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ワイヤーラッピング

 宣言通り森から出るまでの間に採取を終えた魔導士様は、私を店の近くまで送ってくださった。お礼にカフェでお茶でも、と思ったのだが、素材採取はあくまで業務の一環だからすぐに研究所に戻る、と断られた。

「さて、私は注文の商品を作らないと」

 ジュディさんに帰ってきたことを伝えてから、部屋に戻る。鞄などを片付けたら早速工房に入り、机に座って考える。内容は当然、採取してきた物を使って、どうやって通信を可能にするか、である。フィンリー鉱石は多めに取ってきたので失敗を気にせず使える。

「まずは、イヤーアクセサリーにできるくらいに、フィンリー鉱石を小さくしないと」

 採取してきたフィンリー鉱石の結晶は、円の直径が4センチはありそうだ。アクセサリーに使うなら、大きくても直径6ミリから8ミリくらいには収めたい。結晶を一つ取り出して、別の袋に入れ、それを机の上に置く。しっかりと袋が閉じていることを確認してから、ハンマーを振り上げる。

「結構勢いよくやったつもりだったけど、思ったより小さくならなかった……」

 ガン、とかなり良い音が鳴ったのだが、結晶は7つに分割されたものの、一つ当たりの欠片はまだまだ大きい。変に割れたら嫌なので、その中から一つだけ結晶を取り出して、別の袋に入れ、叩く。

「…………手が疲れてきた」

 その作業を何度か繰り返し、ようやく直径4ミリ程度の、アクセサリーに使うのにちょうどいいサイズになった。円柱っぽい形だったが、横方向からも軽く叩くと最終的には真ん丸な形になった。不思議である。

「これで作るとしたら……、イヤーカフ」

 穴のない石とワイヤー、完璧な組み合わせである。イヤーカフの部分はC型リングの作り方と殆ど同じで、前と違うのはワイヤーでフィンリー鉱石を固定するだけである。

「真ん丸になった分、ちょっと固定しにくいかも……」

 まず、ワイヤーで小さめの円を作る。この円に石が嵌るようにして、そこから石の側面に沿うようにワイヤーを巻き付けていく。今回は試作品なので、ワイヤーで特に飾りを作ることはせずに固定だけする。

「固定したら後はイヤーカフ部分を作るだけ……」

 後は耳の形に合うように緩やかなカーブを付けて、今回は反対側に石を付けないので端を処理する。同じものをもう一つ作ったら、試作品第一号が完成である。一応、壁面を見て確認をしたところ、きちんと魔法付与は出来ているようだ。

「問題は、どうやって試すのか、だよね」

 フィンリー鉱石は、使用者の魔力を最初に流さないといけない。受信側に魔力は必要ないが、魔法付与のことを知らない人に協力を頼むことはできない。すると、頼める人物はかなり限られてくる。

「……打ち合わせのことも考えると、桐野さんに頼むか」

それに、大して魔力を消費しないとは言っていたが、魔法付与をしたことで消費量に影響が出ている可能性もある。実際に使用する人たちに試して貰った方が確実だろう。

「宿屋の住所、教えて貰っておいたはず」

 何処にしまっただろうか。個人情報なので、カウンターの鍵付きの引き出しに入れた気がする。取り敢えず店の方に移動しよう、と、工房の扉を開け、自室に戻った瞬間だった。カチャ、と軽い音がして、自室のドアが開いたのだ。

「あ、アユム!!」

 隙間から顔を出したのはトッド君だ。工房から出てきた瞬間が見られただろうか。いや、トッド君の身長で扉を開けようと思ったら、両手を伸ばさないとドアノブに届かない。扉を完全に開けないと中の様子は見えないはずだ。

「……トッド君、どうしたの?」

「さっき、アユムかえってきたってきいたから、さがしてた」

「そっか」

 できる限り落ち着いて問いかけると、トッド君は笑顔を浮かべて答えた。何か不審に思っているような様子はない。大丈夫そうだな、とほっと息を吐き、ドアの方に近付く。

「アユム、あそぼ」

 トッド君が私の手を片方掴んで、ぐい、と引っ張る。今から出掛けるので手を引かれるまま階段に向かうが、残念ながら遊ぶことはできない。

「ごめんね、今から少し、出掛けないと行けなくて」

「さっきかえってきたのに?」

「うん」

 ぷう、と頬を膨らませてトッド君は不機嫌そうな顔をした。もう一度謝ると、トッド君はとても不機嫌な表情なのは変わらなかったが、二階まで降りたところでわたしの手を放した。

「おしごとだったから、さっき、へんじしてくれなかったの?」

「え?」

「へやにはいるまえ、アユム、ってよんだけど、へんじなかったもん」

「……ごめんね、作業に集中してて」

「いーよ。でも、またこんどあそんでね」

 そう言って、トッド君は自分の部屋へと走っていった。私はそれを見送ってから、一階へと続く階段を降り始める。一段一段下りながら、ゆっくり呼吸を整える。

「…………もっと気を付けないと」

 空間スキルをバレないように使うには、どうすればいいか。そんなことを考えながら、桐野さんが滞在している宿屋へと向かうのだった。


次回更新は5月16日17時予定です。

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