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置いてけぼりの異世界ハンドメイド  作者: 借屍還魂


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成果と課題

 桐野さんが滞在している宿屋は、何と、私が城を出たばかりの頃に滞在していた宿屋だったのだ。入り口で女将さんに挨拶と共に簡単に近況報告をしてから、桐野さんの部屋を教えてもらう。

「……この部屋の筈だけど」

 教えて貰った部屋の前で、扉に書かれている番号を確認する。このフロアは比較的身分の高い人が利用することが多いので、番号を間違えると不審者扱いをされるかもしれないのである。

「桐野さん、いらっしゃいますか?ご注文の品について確認に参りました、類家です」

 ノックをして、中に向かってそう問いかける。すると、中から何度か物音がした後、此方に足音が向かってきた。慌てているのか、少し乱雑に鍵を開ける音がして、扉が開く。

「ごめんなさい、ちょっと、寝ていたもので」

 そういう桐野さんの髪は、注文を受けた時とは違って纏められていない。先程の物音は最低限の身だしなみを整えるときに発生したものなのだろう。

「いえ、大丈夫です。商品の試作品を持って来ましたので、中に入れて頂けないでしょうか?」

「勿論です。どうぞ」

 部屋に入ると、私はすぐに商品を取り出し、机の上に置いた。挨拶をする時間すらも惜しいだろう、と判断したからだ。その判断は間違っていなかったようで、桐野さんはすぐに席に着き、私が置いた商品をじっと見つめた。

「イヤーカフ、ですか?」

「はい。何故イヤーカフにしたのか、等の説明は今からさせていただきます」

 にこり、と笑顔を浮かべて、私は説明を始めた。まずは、使用した物について。フィンリー鉱石の特徴と、ワイヤーの魔法付与で通信が円滑に行える可能性が高いこと。また、一方向の通信しかできない為、改良が必要なことを包み隠さず伝える。

「戦闘となれば音を聞き取ることは難しくなると思います。ですので、できる限り耳に鉱石が密着する形という事でイヤーカフにしました」

 そこから使い方の説明をする。持ってきたフィンリー鉱石には魔力を込めていないので、桐野さんにお願いしたいこと、どれだけ魔力を消費するのかわからないので、無理だと思ったらすぐに中断してほしい事を伝えると、桐野さんは悩む様子もなく頷いた。

「大丈夫ですか?魔力切れになりそうでしたら、直ぐに中断してくださいね?」

「これでも魔法職ですから、魔力には自信があります」

 そう言うと、桐野さんは置いてあった二つのイヤーカフを手に取り、魔力を流し始めた。なんとなくだが、魔力の流れ、というものがわかった気がする。魔力を込め終わると、桐野さんは片方を自分の耳に着けながら、もう一つを私に差し出した。

「試すといってもこの部屋から出るわけにもいきませんので、類家さんはこの部屋で待っていてもらってもいいですか?」

「わかりました」

 桐野さんはお互いの声が直接聞こえないようにと、奥の方の部屋へと移動した。私は耳にイヤーカフを付け、桐野さんから音が送られてくるのをじっと待つ。すると、桐野さんがもう片方の石に魔力を流し始めたのか、ざざ、とノイズが聞こえてきた。

『き、こ、え、ま、す、か』

 音と音の間にかなりの間が開くが、はっきりと聞こえた。よし、と頷いていると、今度は先程より少し間を詰めて、聞こえますか、と音がした。どこまで音の間隔を短縮できるのかを試したいのだろう。

『日本の国鳥は何でしょう?』

 予想できる言葉だった場合は、きちんと聞き取れなくても話した内容が分かる可能性を潰す為なのか、桐野さんは最後に問題を出してきた。予想外の発言に戸惑ったものの、音自体は聞こえてきている。答えは何だったか、と考えていると、奥の部屋の扉が開き、桐野さんが私の方に向かってきた。

「答え、わかりましたか?」

「えっと、問題は、日本の国鳥は何でしょう、ですよね」

 普通、国旗とか国花とは、もう少し分かりやすい問題にすると思うのだが、意表を突くことで正確に音が聞こえているのか判断する作戦だったのだろう。

「はい。聞こえていたようで良かったです」

「…………雉、でしたよね?」

 聞こえていたが、答えに自信が無い。桃太郎の話に出てくるから雉、だった気がする。私が答えると、桐野さんはにっこりと笑った。

「正解です」

「良かったです。魔力の消耗は問題ありませんか?」

「はい。このまま、次は距離を伸ばして通信できるか試したいくらいです」

 魔法付与によって魔力の消費量が増えることを危惧していたのだが、桐野さんは全く平気そうだ。他のメンバーが使っても問題ない程度の消費量しかない、とお墨付きを頂いたので、今度は客室の端と端まで移動して通信ができるのかを試す。

「……問題、なさそうですね」

「そうですね」

 結果、宿屋の部屋の中なら何処にいても通じることが分かった。実際に使用する洞窟は広いのでまた試す必要はあるが、最初の試作品にしては良い出来だと言えるだろう。

「問題は、この通信が、完全に一方的なものだという事だけですね」

「そう、ですね」

 一方向にしか音が伝えられない、という素材の限界を超えることはできるのか。それが問題である。


次回更新は5月17日17時予定です。

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