表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/218

自由な形

 カフェを利用するお客さんが落ち着き始めると、今度は私の店の方に人が集まり始めた。お目当ての品は勿論、新発売の小枝ピアスだ。

「可愛いですね!!」

「こっちのリースの方も可愛い!!」

 新商品のお披露目がメインであり、まだ在庫も十分に無いということで、本日は新商品の注文は受けるだけで、展示している商品の購入はできない、と説明している。

「店長さん、これ、他の色はありますか?」

 どうしても今日買いたい、というお客さんが出るのではと不安に思っていたが、この店に来る人はそもそもオーダーメイド製品を求めている。危惧していた事態が起こることはなく、店内は穏やかな雰囲気に包まれている。

「はい。現在、ワイヤーは金と銀が、ビーズはあちらのポップに書いてある種類と色のものはいつでもございます」

「それなら、銀色のワイヤーに水色のビーズで作ってもらえますか?形はリースで!!」

「あ!私は金色に濃いピンク、形は逆三角形で。明日の午前中に受け取りできますか?」

「畏まりました。明日の開店時間にはお引き渡し可能ですので、都合の良い時間にお越しください」

 最初のお客さんが注文をしたことで、更に小枝ピアスに注目が集まり始める。静かに見たいお客さんもいるので、カウンターで待機していると、お客さんの1人がカウンター内側のテーブルを覗き込んできた。

「どうかされましたか?」

「いえ、あの、その羽根は……?」

 どうやら、トッド君とターシャちゃんのために作った羽根の飾りが気になったようだ。並んでいる時にカウンターの中が見えたのだろう。ワイヤー作品に興味を持ってもらえる良い機会だ、と笑顔を浮かべて説明を始める。

「此方も、ワイヤーを使った製品になります。小枝ピアスとは違い、ワイヤーで作ったモチーフがメインとなる作品です」

「ワイヤーでこんな形が作れるんですか?」

「はい。細めのワイヤーはペンチで曲げて中に形を作ることができます。一筆書きできるモチーフ、例えば、ハートや星、単純なものでしたら文字や単語も可能です」

 強度や太さによってある程度の制限があるとは言え、ワイヤー作品は圧倒的に形の自由度が高い。思い通りの形を作ることができる、といえるだろう。

「ビーズと組み合わせることはできますか?こういう、根元にあるのでなく、モチーフの中にビーズがあるというか……」

 羽根の飾りは、羽根の付け根部分にビーズがある。今回はそういうデザインにしただけで、別に羽根の途中にビーズを通すことはできるので頷く。

「勿論です。例えば、ワイヤーを三つ編みにして、その間にビーズを組み込んだ指輪やブレスレットも素敵ですよ」

「色々あるんですね……」

 後は、ワイヤーを波型のように曲げて、指輪の形にするシンプルな物も可愛いだろう。説明をすると興味深そうに目を輝かせるが、突然、ぴたりと動きを止めた。

「折角説明して頂いたのに、申し訳ないんですけど、やっぱり、実際に見るまで買うかどうかは決められないというか……」

 申し訳なさそうに頭を下げられ、ハッとする。私は完成形を想像しながら話をすることができるが、お客さんは小枝ピアスなどのワイヤーアクセサリー自体、見るのが初めてなのだ。口頭で説明されても、具体的に想像することは難しいだろう。

「此方こそ、申し訳ございませんでした。是非、店頭に並んだ商品を見て頂いてから、ご購入を検討して頂けると嬉しいです」

「……はい!!楽しみにしていますね」

 説明をしてもらったから買わないといけないのではない。本当に欲しいと思ったら買って欲しい、目を見て謝罪すると、その気持ちは正確に伝わったようだ。お客さんは安心したように笑った。

「先程の説明の中で、特に興味のある商品はございましたか?」

「三つ編みの指輪、というものが気になりました」

「近日中に店頭に並べますので、またお越しください」

「はい」

 お詫びと言ってはなんだが、気になる商品を早めに店頭に並べてみてもらおう。そのお客さんは笑顔で帰って行ったので一安心だ。

「すみません、店長さん」

 先程のお客さんの後ろに並んでいたのか、視界に突然、大きな帽子を被った女性が入ってくる。黒いとんがり帽子とソンブレロの中間くらいのデザインの、不思議な帽子だ。

「はい。如何されましたか?」

 こんなにも目立つ人なのに目の前に立たれるまでどうして気付かなかったのだろう、と思いながら返事をすると、女性は、にこりと人の良い笑顔を浮かべた。

「ちょっと難しい商品を依頼したいのですが、よろしいですか?」

「はい。どのようなものをお求めですか?」

 紙とペンを用意しながら聞き返すと、女性は一瞬目を丸くした後、声のトーンを落とし、周囲の人には聞こえないように、口元に手を当てて言った。

「……他の人に聞かれない方がいいと思いますけど、どうしますか?」

 類家歩さん、とはっきりと名前を呼ばれ、驚いて女性の顔を見る。すると、覚えていませんか?と女性は笑ったのだった。

次回更新は5月6日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ