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石を探して

「…………あぶない、寝る所だった」

 音が鳴ったお陰で目が覚めた。1ページ捲って、栞を挟んで閉じる。眠くなる文章をもう一度見て、寝てしまう訳には行けない。

「返事速いな。やっぱり、夜型なのかな……」

 いつもと同じ、真っ黒な封筒を開け、読み始めるといつもより字が崩れていることに気付いた。珍しい。聖女様も関わっている、と書いていたので慌てて返事を書いてくれたのだろうか。

「本当に慌てたみたい」

 挨拶も無しに、いきなり本題に入っている。聖女一行から依頼を受けたことについては文章内で触れられていないが、求めていた解答は簡潔に記されていた。フィンリー鉱石、と呼ばれる、真っ黒で平べったい鉱石が一番条件に近いだろう、と書かれている。

「一音ずつなら、音を伝えることができる鉱石……」

 フィンリー鉱石は、自然状態では何の変哲もない石だが、魔力を帯びさせると、同じ魔力を帯びた石に音を伝えるようになるらしい。そんな便利な石があるなんてすごいな、と続きの文章に目を通し、脱力した。

「ただし、最初に帯びた魔力と同じ魔力を流しながらでないと、音を他の石に飛ばすことはできない」

 つまり、一方向の通信しかすることができないという事だ。聖女様側から指示を出す分にはいいだろうが、他の人達からの通信は一切できないということになる。魔力の消耗自体は大したことが無いらしいが、魔力のコントロールが苦手だと音を伝えてから次の音を伝えるまで、時間もかかるという。

「送信側と受信側が完全に分かれるとなると……」

 洞窟内から出ていこうとする魔物を押しとどめる、となると、中央にいる聖女様よりも他のメンバー同士のやり取りが重要になる。そこをどうするかが問題だ。

「且つ、フィンリー鉱石が発する音は小さく、肌に触れていないと効果を発揮しない」

 討伐の様に、大きな音が出る場所にいる場合は、耳元にないと聞こえないかもしれない。直接接触させることを考えると、イヤリングやピアスよりも、イヤーカフに近い形の方が良いだろう。

「入手自体は難しくないが、王都から少しでた森に行く必要がある、か……」

 入手が簡単という事や、研究分野と違うという事情により、現在、B様を含め魔法研究所にいる人は誰もフィンリー鉱石を所持していないらしい。

許可が無くても森に入ることはできるが、野生動物が生息していること、慣れない人間が入ると迷う可能性があるので絶対に一人では行かないように、と書かれていた。一人では王都から出る自信もないが、だが、早めに入手しなければ期限までに作ることができない。

「明日は店がお休み……、行くとしたら、明日しかないけど……」

 他にも休みの日はあるが、製作時間を考えると明日には入手しておきたい。鉱石を探すのなら、明るい時間帯にした方が良いだろう。だが、ランバート様が来る日ではないし、他に案内をしてくれそうな人の宛てはない。日中は皆仕事があるのだ。

「…………迷わないように対策をしたら大丈夫かな」

 野生動物に関しては、お守りの石もあるし、アンクレットで認識を阻害することもできるのである程度避けることができるだろう。B様の忠告は有難いが、依頼を達成することが第一である。

「……行こう」

 明日の朝一番に薬屋に行って、傷薬か何かを買ってから向かえば何かあっても安心だろう。寝る前に支度をしておくとして、先に手紙を読み切ってしまおうと続きの文章に目を通す。

「あ」

 聖女一行のことについて、確認することもあるのでこの手紙を読み終わったら返事が欲しい、と最後に書いてあったのだ。途中から完全に森に行く為のことしか考えていなかった。若干、手紙を読み始めてから返事をするのが遅れてしまったが、単純に此方に手紙が来たことを気付かなかったと思ってほしい。

「ペン……」

 追伸として、ルイーエ嬢は本当にトラブルに巻き込まれやすいようなので、可能な限り大人しくしておいてくれ、と書かれていたが、これは必要なことなので仕方がない。と、心の中で言い訳をして返事を箱に入れた。


 翌朝、手紙はまだ受け取られていない、という事を示す光が箱から出ていた。普段は自分が手紙のやり取りを留めることが多いので、珍しいな、と思いながらも、確認することがあると言っていたので忙しいのかもしれない。

「よし、準備万端」

 持って行くのは水と軽食、そして毛糸玉だ。ある程度道に沿って歩けば大丈夫とは思うが、入り組んだところに行く場合に道標にできるように、何玉か持って行くことにした。

「おや、アユム。今日は出かけるのかい?」

「はい。ちょっと遠出してきます」

 大丈夫かい、とジュディさんが一瞬眉を顰め、私の方を見る。大丈夫ですよ、と笑顔で返せばジュディさんは納得したように頷いた。

「気を付けるんだよ」

「ありがとうございます」

 ジュディさんに声を掛け、昼食は外で食べることを伝えると笑顔で送り出される。私はリュックサックを背負い直し、まずは薬屋へと足を向けたのだった。


次回更新は5月12日17時予定です。

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