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栞の目

「ほうせきはめ、宝石は、め?」

 め、とは何だろう。駄目、という意味なのか、体の一部である目のことなのか。というか、どうして急に宝石のことを言ったのだろうか。

「……取り敢えず、喜んでもらえたみたいだから、よかった」

 ワイヤーアクセサリーが宝石のように見えたから思い出しただけなのかもしれない。気分を切り替えて、今日も一日頑張ろう、と店の扉を開けた。


 朝一番に注文を受けていた小枝ピアスをお客さんに引き渡し、人がいない時間にワイヤーを三つ編みにした指輪を作る。昼休みは素材の本を読んで、通信道具について考える。

 閉店してからも、注文を受けた商品と、幾つかの新しい商品を作ったら、すぐに本を開き、整然と並べられた文字に目を落とす。

「駄目だ、目が疲れてきた……」

 何枚かページを捲ったところで、ぴたり、と手が止まった。そのまま手を次のページではなく、目頭に移動させ、目と目の間を揉みほぐす。

「時間がないのに……」

 早く本を読みきってしまわなければ、と思うのだが、単調な説明が続くだけの文字列を追うのは中々に疲れる。

「楽しんで読むならいいけど、目的の文章を探すだけ、と思うと余計進まない……」

 本の内容自体は、面白い。魔法というのは私にとって不思議なものだし、そんな魔法に関連する性質を持った物も、当然興味深い。だが、しかし、深く読み込まず、且つ正確に情報を探すのは、普通に読む以上に集中力が必要なのだ。

「はぁ……」

 深く溜息をついて、もう一度本に目を落とす。先程まで見ていたあたりに目線をやり、違和感に気付いた。

「…………ぼやけて読めない」

 相当疲れている。諦めて一旦休憩にしよう、と栞を手に取る。ひんやりとした手触りが気持ちいい。少し触っていると、中央の石に指が当たる。

「金属製の栞に石が嵌められてるの、初めて見たかも」

 改めて栞を見る。中央に深緑の石があり、そこから左右上下対称に複雑な模様が広がっている。複雑なのに、全ての線が中央に集まってきているように見えるその形は、

「…………目、みたい」

 宝石は目、そして、栞の中央に配置された緑の石。日本でも蛇の目模様はよくある物なので、何かしらの意味があるのだろう。目のような模様をつけることで身を守る、とか。目にはたくさんの意味があるのだ。

「困った時は、見てみると良い……」

 助けになってくれる目、と、考えると、一つだけ思い当たる目が合った。この間の、国立魔法研究所の魔導士様の瞳も、緑色だったことを思い出したのだ。

「魔法についてのことは、専門の人に聞くことが一番」

 あの時の魔導士様にお願いしに行くことはできないが、B様に聞いてみるのは良い案かもしれない。自分でも本で調べているが、最終的に入手できなければ意味がないので相談するとなれば早い方が良いだろう。字を書くことで少しだけ、気分転換にもなるだろう。

「封筒は……」

 B様との文通が始まってからは、カウンターの引き出しを開ければすぐに封筒が出せるようにしてある。何時もと同じ封筒と便箋を一枚ずつ取って、最初に簡単な挨拶を書き、それから相談する文面を考える。

「……魔法付与ができることはランバート様から伝えてあるはずだけど、聖女様たちとの関係については全く知らせてないはず」

 と、なると、聖女一行から依頼を受けた経緯について疑問に思われるかもしれない。キアン様の件については知っている筈なので、あの時のバレッタに付与したことが原因と書いておくことにする。

「聖女様たちが、瘴気を祓う儀式の際に洞窟内でもお互いに連絡を取る手段を求めておられます。魔法付与で可能か試したところ、意思伝達の補助は出来ても音を伝える方法が別に必要だという事が分かりました」

 その為、音を伝達する性質を持つ素材について、心当たりがあれば教えて欲しい。と言った内容を手紙に書く。とはいえ、B様にも仕事があるだろう。忙しかったら無視してくれても構わない、と最後に書き添え、手紙に封をする。

「構わないとは書いたものの、本が駄目だったら、他に手段が思いつかない……」

 その時は、桐野さんに謝罪しよう。B様は素材については専門外かもしれないし、極力、自分の力で何とかしなくては。カタン、とアンティークの小箱が音を立てるのを、いつもより少し緊張しながら聞いて、小さく息を吐く。

「続き、読もう」

 先程よりは鮮明に文字が見えるようになってきた。今日中に読めるところまで読んでしまおう、と気合を入れ直し、説明文に目を通す。眠たくならないように、偶に声を出しながら読み始めたのだが、

「ネムネム鉱石。その名の通り、触れた相手や、見た相手に眠気を感じさせる鉱石。その色は見たものによって変わり、眠気を感じる色合いに変化する。また、直接触れると強い眠気を感じ、ネムネム鉱石という名前を聞くだけでも、眠気を、感じ……」

 段々と眠気に耐え切れなくなってきて、頭が下がっていく。瞼の動きも緩慢となり、意識が飛びかける直前、カタン、という音が聞こえたような気がした。

 

次回更新は5月11日17時予定です。

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