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難題への挑戦

 私は、日付が変わるまで後数分という時間に、1人工房で頭を抱えていた。依頼を受けてから、空いた時間を全て使って製作に取り組んでいたのだが、目の前に壁が立ち塞がってきたのである。

「魔法付与の効果は、あくまで、意思伝達の補助にしかならない、のかな……」

 依頼を受け、最初に試したのは、魔法付与の効果で通信機能を付けられるかどうかだった。壁に浮かぶ文字で確認したところ、意思伝達、という効果は付与できたのだが、効果範囲はアクセサリーが見える範囲内と狭かった。

「ピアスを付けている人と会話する際に、感情や意思を正確に伝える補助を行う……」

 幾ら作ってもそれ以上の効果は出なかった。魔法付与のスキルが成長すれば通信機能が付けられるようになるのかもしれないが、現時点では不可能ということはわかった。

「メインとなるものは、硬いものの方が伝達範囲が広いのかな……」

 次に取り組んだのは、意識伝達の範囲を広げることだ。ビーズ、組紐、ワイヤーで意思伝達を付与したブレスレットを作り、その効果範囲を表示する。結果、ワイヤー、ビーズ、組紐の順に効果範囲が広いことがわかった、

「素材によって付与効果の出やすさが違うのかもしれないけど、全部確かめる時間はないかな……」

 取り敢えず、付与するアクセサリーはワイヤーをメインとしたもので決定した。

「そこまではわかったけど……」

 どうしても、洞窟内で通信ができるほどのものが出来ないのだ。効果範囲を広げても、出来ることはあくまで意思伝達。音が少しでも届けば、正確な情報を伝達できるのだが、その音を届ける手段がない。

「早くも行き詰まったかな……」

 洞窟内で大きな音を出すのは危険だし、糸電話を持つわけにもいかない。無線通信機器があるのなら私に頼んだりしないだろう。

「でも、この国、魔法があるし、便利なものも探せばあるかも」

 だから、続きは明日頑張ろう。そう自分で自分を納得させ、今日の作業を終えたのだった。


 翌日、早朝の市場で魔法に関する本を探しに行った。素材を探し回る時間はないが、少しでも役に立つ情報を探す為だ。本ならば合間の時間に読むことができる。

「お嬢さん、魔法に興味があるのかい?」

 古本屋の中でも、特に人気のない店の本を手に取り、中を確認していると、奥からお爺さんが出てきて、声を掛けられた。

「ええ、魔法というか、道具に使われている素材が気になって……」

「そうか。だがなぁ、お嬢さんが今持ってる本より詳しく書かれたものはないよ」

 お爺さんが私の手元を覗き込んで言った。この本以外にも、魔法に関連する本は沢山あるのに、素材に関する本はないのだろうか。

「そうなんですか?」

「ああ。一般に出回る本は、簡単な魔法の使い方ばかりだ。素材の本は、それこそ魔法研究所にしかないよ」

「魔法研究所……」

 頭に浮かぶのは、国立魔法研究所だ。その時に入った魔導士様の部屋には、確かに大量の本が置かれていた。他の方々も、必要な本はそれぞれの部屋に置いているのだろう。

「必要以上の魔法を覚えようとするようなら、殆どが魔法研究所に就職するから問題ないのさ」

 ちなみに、この店以外は魔法に関する本自体を持っていないことが多いらしい。お爺さんは、魔法研究所に伝手があるので、そこで働いている人が執筆した本だったり、要らなくなった本を貰って売っているそうだ。

「教えてくださりありがとうございます」

「丁寧なお嬢さんだね、欲しいものは無かったっていうのに」

「いえ、こちらの本を買おうと思います。じっくり読めば調べたいことも分かるかもしれませんから」

 お金を払いながら頭を下げてお礼を言うと、お爺さんは一瞬目を丸くした後、にっこりと笑った。そして、私に手を差し出すように言った。

「何ですか?」

 お釣りは既にもらったはずだ。首を傾げながらも手を出すと、ぽん、とお爺さんが手を重ねたかと思えば、手の上に平べったい、板状の物が当たった。

「これは……?」

「オマケだよ。その本を読む時に使っておくれ」

 お爺さんが渡してきたのは、小さな緑の石が中央に嵌められている、銀色の栞だった。複雑な模様が描かれた金属製の栞なんて、この国に来て初めて目にする。

「こ、こんな綺麗な物を……?」

 どう見ても、オマケとして渡すような物ではない。中央に嵌っている石は小さいながらもしっかりと輝きを放っているし、栞の上のリボンも光沢があり、手触りもいい。

「まあまあ。元々、その本を買う人に渡そうと思っていたんだ。気にせず持って帰っておくれ」

「……わかりました、ありがとうございます」

 躊躇うものの、お爺さんが良いと言っているのなら、と最終的に受け取ることにした。今度こそ、と小さく頭を下げて店に背を向けると、後ろからお爺さんが声を掛けてきた。

「そうそう、困り事があったら、その栞をよぉく見てみるといいよ。きっと、お嬢さんの力になってくれるだろうから」

「え……」

 どういう事ですか、と店を振り返る。が、振り返った先には、レンガの壁と道しかなく、本が並んだ店も、お爺さんも、消えていたのであった。

次回更新は5月9日17時予定です。

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