伝いをしたり、お歌を唄ったりして、遊んだ。
お兄さんとお姉さんは、いっぱい抱っこしてくれて、いっぱい撫でてくれて、美味しいご飯を食べさせてくれた。
悲しいことや苦しいことは、ちっともなかった。
いつしか、パパとママのことを思い出すことが少なくなっていった。
優しかった頃のパパとママの笑顔も、思い出せない。
あんなに、大好きだったはずなのに。
ごめんね、パパ、ママ。
でも、パパとママも、わたしのことが嫌いだから、わたしとは会いたくないよね。
もう二度と、パパとママのおうちには戻らないからね。
わたしには、お兄さんとお姉さんとエドがいるから、もう大丈夫。
お兄さんとお姉さんは、ずっと前から、わたしが「無能力の子」だって知ってたんだって。
それでも、「フェリシアが、大好きだよ」って、言ってくれたの。
そんなこと、初めて言われたから、スゴくビックリした。
初めて、「奇跡の力」を持っていないことを許してもらえて、嬉しかった。
だから、パパとママよりも、お兄さんとお姉さんの方がいっぱい好き。
わたしは今、とっても幸せだよ。
パパとママも、「無能力の子」なんて忘れて、幸せになってね。
最後までお読み下さいまして、心より厚く御礼申し上げます。
少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。




