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森の奥へ

 薬屋さんで獣除けと傷薬を買い、そこから森に向かう。店を開く前なら、門番に名乗った時点で不審人物として報告されていたかもしれないが、今となっては街の中でも店の名前が売れ、そこの店主だと言えば簡単に通して貰えた。

「王都からは一直線だから、迷う心配もなかったな……」

森に到着したころには、日も昇り人もちらほらと見かけられた。私は入り口で立ち止まり、リュックサックの中に入れておいた一枚の紙を取り出す。フィンリー鉱石の特徴と、森の簡単な地図を描いてある紙だ。

「…………フィンリー鉱石は、森の中央、陽の当らない辺りにあることが多い、か」

 此処の森は、魔力によって保たれている森らしい。森の中心部にある大きな石に魔力があり、その石を中心として森が広がっている。その為、中心に行けば行くほど木々は生い茂り、結果的に陽が当たらない、という事だ。途中までは大きめの道が整備されているようなので、そこを通って行こう。

「整備、って言っても、王都とは違って道が敷かれている訳じゃなくて、木を剪定してあるだけだけど……」

 目印になることは間違いない。多少凸凹しているが、石や倒木を避けながら歩かなくていい、というだけでかなり体力が温存できるだろう。ありがたいことだな、と思いながら、中心部を目指して歩いていく。

「陽が当たらない、というよりは、中心部に近い方が魔力を帯びた素材が多いだけのような……」

 道すがら、咲いている花や落ちている木の実、垂れ下がった葉などを見て、読んだばかりの素材の本を思い出す。幾つか、本で読んだものがあるな、と思いながら足を進めると、段々と植物の様子が変わり、素材としての価値が高い物が見られるようになったり、先程までの素材が群生するようになったりし始めたのだ。

「魔力を帯びた素材が生成されるには、自然由来の魔力が必要になるのかな?」

「何故そう考えた?」

「植物は、地面から取り入れた水や養分を元に成長するので、花自体に魔力があるのなら、土から水などと一緒に魔力を取り入れて成長したのかと……」

 鉱石の類は、基本的に金属の結晶であり、土が熱を受けたり、圧縮されたりすることで変質して石になるはずだ。つまり、魔力を帯びた植物と鉱物、どちらも採取できるこの森は、土自体が魔力を帯びている可能性が高い、と考えたのだ。

「……あれ?」

 そこまで考えたところで、自分のひとり言に問いかけをされたことに気付く。一人で喋っていた私の方が余程不審なので相手のことを不審人物とは決して言えないのだが、一体誰が、と勢いよく背後を振り返る。

「筋も通っているし、面白い発想だ。素材にしか興味のない者が多いが、誰か、研究したがる者もいるかもしれないな」

「え、あ、ま、魔導士様……?」

 そこに立っていたのは、全身真っ黒な服装をした魔導士様だった。フードを深くかぶっていて表情は良く見えないが、偶に見える常盤色の瞳が此方を真っ直ぐ向いていた。目が合ったかと思うと、魔導士様はにこり、と目元だけ僅かに微笑んだ気がする。

「採集日和だな、ルイーエ嬢。こんな森の深部に、女性が一人で来ることは感心できないが」

「……お久しぶりです、魔導士様」

 しかし、その声は低く、全く穏やかなものではない。前回、呪いの鑑定をお願いした際、わざわざ自分の時間を削って家まで送ってくださったような方だ。心配してくださっているのだろうが、少々気まずい。誤魔化すように歩き始めると、魔導士様は私の左側を歩き始めた。

「あの、魔導士様は、どうしてこちらに?」

 国立魔法研究所に勤めている様な人が、就業時間と思われる日中に森にいる理由は何だろう。そう思って尋ねると、魔導士様は深いため息を吐いた後、先程より一段低くなった声で答えた。

「…………急ぎの案件があり、森へ行くことになった。ついでに大量に採取を押し付けられたが、これも業務の一環だ」

「素材の採取もお仕事の一環なのですね」

「少し足を伸ばせば手に入れられるものを、わざわざ買う余裕はないからな。それにしても、頼み過ぎとは思うが」

「とても大きい籠ですね……」

 私も、工房で引き換えることができる物を買ったりはしない。魔法研究所の方々が欲しいと思うものは、もっと高価なものが多いだろう。それにしても、ついで、で頼まれたことの方が本来の目的より多くなるのは、世界が変わっても共通のようだ。ちょっと安心というか、ほっこりする。

「ルイーエ嬢は何を探しに?」

「フィンリー鉱石です。もう少し奥の方まで行って探そうと思っています」

「そうか。だが、ここから先は道が無いぞ」

「へ?」

 ぴた、と足を止め、前を見る。すると、目の前には鬱蒼とした植物によってできたアーチがあった。そこより奥は暗くなっていてよく見えない。道も、丁度自分の足元でなくなっており、正直言って今迄とは全く違う様相である。

「どうした、ルイーエ嬢。奥まで行くのだろう?」

 淡々と確認するような口調で問いかけてくる魔導士様を見上げる。逆光になっていて全く表情が窺えないが、僅かに首を傾げたのが見えた。私は深く息を吸い、言う。

「…………ご一緒してもいいですか」

 わずかな間の後、魔導士様は、構わない、と返事をしたのだった。


次回更新は5月13日17時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ、やっぱり魔術師様の方が相手?
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