コラボ企画
さて、トッド君からはターシャちゃんの分だけを作るように頼まれたが、ターシャちゃんは気にするだろう。とはいえ、全く同じものを作るのは面白みがないし、自分の事は気にせず好きなものを買ってほしい、というトッド君の思いに反することにもなる。
「ターシャちゃん用のアクセサリーを作って、一応、トッド君の分も別で用意しておくかな」
先程、小枝ピアスについて話を聞いた時に分かったが、ターシャちゃんはピアスが欲しいのではなく、ちょっと大人っぽいデザインに憧れていただけだ。主役となるビーズが決まっているデザイン、というべきか。
「モチーフは羽根にするとして、最終的に何にするかが問題か……」
指輪、ブレスレット、ネックレス。ピアスは無理で、イヤリングはバネ部分の技術がこの国でも再現可能なのかちょっと不安だ。
「でも、ピアスを見てたなら、耳に付けることができた方が……」
その時思い浮かんだのは、イヤーカフだ。穴を開ける必要が無く、耳に付けることができるアクセサリー。完全に輪になっているのではない、C型の指輪としても使える物も多い。サイズも調整しやすいので、まだまだ大きくなるターシャちゃんにピッタリではないだろうか。
「トッド君は、ペンダントトップだけ作っておこう」
同じデザインで、違うビーズを使って羽根を作る。それを指輪ではなく、ペンダントトップの様に他の物に付けられるようにしておけば、チェーンに通してペンダントでも、キーホルダーにもできる。
「色味にもよるけど、革紐でブレスレットを編んで、チャームにしてもいいかも」
我ながらいい案だと思う。今日の営業が終わったら早速作ってみよう。それにしても、そろそろ営業開始時間だというのに、三階に上ってくる人の気配が全くと言っていいほど無い。
「…………今日、休日の告知した?」
最近は不定期に休日を入れることがあったので、休みだと思われているのかもしれない。不安になって階段の方を見に行くと、カフェは既に開店しており、下から人の話し声が聞こえてきている。
「……そんな日もあるよね」
特に注文もないので、朝一番に受け取りに来る人もいない。お客さんが来るまでは作業をしておこう、と銀色のワイヤーとビーズに手を伸ばす。
「ターシャちゃんはピンクで、トッド君は青色かな」
先に作るのはターシャちゃんの分だ。今回は、C型リングの片端にビーズが根元にある羽根が付いているものを作る。
「羽根……」
最初に作るのは、羽の部分だ。羽根のデザインをまずは紙に書く。トッド君とお揃いのデザインにするなら、羽根の先をシャープにした方が格好良さも出て良いだろう。
「よし」
一筆書きで書けるデザインなら、ワイヤーで同じ形を作ることができる。後は紙に書いた形に沿って曲げるだけだ。
3段の羽根を作り、その根元にピンク色のビーズを固定する。後は残りのワイヤーを輪になるように筒に当てながら形を作り、反対の端に小さなビーズを通して丸める。
「うん、可愛い」
ターシャちゃんの羽根は右向きなので、トッド君の羽根は左向きにして作り、こちらは後から丸カンを付けられるようにする。ビーズの色が違うこともあり、同じモチーフでもかなり印象が違う。
「…………それにしても、お客さん来ないな」
そこまで時間が掛かった訳でもないが、作品を二つ完成させても誰も来ない。次の作品を作っても良いが、あまりに人が来ないので不安になってきた。
「様子、見に行こう」
階段を降りていくと、カフェブースはかなり混雑していた。ジュディさんは注文に配膳、片付けを次々とこなしているがお客さんが入るスピードの方が早く、キッチンのカルロさんも手を動かし続けているのに注文票が無くなることはない。
「これは……」
「「アユム〜!!」」
「2人とも、どうしたの?」
人混みに驚いていると、カフェの入り口の方に立っていたトッド君とターシャちゃんが此方に走り寄ってきた。
「おきゃくさん、いっぱい……」
「たると、たくさん」
「「れつ、ぐちゃぐちゃ」」
新発売のタルトを注文する人が殺到しており、2人は入場整理を任されたらしい。しかし、あまりに人が多いことと、2人が小さくてお客さんから見えないことから、段々と列が崩れてきてらしい。
「最後に並んだ人が誰か、覚えてる?」
「わかる!!」
「さいしょのひともわかるよ」
日常的にカフェの手伝いをしているからか、2人とも人の顔を覚えるのは得意らしい。順番も覚えているようなので、2人の記憶に従って列を整理していく。
「アユム、悪いね」
「こっちの店にはお客さんが入ってないので、大丈夫ですよ」
それにしても忙しそうですね、と言うと、ジュディさんは回転率が低いんだよ、と笑った。
「ケーキの食べ比べをするお客さんが多くてね。もう少ししたら落ち着くとは思うんだけど……」
開店直後に来たお客さんがまだ食事中らしい。改めて店内を見渡すと、私の店にも来たことがある人が数人いることがわかった。
「あ、店長さん」
「食べ終わったら新商品みにいきますね!」
目があった2人組の女性客に声をかけられる。コラボ作戦自体は成功しているようで良かった。
「お待ちしております」
にっこりと笑って会釈をし、もう少しだけ、カフェの手伝いをすることにしたのだった。
次回更新は5月5日17時予定です。