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緑の視線

 魔導士様のお陰で、フィンリー鉱石をすぐに見つけることができたので、太陽が真上を過ぎるより前に私の採取は終わった。

「今から戻れば、遅いお昼と言えなくもない時間かな……」

 一応、携帯食料は持ってきてはいる。が、魔法で加工してあり、開封しない限り長期間保存できる食料を、必要に駆られていないのに食べるのは勿体なく感じる。少しお腹が空くかもしれないけど、帰ろうかな、と思った時だった。

「ルイーエ嬢、採取の方は」

「終わりました。ありがとうございます」

 採取に一区切りついたのか、魔導士様が私の側まで戻ってきて、進捗を確認してきた。私の方は終わったが、魔導士様の背負っている籠はまだ半分程度しか物が入っていない。

「魔導士様はまだ頼まれたものがあるのですか?」

「もう後2、3種類と言ったところだが、緊急のものでは無い。ルイーエ嬢が森から出るのなら、店まで送り届けるが」

 私のために採取を中断させるのは気が引ける。来る途中、何もなかったのだ。帰り道だって大丈夫、と言い聞かせれば一人で帰れるはずだ、きっと。

「いえ、魔導士様はご自分の採取をして下さい。私は大丈夫ですので……」

 そう言った瞬間、茂みが揺れ、小さな唸り声が聞こえた。魔導士様が茂みに向かって軽く手を振ると、キャン、と甲高い鳴き声をあげて遠ざかっていったようだ。

「……魔法の素材を採取したなら、帰り道の方が危険だが」

 獣除けは、持ってきている。しかし、先程近くまで獣が来ていたこと、帰り道は更に危険、と言われると、心が折れそうである。

「…………魔導士様の採取を優先してください」

 が、此処で折れるわけにはいかない。心を強く持って答えると、魔導士様は手で顔を覆った。はぁ、と深いため息の後、魔導士様は私の隣に移動して来て、座り込んだ。

「昼食にしよう」

「え?」

「食べたら、行きとは違う道で戻る。道中に残りの素材も見つかる」

 言いながら、魔導士様は懐から小さな袋を取り出した。その中からパンや水筒が出ていたので、私は目を丸くした。

「……大きさ、おかしくないですか?」

 思わず、そんな言葉が口から出た。断る言葉を口にしなかったからか、魔導士様は私に座るように促し、次々と食料を出し始めた。諦めて昼食を一緒に摂って、送ってもらった方がよさそうだ。

「物体を縮小する魔法と、保存するための魔法が組み込まれている袋だ」

 サイドイッチを手渡されたので受け取る。魔導士様がそのまま食べ始めたので、お礼を言って私も一口食べる。挟んであるレタスとトマトが美味しい。

「袋の中の空間が広いわけではなく、入ったものが小さくなるのですね……」

「空間自体に作用する魔法は、使える者が殆どいないからな」

 驚きで、食べ物を喉に詰まらせるところだった。魔導士様は大丈夫か、と水を差し出してくれた。口を付けないように一口だけもらうと、少し落ち着いたので深呼吸をする。

「空間魔法は魔法自体が複雑で、豊富な知識と高度な技術、膨大な魔力を必要とする。既存の空間を変質、つまり、空間拡張や圧縮をすることができるのはこの国でも屈指の魔法使いだけだ」

 そのため、別の魔法を組み合わせて代用しているらしい。が、私が驚いたのは、組み合わせる技術ではなく、空間に関する魔法を使える者は希少、という発言だ。

「では、空間自体を作成できる程となると……」

「聖女並みでないと難しいだろうな。現在、空間に関する魔法を扱えるのは聖女やその仲間の血を引く者だけだ」

 空間スキルはやはり特殊ということだ。絶対に知られないようしなくては。少し考えていると、魔導士様は次のサンドイッチを手渡してきた。そこまでお腹が空いているわけではないが、まだ沢山あるようなので有り難く頂くことにする。

「適当に作ってみたが、味はどうだ?」

「これ、魔導士様が作られたのですか?」

「手順を守って作ることには慣れているからな。とはいえ、初めて作ったので自信はない。食べれる味だとは思うが」

「美味しいです。特に、野菜が新鮮で」

 話題が変わり、内心ほっとしながら感想を述べる。すると、魔導士様は柔らかい声でそうか、と答えた後、3つ目のサンドイッチを取った。

「それは、調理の腕前でなく、魔法の腕前だな」

「あ、すみません」

「魔法使いとして光栄なことだ」

 そのまま、ぽつぽつと話をしていると沢山あったサンドイッチはあっという間に無くなった。殆どは魔導士様が食べたが、私もいつもより多めに食べた気がする。

「戻ろう、ルイーエ嬢」

「はい」

 片付けを終えた魔導士様に手を差し出される。その手を取ると、先程よりも植物が鬱蒼とする道へと歩き始める。

「少し後ろを歩くといい。枝が当たることもないだろう」

「ありがとうございます」

「その鉱石を使った商品が完成したら、見せてほしい」

「はい、勿論です」

 道は、来た時よりも恐ろしい。だが、来た時よりも少しだけ魔導士様との距離が近付いたからか、恐怖心は薄れたように感じたのだった。

次回更新は5月15日17時予定です。

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