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情報制限

 キアン様が帰国された後、その後も暫くの間、かぎ編みの花は流行した。注文が落ち着き、完全に平常営業になるまで1週間程掛かった。

「……何だろう、この、物凄く高そうな封筒」

 かぎ編みの花を使用した商品を含め、全種類の商品が常に店頭に並ぶ状態を維持できるようになって数日。店の入り口ではなく、私室に手紙が入れられていた。

「…………扉に貼ってあったと言うことは、私室の位置がわかっていた人、かな」

 私室に勝手に入らないように、配慮はしてくれたのだろう。高級そうな封筒は、金箔の入った蝋で封がしてあり、どう見ても普通のものではない。

「心当たりは一つしかないけど……」

 開けると、中からこの国とは違う、香辛料のような香りがした。中には便箋が2枚と小さな正方形の紙が1枚あり、片方は見慣れない言語で、もう片方はこの国の言語で手紙が書かれていた。

 見慣れない言語は、ネイジャンの言葉。差出人は勿論、キアン様だ。

「内容は同じみたい、かな」

 細かいニュアンスが違うといけないので、自分の言葉で書いた手紙と、此方の言語に合わせた手紙を両方送ってくれたらしい。

「店主へ……」

 内容は、お母様に髪飾りを渡すと喜んでもらえたこと、そして、他の贈り物にも反応を示したこと。その日以降、徐々に反応が増え、筆談混じりだが、自分で症状を医者に説明できるまで回復したらしい。

「僕のメッセージカードも読んでもらって、毎日、文通のような形にはなるが、会話ができている」

 感謝している、と手紙には書かれていた。役に立てたのなら何よりだ、と思って手紙を閉じようとすると、紙の裏側、それも、下の方にもう一枚、紙を重ねて貼ってあることに気付いた。

「メッセージカードを作る時に、仕掛けの作り方も教えたから、それかな?」

 その部分をみると、そこには、衝撃的な言葉が綴られていた。

「本当にありがとう、アユム」

 どうして名前が、と一瞬思ったが、すぐに薬屋のことを思い出す。店に来た時に気付いていたかは分からないが、同一人物だと言うことに気付いたのだろう。

「そこは問題ないけど……」

 まだ文章が続いているのが怖い。続きには、お母様が回復してすぐ、ネイジャンに聖女一行が来たことが書かれていた。

「…………聖女の動向って、今迄何も聞いたことがなかったな」

 と言うことは、ネイジャン付近で瘴気を祓ったのが最初の大仕事ということなのだろうか。いや、この国の近くも瘴気が発生していて大変だったはずだ。

「どうして今迄、国内で聖女の話を聞かなかったのに、今、キアン様から情報が?」

 それに、ただ世間話として伝えるなら、手紙の表部分に書けばいい。何故、こんな隠れるような場所に書かれていたのか。少し嫌な予感がする。

「そちらの国では聖女に関する情報が制限されているようだが、我が国では聖女と、その仲間は国を挙げてもてなし、動向を大々的に伝えて民衆を安心させる風習がある」

 そのため、聖女とその仲間に関する特徴に関しても詳しく伝わっている。彼女らは、漆黒に近い色の髪を持つことが多く、そして、この世界の人とは違う常識や知識を持っている、と。

「……もしかして」

 危惧した通り、キアン様は私が異世界から来ていると気付いたらしい。だが、他の人に伝えるつもりは無いという。

「異世界から来たことが判明して、困ったらネイジャンに来るといい、か」

 事情は殆どバレているようである。この手紙を置く時にでも、情報収集されたのだろうか。

「キアン様は純粋に気を遣ってくださっているみたいだけど……」

 問題は、そこまで言われているこの国である。聖女に関する情報の制限、そして判明したら困る、というキアン様の書き方。何か面倒な事情があるのは確実だろう。

「細々とやっていくしか無いかな……」

 今のところ、貴族の方がこの店に来ることは殆ど無い。此方の店は安価で目新しいアクセサリーを作ることが売りなのだから。

「そういえば、そろそろ新しい商品を出したいな」

 注文が続いていたので、新商品開発の余裕がなかった。が、キアン様の依頼も良い形で終わったようだし、新しいジャンルに手を出すにはいい機会だ。

「そうと決まれば早速、【工房】」

 まずは、ポイントの確認。作ってばかりで確認していなかったが、壁を見るとかなりのポイントが貯まっていることがわかった。

「工房スキルポイントが、9000越え?」

 編み物は1万、特殊効果である魔法付与も600ポイントほど獲得し、魔法付与2から5に成長している。これで出来ることが増えたのだろう。

「次に作るのは、何にしよう……」

 糸があるので刺繍をしてもいいが、この国では植物や鳥の模様は貴族がそれぞれ家の紋章として使っている。迂闊に刺繍をしてはいけないし、ブローチくらいしか思いつかない。

「なら、ビーズを使えるもの、となると……」

 ビーズも利用し、今まで以上に様々な形を表現できるもの。今までは指輪やブレスレット、ネックレスがメインだったが、そろそろイヤリングなども作りたい。そう思うと、次のジャンルは。

「ワイヤーアート、かな」

次回更新は4月30日17時予定です。

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