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置いてけぼりの異世界ハンドメイド  作者: 借屍還魂


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七分の二

 覚えていませんか、と言われても、すぐに女性について思い出せることは何もなかった。しかし、相手は確実に何かを知っている様子なので、此処で帰ってしまわれるのは不味い。にこりと意識的に笑顔を浮かべて、引き留めるための言葉を口にする。

「お客様、ご注文の商品について詳しくお話をしたいのですが、お時間は大丈夫でしょうか?」

 話をしたいのは商品のことだけではないけれど、と心の中で付け足す。相手の女性もその位のことは分かっているようで、にっこりと笑顔を浮かべて返事をした。

「大丈夫ですよ。このお店、お昼休憩の時間がありますよね。その時間まで商品を見ながら待ちます」

 初めて来店したはずなのに、昼休憩があること、休憩時間がもう少しで来ることを知っている発言をされ、内心驚く。どう考えもてもいい話ではなさそうだな、と少々気が重くなるのを感じながら、昼休みを時間通りに始める為、次のお客さんの注文を聞くのだった。


「…………他のお客様は帰られました。ご注文されたい商品について、お話を伺っても宜しいでしょうか?」

 今日のお客さんは常連が多かったこともあり、昼休みの少し前から段々と人が減り、昼休みの開始時間には一人の女性を除いて他のお客さんは誰もいないという状況になっていた。

「ええ、お話します。その前に、帽子を取っても良いでしょうか?」

 今迄、店内でも取っていなかった帽子を今更取るのだろうか。しかも、わざわざ私に宣言をするなんて。別に店内で帽子を被っていることに関するルールなんてないので好きにしてほしい、と思いながら返事をする。

「?はい。どうぞ」

よくわからない行動に疑問を抱きつつ、女性が黒い帽子を取る様子をじっと見つめる。三角帽子ともソンブレロとも言えない、不思議な形状の帽子を女性が取ると、お団子に纏められた、真っ黒な髪の毛と、アメジストのような紫色の瞳が視界に突然現れたように感じた。

「これで、思い出しませんか?」

 店で声を掛けられた時と同じだ。ずっと視界の中には会ったはずなのに、何故か認識できないというか、意識できていなかったものが見えるようになる感じ。そして、はっきりと認識できるようになった女性の顔には、確かに、見覚えがあった。

「…………桐野、桂さん、でしたよね」

「はい。お久しぶりです」

 忘れるはずもない。彼女、もとい、桐野桂さんは、私と同じ時に、この国に召喚された人物なのである。聖女様の後にスキルを鑑定する予定だったのだが、聖女が見つかった瞬間宴の話に代わってしまったため、彼女のスキルだけは知らない。

「貴女は聖女様と一緒に旅に出たと聞きましたが……、どうして此処に?」

 先程まで認識できなかったのは、彼女のスキルによるものかもしれない、と警戒する。先に城を出た彼女たちが、私の行動をどれだけ把握しているかはわからないが、放置するのではなく、わざわざ会いに来たという事は、何か用事があってのことだろう。

「最初に言った通り、依頼の為です。次の討伐が、少々難しい物でして」

「討伐?……ああ、瘴気を祓う儀式のことですか?」

 突然出てきた物騒な言葉に驚く。城で聞いた限りでは、聖女が瘴気の発生源に赴き、儀式を行うことで瘴気は出ないようになる、という話だったからだ。異世界人は瘴気への耐性もあるので、発生源に近付いても大丈夫だと。

「そうです。最初は瘴気を祓うだけって聞いていましたけど、瘴気が出てくる場所って、必然的に魔物も沢山いるんですよね。聖女様が瘴気の原因を完全に祓うまで、ひたすら魔物と戦わないといけないので、討伐って言うことにしています。聖女様自身は儀式の間、【聖域】の効果で襲われることないんですけど、生命の危機を感じるのか魔物が一気に凶暴化するんですよね」

「大変、ですね。それで、その、討伐の為に必要なものというのは?」

 何となくそんな気はしていたが、殆ど詐欺である。戦闘経験もない女性を言いくるめて戦いに行かせるとは、この国の上層部はやはりろくでもない人間の集まりなのだろう。

「通信ができる道具です。次の討伐は洞窟に行く予定なのですが、問題は、その洞窟は出入り口が幾つもあり、その出入り口の近くには街があるという事なんです」

「…………洞窟の最深部で聖女が儀式を行うと、凶暴化した魔物が洞窟から外へ向かい、街が襲われる可能性が高い。それを防ぐために、分散して魔物と戦う必要があるので通信手段が必要になった、という事ですか?」

「その通りです」

 事情は理解した。それは、通信手段が無いと大変だろう。だが、私の店に来る理由にはなっていない。そもそも、彼女たちは私が城から出て店を開いていることを知らなかったはずだし、作った作品に魔法付与できることも知らないはずだ。どこから情報を手に入れたのか、それが問題になる。

「事情は分かりましたが、それで、どうして私が、通信ができる道具を作れると判断したのでしょうか?」

「貴女のスキルが【工房】だという事は分かっているので、道具に関する技能があると予想したことと、私たち、といっても、他のメンバーは、ですが、今、ネイジャンに滞在しているんです」


次回更新は5月7日17時予定です。

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