3)女の武器
近々ローズを救出することになる。ローズのために南へ来て欲しいという連絡に、サンドラは迷うこと無く馬車に乗ることを選び、フレデリックを慌てさせた。
馬車に乗り王都を離れ、そろそろ目的地に到着する頃になり、フレデリックがいつになく神妙な顔をして、サンドラに打ち明けた。
「絶対にグレース様のお耳に入れるわけにはいかないから、秘密にしていたんだ。今ならグレース様のお耳に入ることもない。色々と、サンドラも知っておいたほうが良いだろうから」
その時に聞かされてはいた。だが、サンドラはローズと再会した時、声を聴くまでローズと一緒にいた背の高い男が、ロバートだとはわからなかった。
髪はほとんど白くなり、頬が痩け、濃い隈が目立つ顔は、別人のようだった。鋭さが目立つようになった瞳の色だけ同じだった。サンドラの夫フレデリックと年齢はさほど変わらないというのに、短期間で数年以上歳を重ねた様に見えた。それこそ、ロバートの親族の誰かだといわれたほうが、納得できた。
抱きしめたローズが痩せていて、溢れそうになった涙を堪えるのに必死になったから、サンドラの動揺は誰にも悟られなかったと思う。
ローズとロバートに、ようやく訪れた穏やかな時間だ。
「少なくとも二匹、気の利かないお邪魔虫を足止めしないと、女がすたるってなもんよ」
サンドラは背筋を伸ばし、微笑みを顔に貼り付けた。お手本はグレースだ。
途中すれ違ったシスターに、サンドラは、できるだけ恭しく、でっち上げた聖女様のお言葉を伝えた。
「聖女様はお休みになるそうです。私は聖女様より何人たりとも絶対に部屋に入れないようにと、直接お言葉を賜りました。聖女様は、明日、司祭様へ正式に御挨拶をなさる御予定です。今晩は、聖女様が幼い頃からお仕えしていた私がお世話いたします。私は今から、聖女様のお言葉を司祭様にお伝えする予定です。どうかそれまで、聖女様のお部屋の見張りをお願いできますでしょうか」
「かしこまりました」
快く引き受けてくれたシスターに、グレースを真似て、鷹揚に礼を言ったサンドラは、食堂へと足を向けた。グレースのように美しく優雅に一歩ずつ足を進める。
サンドラの敵は、救出されたばかりの可愛いローズに休憩も無しに慰問しろと言いかねない司祭と、宝物を取り返したばかりのロバートに仕事の話をしかねない無粋なフレデリックだ。
「よいですか、サンドラ。人は他人を外見で判断します。上品に丁寧に振る舞えば、あなたの美貌です。良い家のご令嬢として十分に通用します。知性と美貌と優雅さは女性の武器です。どうかサンドラ、王都に残る私のかわりに、ローズを守ってあげてね」
別れ際のグレースの言葉は、今もサンドラの心を照らしてくれている。
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人がすなるえつせいといふものを我もしてみむとしてするなり
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ある日思いついた短編達
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